第1話 遭遇
地図を指で追っていくと、先には林があった。
と言うより、既に林っぽくなってきている。
「そうそう、この辺り林賊が出没するようになったそうですよ」
ネオンが口を開く。
物騒になったモンだな……いや、元からか。
後ろを振り向くと、ノトスは顔を真っ青にしてガタガタ震えていた。
「…ノトス、俺達の間に入れ」
そう言ってやると、小刻みに頷きながら間に入ってきた。
……仲間が居なければ、こんな心配をしなくて済むのにな……
「行くぞ」
林に入って10分程経った頃、空気が張り詰めてきた。
つまり、例の林賊とやらがいつ出てきても可笑しくない、と言う事だ。
周囲に視線を向けながら、先へ進んで行く。
呼吸と木々がざわめく音、そしてぬかるんだ足音しか耳に入って来ない。
口を開く奴は一人として居なかった。
シュッ!
「ッ!!」
風切り音が谺する。
矢が狙ったのは――ノトスだ。
剣を振り抜き、矢を弾き飛ばす。
「ノトスを囲めッ!」
怒号を飛ばし、俺達はノトスを中心に背を合わせた。
「さっきの矢…麻酔か毒が塗られていました。林賊か傭兵狩りか…」
ネオンが囁く。
「気を付けろ。相当な数だぜ」
続いてリギギ・ラグガ。
俺達は身構えた。いつ襲われても良いように――と、思っていたが…
「!?」
藪や木々の間から出て来たのは……子供達だった。
武器の使い方もまるで知らないような、幼い子供達…
「ど…どういう事なの…?」
「…まさか…傭兵狩りか…!?」
「おいおい、何してくれてんだよクズ共」
そう言って現れたのは、子供達を仕切っていると思われる奴…ゲコガシラ。
「全く…どんだけ使いモノにならないのかなぁお前達は」
一人の子供に近付いたかと思うと、短剣で心臓を一突きにしやがった。
子供は…悲鳴一つすら上げずに、胸から鮮血を吹き出して倒れた。
ブツッ
俺の中で何かがブチ切れた。
クソ野郎は俺達を振り向く。
「…ん?君ら……最近有名になってる傭兵かな?」
ギャァキィィィン!間髪を入れずにクソ野郎の懐に潜り込み、剣を振り抜いた。
しかし、子供の心臓を一突きにしやがった短剣で防がれてしまった。
チッ、と舌打ちをし、距離を取る。
「危ないなぁ。初対面の相手に対する挨拶がそれなんて…」
余裕の表情で立て直す。
それが又、俺の怒りを募らせる。
「テメェ…名乗りやがれ」
「ああ、自己紹介が済んでなかったね。俺はマールス…傭兵狩りの一員だ」
「ああそうか、なら…」俺が喋り切る事は無かった。
「うわぁぁぁッ!」
俺の後ろで、悲鳴が上がった。
慌てて振り向くと、カルロスやノトス達が捕まっていた。
頼みのリギギ・ラグガは頭から血を流し、地面に倒れている。
幸い死んではいないようだが、安心は出来ない。
――俺は気付かなかった。
後ろを心配していたせいで、前に敵が居る事に。
ガッ!
「ぐッ…!?」
俺は朦朧とする意識の中、最後に見たのは必死に暴れるカルロス、ネオン、ノトスの
姿だった――。