動く盤上の駒
「えっ?何それ…。」
「あぁ、俺もよく分かんないけど、噂でそんな名前を聞いたことあるような気がする。」
「ふーん…。」
再び二人で考え込むが、やはり思い宛が無く諦めざるを得なかった。
「そのへん、調べといてやるよ…///」
JOKERは囁くぐらいの声量で恥ずかしそうに言った。そのとたん、CHERRYの顔が明るくなった。
「いいの?」
「お、おう!じょ、情報掴めたらムゥークに手紙持たせるな///」
「うん!」
まるで純粋な少女のような可愛らしい笑顔を、JOKERに見せつけた。彼は頬を紅く染め、そっぽを向いた。
半時がたった頃、彼女とチエラはそこをたとうとしていた。束の間の羽休めは終わりだ。また、激戦地へ乗り込もうとしているのだ。
寂しさ感じさせる問いをした。
「もう、行くのか?」
「うん…。時間も時間だしね。」
「そうか。仕方ねぇな。」
笑顔で彼は返した。無理があるように彼女には見えた。そんな、空気を変えるかのよう、チエラたちに話を振った。
「チエラ、ムゥークに挨拶した?」
「……」
「……してないんかい。」
「まぁ、いいんじゃない?喧嘩するほど仲がいいって言うしな。」
「そうかな?この場合は違うと思うけど……。」
そう言うと、彼女はバイクに跨り、ヘルメットを慣れた手付きで被った。
「んじゃ、またいつか。JOKER君!」
「お前もな。」
二人はそう言い、微笑を交わした。そして、彼女はそこを立ち去っていった。JOKERは彼女の姿が見えなくなるまで見ていた。見えなくなると、ムゥークに言った。
「さて……ムゥーク、ちょい手伝って。」
「……!」
これはまだしも光が残る世界でのことだ。本当に暗い闇が続く世界があったのだ。
「どうだ。ポケモンの生態実験の方は。」
「えぇ、うまくはいっているほうかと。心配はご無用です、総裁。」
「そうか……。ところで衛星は姿を捉えたか?奴の。」
「はい、先程発見しました。ある小屋から出たところを。現在、バイクで移動中のようですが、行き先は方角的にラグナルかと……。しかし、何故あの女を?」
「簡単に言えば、珍しいからだな。女一人で行動して、生存者を助けようなど。いまさら、無理なことを。それに……奴もその女の場所へたどり着いたようだしな。どこかで、野垂れ死にでもしているのかと思っていたが……しぶといな。」
「何を……お考えで?」
「………。」
「……。」
「紅色に染まった盤上の駒を動かすチェスは面白いことだとは思わんかね?」
「えっ……。そうですね…。私にはそんなに規模の大きいチェスは出来ませんよ。」
「……あと、もう一人は……。」
「喰らえ!!!凍てつくようなこの矢を……!!」
世界にはたまに偶然がある。この世界にもまた偶然が起ている。CHERRYともう一人、正義の戦士とされる人物は存在した。その者は、敵と孤独と、そして過去と……。戦っている。だが、まだCHERRYたちと逢うのはまだ先のようだ。
さっきの会話の意味。そして、いまだ嘗て無い光差す進展。
運命の歯車が動き出す……のは、まだ少々時間が掛かりそうだ。