ポケモンとの絆で…
三河・徳川領…
日ノ本を絆の力で治めようと日々努力を尽くすもの…。太陽と例えられる、徳川家康。そして、彼の無敵の部下、本多忠勝…。彼にも、もちろん相棒となるポケモンがいる。……はずだった。現在、彼は何故かポケモンを従えていない。その部下たちにもいない…。それは過去に秘密がある。一体、何があったのか…。
竹千代「ちちうぇ〜、用とはなんですかぁ〜?」
幼き家康。まだ四つで竹千代と呼ばれていた。彼はまだ一人の武将ではない。竹千代の父が治めていた頃である。竹千代は父に呼ばれ、付き添いの者に連れられてきた。何故だか分からない竹千代は落ち着きのない様子で父に問う。父が口を開いた。
父「竹千代、そなたにポケモンを授ける。」
竹千代「?ポケモン…?」
父「そうだ。…まだ早いかもしれぬが、そなたにはそのポケモンと共に成長して欲しいのだ。」
竹千代は少し意味が分からなかったのか、ちょこっと首をかしげた。すると…、
父「これだ…。」
父が渡したのは、上が赤で下が白。なにやら、ボタンのようなものもあり…。謎の球体を手渡された。余計に分からなくなり、とりあえずいつも球遊びするような感覚で投げてみた。
竹千代「わぁ…!!お、驚いた…。」
次の瞬間、ボールから出てきたのは……見た感じ普通の熊。茶色くて小さくて爪があって…ただ変わっているといえば、おでこにある三日月模様だけであった。
父「それは、ヒメグマというポケモンだ。」
ヒメグマ…。炎タイプでもなく水タイプでもないノーマルポケモンである。
竹千代「ちちうえ…これは熊ですかぁ?でもでも、頭にお月様がありまする…。しかも、『ヒメグマ』などぉ…熊はいさましいのに、何故『ヒメ』などという名がついているのですかぁ?」
竹千代が質問攻めをする。竹千代が教えられたポケモンというのは、犬猫とは違い、見た目も力も違うと言われていた。竹千代の父が連れているドダイトスも全く違うし、力も、竹千代が潰れてしまうほどである。そういわれると、無理もない。父は立ち、竹千代を抱っこし、こう言った。
竹千代「ちち、うえ…?」
父「竹千代、そなたはこの父よりも大きく立派に育たねばならぬ。日ノ本を統一しようとする前に、まずポケモン…一生共にいる「友」として絆を結ぶのだ。それをなくしては、天下人にもなれない。自らポケモンに向き合い絆を育てるのだ。」
父はとても大切なことを言ったのだが、竹千代には難しくて理解ができなかった。が、それなりの理解はしたらしい。その証拠に大きく返事をした。
竹千代「はい、ちちうぇ。」
父は小さく頷いた。
その後、竹千代はすくすくと育ち、『家康』と改名した。ヒメグマとの絆もどんどん深まっていった。部下との仲もどんどん深まり、本多忠勝が隣に就くようになった。
ある日……。家康とヒメグマは景色の見える草原に行った。城下の様子も見え、花々と木、草も生き生きと茂っていた。
家康「ヒメグマ〜!こっちだ!」
ヒメグマ「……!!【い、家康様…足速いよ(汗)私、足短いからあまり走れない…】
晴れ渡る空の下。爽やかな風も吹き、とても気持ちがよかった。二人並んで寝転がって空を見上げる形となった。
家康「ヒメグマ、おめぇ、わしのもとにいて楽しいか?」
ヒメグマ「……!?【えっ……!?家康様?】」
ヒメグマに話かけたかと思えば、真顔で質問をした。いままで共にいて、楽しく、順調にきたと思っていたヒメグマにとっては、逆に疑問を抱いた。
家康「……急に変なこと言ったな。」
ヒメグマ「……【っ…。】」
家康は少し話を変え、話始めた。それは幼い頃に言われた父の言葉だった。
家康「いやな……わし、ちいせぇ頃に言われたことがあったんだが…ほとんど忘れちまってな。でも……一つ覚えている。『自らポケモンに向き合い絆を育てる』と…。たぶんな、そんときが、わしとおめぇとの初めての出会いだった。」
ヒメグマ「……【…うん。私もそれを聞いていた。モンスターボールから出てきていきなりのことだったから、驚いたけど…】」
家康「それから、もう数十年…。おめぇもわしもいろいろなことで成長して、そして今は三河を治める大名だぁ。でも、改めて思った。おめぇとの絆は、どれだけ成長したのか…。」
そのとき、風が一瞬ぴたりと止まった。それは、ヒメグマの心のうちを表しているかのようであった。
ヒメグマ「………【家康様と私の絆…。それは皆よりも地よりも濃く深いもの。それは絶対。なにか、それを表現できないかな…。ポケモンだから、大胆なことはできないけど…】」
ヒメグマは考えた。すると、家康の上にちょこっと乗っかり、顔を猫のようにぺろぺろと舐めた。
家康「わ、わははは!!///く、くすぐったい///」
家康は顔を舐められてくすぐったいのか、じたばたとした。家康は感じた。ヒメグマの答えを…。ヒメグマを持ち上げ、顔を見て言った。
家康「ヒメグマ…おめぇの答えはよく分かった。わしとの絆はとても深いもんだ。これからもよろしく頼むぞぉ!!」
ヒメグマ「……!!【い、家康様…!!】」
二人の絆はまた一層と深くなった。まるであの日の家康と父のようであった。
家康「はぁはぁ…!!ひ、ヒメグマ…!!どこにいる!?」
その運命の戦は突然やって来た。家康の軍は壊滅状態になった。生き残った者は二十数名とわずか…。戦は始めから劣勢で、敵軍は力押しで挑んできた。家康は軍のこと、兵のことをやる前に、自分のことを守るので精一杯だった。そのせいか、ヒメグマともはぐれてしまった。戦が終わってから戦場を駆け回った。ヒメグマの姿は一向に現れない。すると、死んだ兵のなかにポケモンの姿が在った。
家康「ひ、ヒメグマぁ……!!」
ヒメグマは疲れ果ててぐったりと倒れていた。家康は自分の胸の中へ抱き込み、まるでぬいぐるみを扱う少女のようになった。家康の目から水が流れ落ちた。
家康「わ、わしはおめぇ……!!己のことばかり守って、おめぇを守ってやれなかった…!!」
ヒメグマは弱って、意識が薄れていたが感じていた。家康が小刻みに弱く震えているのだと。ヒメグマは家康の目から流れ落ちるそれをぺろぺろと舐めた。
家康「っ……!」
ヒメグマ「……【家康様……泣かないで…。泣いたら、私まで、泣きたくなってくるじゃ…ないですか。】」
草原で示した絆の深さ。あの時とほぼ同じ様子だったが、状況は全く違っていた。ヒメグマは優しく微笑んだ。
ヒメグマ「……【貴方は…私がいなく、ても…家臣の皆さんがいなくても…一人で、歩みを進めていかなければ、なりません…。私と貴方が築いた絆を、貴方様がこれからの日ノ本に示していってくださ…い。】」
ヒメグマは閉じてしまいそうな目で、訴えた。そして…
家康「ヒメグマ?ヒメグマ!!ヒメグマぁ――――!!」
家康の気づいた頃にはヒメグマの意識が途絶えていた。そして、その家康の悲痛の叫びはその戦場に響き渡った。
その後…。家康はボーっとするようになった。名前を五回くらい呼ばないと返事をしなくなってしまった。ヒメグマの失ったそこの心の穴はぽっかりと開いてしまったのだ。相当のダメージだったらしい。部下たちは皆そう思っていたが、一番近くで見ていた忠勝は毎日のように感じいっていたはずだ。
ある日、家康が書状を書いていると、忠勝が入ってきた。
家康「忠勝…どうしたんだぁ…?」
忠勝「キュイーン!」
家康「話がある…?分かった。」
忠勝の話を聞いて、家康は急に感情が入って立ち上がった。
家康「冗談じゃねぇ!!なんで、わしが豊臣と同盟を組まなきゃならねぇ!!」
忠勝は同盟を組もうと話を持ちかけた。だが、それはただの同盟ではなかった。あの悲しい戦の敵軍、豊臣と同盟を組もうというのだ。家康の気持ちも分からなくはないが、忠勝も理由あって話している。
忠勝「キュイーン!」
家康「おめぇの理由があろうとも、わしはぜってぇしねぇ!!忠勝、おめぇは忘れたのか!!」
家康の頭にヒメグマが伝えてきたことが木霊した。『私と貴方が築いた絆を、貴方様がこれからの日ノ本に示していってくださ…い。』そのとき、家康は思った。自分はヒメグマの敵をとろうと周りのことは全く見ていなかった。それだと、ヒメグマの意志を継いだことにはならない。忠勝の言ってることは間違っていない。自分が間違っていた。全ての敵に絆の力を示さなくてはならないと…。家康は決心した。
その後、兜と槍を捨て、拳で敵に挑むことになった。そして、豊臣の傘下に入ることにしたのだ。
そして今…。
家康「わしとお前は出会い、共に豊臣に尽くしたな。三成。…そして、ヒメグマ、豊臣には絆の力を示すことはできなかった。」
家康は空を見上げ、天に向かって言った。
家康「わしは、お前との意志をこれからの日ノ本に示していきたいと思う。これからも、徳川を…そして日ノ本を見守っていてくれよ…。」