一話目
村人に通されるがまま案内された小屋は、いつの間にか私しかいなかった。
本当は、雪の中で真っ白になりたかったのだけれど――私は死に場所を探していた。
神無月の祭事の折、旅人を神としてもてなす風習が、この山村にはあるらしい。
悪化が予測される雪の中ふらりと歩いていたら、渡りに船とばかりに選ばれたのが私だった。
神主か宮司か知らぬ人が祝詞を上げ、ご馳走が運ばれ、一頻り飲めや歌えや終えた後、風呂に入り用意された着物を着て、一言も発さぬよう、決して外に出ぬよう、一晩を小屋で過ごすよう厳格に申し付けられた。
一泊するつもりがなかった私がまだここにいるのは――私にまだ未練が残っているからなのか。
いや、それとも他人になされるがままになるほど、心が凍り付いていたからなのか。
そんなことを、火鉢にくべられた炭を見つめながら、ただ時間を潰したいという理由だけで考えていた。
この祭りにどんな意味が込められようとも、明日にはここを発つのだから。
灰を被った炭の割れ目から覗く赤々とした火が私の目を熱くした。
「吹雪いてきましたね」
背の暗闇から声がしたと思ったら、そいつは膝を抱える私の隣に座り、火鉢の中をはさみでいじり始めた。
同じ着物を着てるところを見ると、私のようにもてなされた旅人というのが分かる――もう一人いたのか。
「申し遅れました、私、Qタロウといいます――ああ、喋っちゃいけないんですよね。どうぞお構いなく」
水平に切り揃えられた前髪の下の、丸メガネ越しにこちらに目をやり、また火に感心を戻した。
明らかに偽物と分かる名を告げる、清すぎるこの声が何かひっかかった。
体に白い布を巻きつけているのが着物の隙間から見えたのも変に思えた。
この男は怪我でもしているのか。まあ、どうでもいいか。
簡素な造りの小屋は雪と風で揺れていた。
入れたばかりであろう炭がパチンと音を立てた。
Qタロウへの興味も失いつつあった私に、そんなことはお構いなしとやつは話しかけてきた。
「――こんな話を知っていますか?」