企画短編
企画短編
哀色の魂
ああ、酒気と熱気に体を預け、声にならない叫びを上げると、私を見つめる村人達が今がその時かと眼を煌々と輝かせる。
川が渇き、田畑も枯れしまったこの村は、残された希望を私に賭け、飢えた目をしていた。日照りの中、私の両の手で踊る炎と同じ色をしていた。
私は弾けんばかりに体を躍動させる。神をこの身に降ろし、雨を祈る祭りの巫女の様とはこういうものだと、村人達の眼に焼きつけるよう、必死に踊った。
舞に見られる優雅さなどかけらもなく、狂った人間が暴れているようで、両手の松明から火の粉が散り、その中心にいる私はゆらめく炎だった。

祭りが失敗したら殺される、村人達の希望の分だけ、対極にある絶望は激しい怒りと変わるだろう。
原始に近い鼓動のリズムに夢中で体をゆだねながら、私の心には黒い不安がたたずんでいた。危うげな楽しい夢を見ている気分だった。いつ目が覚めるのかも分からない。

祈りを続けるうちに、黒い不安は消えていった。私の心は神のものになった。
私が願うのは、雨ではない。殺されないことでもない。ただ踊り続けることだ。
村人達の目が、意識が、全てが私に注がれている。私という炎に魅入られている。この高揚感をなんと言い表せばいいだろう。服がはだけても気にもならなかった。真の祭りとはこういうものだ。
ああ、どうかこの夢がいつまでも続きますように。

優れた雨乞い師の魂はどこにも還ることができない。
雨を降らせることに成功し、その挙句殺された私の魂は、皮肉にも、全ての魂が還るという霊山に安置された。
束の間の雨に満足しなかった村人達は、神が宿ったと見えた私をちぎり殺し、髪、骨、肌を、御神体の水晶の中に封じ込めた。こうすればいつでも雨が呼べると考えたのだ。人々は私のことを「あいいろのたま」と呼ぶようになった。

私には家族がいた。片思いだが、恋した人もいた。
村で一番踊りが上手かったというだけで巫女に選ばれ、雨が降ったという空のきまぐれで、私の命を失う形で全てを奪われてしまった。
雨を支配したいという幻想で、私のささやかな願いも、踏みにじられたのだ。
ああ、私の願いは、たった一つだけだったのに……

これから語るのは、現人神として生涯を終えた私の人生だ。
私を手にする人がいるならば、よく聞いて欲しい。
人は決して神に成れない。

私の始まりは、生まれて初めて海を見た日のことだった……

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■筆者メッセージ
テーマ「祭り・続きが気になる」で書いた作品です。
「続きが気になる」で頭を抱え、とりあえずバッドエンドにしちゃった作品です。
こういうのはいけない。

もっとしっかり書きたかった題材なので、不完全燃焼気味な私です。
jiro ( 2011/11/17(木) 00:10 )