第4部 魔法使いと花
プロローグ
神格者No.1  『魔術師(マジシャン)』
その者、神羅万象を起こす者。属性(タイプ)に関係なく技を使える者。
現時点地上に住まう異能者の中では一番能力を持っているだろう。
『勝利の星』がある限り、彼が味方につけば必ず勝利をもたらす。
彼が敵の手に渡ればこちらが最悪な結末になるだろう。
破滅も創造も、人類が彼に願えばひとたび叶うだろう。
ただし気をつけろ。その者は____………
_____性格に難あり。

『神格者の全て』〇〇著


人間の立ち入りが禁じられている島、名前は無い孤島。
そこで人間に虐げられる事なく、安心して暮らす18種のタイプの異能者が約30万人住んでいた。
今まで人間が侵入してきた事は無く、平和に過ごせるはずだった。
この島を治める『皇帝(エンペラー)』が死ぬまでは_____。

1年前、突如開催された新しい王を決める選挙。
その選挙で『皇帝』は落選した。
当選したのは、『皇帝』の下で大臣をしていた者、カルラという男だった。
カルラが王に即位し、『皇帝』は宮廷から追放され姿を眩ませた…が、秋に開催された市民による大型運動会にこっそり参戦していたのだった。その運動会で1等賞を獲得すると王が何でも願いを叶えてくれる願いある者がこぞって参加するかなり大きな催しだった。
聞いた話によると「もう一度王の座につきたかったのだろう」と言われていたが、実際に『皇帝』は願いを告げる事無く命を絶たれたらしい。そう、暗殺されたのだ。
『皇帝』が亡くなってから、まるで覚醒したかのように悪タイプの異能者達が暴動を起こした。
その姿は誰の目から見てもイキイキとしていた。
彼らは食べ物、衣服、金品宝石、娯楽全てを奪い去り、宮廷を本拠地とした。。
新しい王はこれに対して何の処置も出さなかった。
『皇帝』を殺害した犯人は「悪タイプである」としかニュースでは報道されていない。
この悲劇に悪を許さない神格者の『正義(ジャスティス)』がすぐに動き、共に闘う勇士を集めだした。
それから1年経った。
まだこの紛争は終わっていない。
格闘タイプの友は、『正義』の下で戦死した。
フェアリータイプの友は、紛争地で浴びた毒の後遺症が治らず「もう行きたくない」と泣きじゃくり心に治らない傷を負わされた。
全タイプの中でも一番寿命が短い虫タイプは、「自分達は消耗品ではない」と『正義』に対しデモを起こした。
死者と行方不明者の報告が挙がる度にタイプ問わず戦士が選ばれていった。
『皇帝』がどんな政治をしていたかなんて今はもう思い出せない、が、国民は今ほど苦しい思いはしていなかったはずだ。「今までが平和だったんだ」と痛感するほどに。
今はただ、「この戦争が終わればきっと良い事が起きる」と自分に言い聞かせるだけ。
そうでないととてもやっていけなかった。


薄暗い地下室で、ろうそくのかすかな灯りを頼りに、綻びた服を丁寧に針で縫い付けている女性がいた。
大きな頭巾を被って誰の目にも触れない地下室で1人、紛争で使われる兵士の服を作っていた。
右の壁際にある覗き穴が開かれて、隣の部屋で同じ作業をしている人が穴からこちらを覗き込むと、黙々と作業をしている頭巾の女性に声をかけた。

「お疲れ様。今日はもう上がりでいいよ。
アンタ休憩無しでぶっ続けで作業しているでしょ?」

声をかけられてやっと手を止めると、頭巾の女性は覗き穴から見えている目の人に笑いかける。

「ううん。もう少しやっていく。
 せめて今日のノルマは済ませておきたいの」

「そっか…じゃあアタシら先上がるね」

「えぇ、お疲れ様」

「お疲れさん、帰り気を付けなよ」

「そっちこそ」

会話が終わり、覗き穴が閉められると退勤していく数人の足音が聞こえた。

「…はぁ、これだけでも仕上げないと…」

溜息をついて、肩を上下に動かし首をぐるりと運動させ頭巾を外した。
頭巾で頭を隠していたのは『大きな花』だった。
幼い頃から自分の顔の2倍近くある大きさの花が咲いていて、見た目が汚くラフレシアのようで異臭もほのかにする。そして重たかった。作業するたびに肩と首の運動をした。
女性の名前はヘレン。

この話は、彼女と、ある魔法使いが、彼女の頭の花の悩みを解決する物語。
世界で一番素敵な魔法を目にする瞬間の話である。


水野 翡翠 ( 2019/06/14(金) 21:45 )