Chapter 8 飛べない鳥
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リーダー発言の後、しばらく沈黙が流れ
1人の女団員が恐る恐る発言した。

「あの…では、
人間の助けを借りないのであれば誰が門を開けておくのですか…?」

ざわめきだす団員達。
リーダーは迷いなく答えた。

「それはムクにやってもらおうと思う」

「えっ?」

予想外に自分の名前を呼ばれて
思わず変な声が出てしまいムクは慌てて自分の顔をカバンで隠した。

「こんな半鳥人に…?」

当然の周囲のリアクションにムクは皆の視線が針でちくちく刺されている感じがして
顔を隠していたカバンを下げずにいた。

誰か別の話題を持ってきてくれないだろうか、
なるべく明るくて今の話なんてど忘れしてしまうくらい…

もちろんそんな話題を持ってきてくれるムードメーカーはいない。
これはただの自分のよくある現実逃避だった。

団員達からの疑惑の声が挙がる中
リーダーは手を叩いて声を張り上げた。

「さあ早く支度して出よう!!
 明け方までにはキンカシティに着こう!」

団員達全員出発支度をしている中
ムクも慌てて隅の方で荷物をまとめていた。

これはチャンスだ。
この作戦に成功すると
自分は皆から一目置かれる存在になれるんだ。

そう思うと緊張感とプレッシャーで手の震えがなかなか止まらなくて
点呼に遅れてしまった。

「いいか?」

大雨の中
建物の屋根の上を歩きながら地図を出してリーダーは
後ろからついて来ているムクに説明した。

「俺達は飛んで門まで向かう。
 ムク、お前は完全に鳥にはならないたった1人の存在だ。

 仲間の調べによると、門は自動開閉はしない。
 誰かが操作している間だけ開く」

「つまりそれは…」

「そう、現場に誰か1人いないと門は開きっぱなしにならない。
 お前が開門して皆を先に出してから、後からそのまま飛んで来てほしい」

暗い事はなるべく考えたくはなかった。
ただの考えすぎかもしれない。
だけど、作戦を脳内でシュミレーションしているとどうも
不安要素が大きくなっていった。

もしかして…俺だけ置いていくつもり…なのか…?

自分だけ門を開けに行って、
仲間が全員出てから後から来い、って…

ムクの足取りがだんだん遅くなっていって
リーダーとの距離が少しずつ離れていく。

「無理だ! それだと俺は置いて行かれる!」

先を歩いていたリーダーはムクの大声を聞いて
立ち止って振り向いた。

「…置いていかない。 仲間を置いていくもんか。

 お前は完全に鳥化しない。
 狭い空間も飛行可能だ。俺がお前の飛行技術を全く知らないとでも思ったか?
俺は目立つから人間にバレる。でもお前はバレない。
 唯一信頼できるのがお前しかいないんだ」

「なぜ俺なんかに託すんだよ…」

自分の自意識過剰っぷりが今になって嫌になってきた。
せっかくのリーダーの言葉が綺麗ごとのようで、信じたいのに疑いが出てくる。

「お前の気持ちが分かるからだ。
 団体の中で浮いていると仲間意識無いって思われて周りから
 冷たくされる…。

 俺もそうだったから…」

リーダーも…同じ経験をした…?

一瞬聞き間違いをしたかと思ってムクは唖然とした。

「誰しもチャンスってモノがある。
 逃したら次いつ来るか分からない。

お前となら分かり合える友になれると思っている…
 リーダーとしてではなく、友としてお前を置いていかない。
 約束しよう」

そう言うとリーダーは
背中から金色の翼を広げて大雨の空へと飛びあがった。

ムクが目で追いかけた時には
リーダーはもう金色の鳥の姿になって仲間を先導していた。

『友として』

憧れている人からそう言ってもらえた事が何より嬉しかった。

自分だけが周りと違う事を悩んでいたわけではない。
一番近くにいた尊敬するリーダーだって自分と同じ経験をしてきた。

急にネガティブな事ばかりで埋まっていた頭が
浄化されていくような気がした。

「これは…チャンス…
 皆に認めてもらえる…」

リーダーもきっとこうしてチャンスを掴んだのだろうか。
チャンスを掴んで、自分の人生を180度変えたのだろうか。

いつの間にか緊張による震えが無くなって、
ムクは急いで門の工事現場まで向かった。

「門の開かなきゃ…門を…!」

自己暗示するように暗い工事現場の中をスイスイと進んで時には飛んで、
見つけた門の開閉ボタンを長押しした。

門は地鳴りのような音でゆっくりと開いた。

ムクの位置からも団員達がリーダーを先頭に
開いた門を飛んだまま潜り抜ける姿が見えた。

「よし、後は俺だけだ…」

開門された門に向かって仲間を追いかけるように腕を翼に変え
飛び立とうとジャンプをすると大雨のせいか足が滑ってしまった。

『この作戦を成功させて、リーダーから、いや友から
 たくさん話を聞きたい』

現を抜かしてしまった。

ビルでいうと3階の高さくらいの位置から落下した。
羽ばたこうとする暇もなく、地面に落ちて翼から鈍い音がした。

「ま…待ってッ!!!!!!」

閉門しつつある門に向かって声を荒立てた。
当然門は待ってはくれない。
起き上がろうとすると翼から激痛が走った。

翼から激しい痛みで泣きたくもないのに涙が流れた。
おぼつかない足で門まで走った。

「待ってッッ!!!!!!!
 まだ1人……門をくぐりたいんだ…!!!!!」

飛ぼうと翼を広げようとしたが人間の洗濯物に引っかかって絡まってしまった。

「くそ…!!」

ムクは狭い空間での飛行には自信があった。
鳥化した仲間と比べて自分は体格が小さいため団の中では一番だと思う。

でも狭い空間から翼を広げて飛ぶのは未体験だった。

焦りと痛み、そして何より
リーダーの信頼を裏切りたくないという気持ちが爆発して混乱していた。

そのせいで絡まった洗濯物がなかなか剥がれなかった。

まるで足止めされているようでさらに怒りが増してきた。

「リーダーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

叫んでも大雨のせいで聞こえないのか
誰も姿を現さない。

そんな光景にムクは虚無を感じた。

「皆…待って…」

吸い寄せられるように門に向かって
絡まった洗濯物を引きちぎるように引っ張った。

結果、羽が何枚か抜けた。

ムクが門まで辿り着いた時には
完全に閉門されていた。

門の向こう側を覗ける鉄格子から覗き込んで空を見上げると、
自分の仲間らしき渡り鳥の団体と先頭に金色の鳥が見えた。

心の中で何かが割れた音がした。
今まで築き上げていた何かか砕けた音もした。

「なんで…置いていかないって…」

その言葉は初めから嘘だったのか?

キンカシティの方向に向かって飛んでいる鳥を
呆然と眺めながらポツリと言った。

もうその真意は確かめられない。
自分が飛んで向かうなりしない限りは。

わざわざ綺麗ごと言って俺を騙した。
結局俺は邪魔だったんだ。

足手まといばかりで、完全に鳥になれなくて、
与えられたチャンスも掴めなかった。

激しい虚無感に苛まれて体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
痛みと寒さと失望感で地面にそのまま倒れてしまった。

「今なら…追いかけたら…間に合うのに…」

意識がもうろうとして
騒ぎを聞きつけて救助に来た人間の声が頭に入って来なかった。

そして俺は飛べなくなった。
完治してもなかなか飛べなかった。

飛ぶ練習をしても余計に怪我が増えるばかりで金は治療費で消えた。

飛んでキンカシティに行けば仲間はいるかもしれないし、
もしかしたらもう飛び立って別の進路へ向かっているかもしれない。
渡り鳥はきまぐれだから進路などすぐに変える。

歩いてキンカシティには行きたくなかった。
翼があるのに飛べなくなったなんて笑いものにされるだけだし。

リーダーなら…きっと迎えに来てくれるかもしれない…

そんな期待が飛べなくなったムクの救いだった。

だが2年経ってもリーダーとその仲間は来ることはなかった。

屋根の上で待っていたら下からヒソヒソと話している人間の声が聞こえる。
内容はだいたいムクの事。

『かわいそう』、『渡り鳥は最低な奴らだ』などと言うだけで
直接ムクを助けようとはしない。

…もうやめよう。
 期待するのは、もうやめよう。

街で一番高い建物の屋根の上でムクは座り込んでうつむいた。

誰だって簡単に裏切る。
それならそれでいい。
それなら最初から信じなければいい。

信じるほうがバカで愚かなんだ。


■筆者メッセージ
やっとムクの過去を伝えれた…感がぱないです。
水野 翡翠 ( 2018/03/25(日) 15:30 )