Chapter 8 飛べない鳥
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俺が飛べなくなったのは2年前。
何が原因かと言われたら…「仲間の裏切り」。
そう答えたら誰か絶対「人のせいにするもんじゃない」って言ってくる輩がいるだろう?

じゃあ何?
俺のせい?
『仲間のせいにして飛べなくなりました。
 俺はニワトリ(※飛行タイプだけど空を飛べない異能者の差別用語)です。
 どうぞ笑ってください。』って言えって…!?

人間に助けを求めても煙たがる奴らばっかり…
救世主って言われてる空海とかいうトレーナーは肝心な時にいないし。

もう…人間不信になりそうだ。
いや、いっその事…

誰も信じなければこんなに苦しむ事もないよな…

目を閉じれば思い出す。
仲間を最後に見たあの瞬間を。





2年前のクラウンシティ。
天気は生憎の大雨で台風が横断していて一部市民は避難所で待機していた。

深夜1時に少数の渡り鳥がクラウンシティに到着した。
レインコートを着用していない彼らは雨宿りしようと鳥の姿から人の姿に変わった。

「こんな大雨だなんて聞いてないぞ!」

「おーい、誰かタオル持ってないか?
 濡れてない乾いたやつ!」

「風邪引かないようにね、皆!」

人の姿になった途端しゃべりだした渡り鳥の団体に1人、
腕が翼のままでバタバタと水滴を飛ばしている青年がいた。

「おい!! 水滴こっちに飛ばすな!」

背の高い男性団員に怒鳴られて青年・ムクは肩をビクッと震わせた。

「すみません…」

ムクは翼をなるべく周りの邪魔にならないように
畳んで隅のほうに寄った。

他の皆はもう鳥の姿ではないのに、
自分だけ翼がまだ人の腕にならない。

明らかに1人浮いていた。

「団員全員人の姿になれたか?
 この台風の中じゃあ移動は難しい。

 この街で食料の調達をしよう。
 あと、乾いたタオルも」

狭い空間で渡り鳥団員達ががやがやと騒いでいる中、
リーダーが全員に向けて声を張り上げると
リーダーの指示でムクとリーダー以外全員はその場で散らばって各々行動に移った。

「ごめん。 まだ人の姿になれてなくて」

ムクは慌てて翼を隠そうとすると
よろめいて自分の荷物で躓いて派手にずっこけてしまった。

「いいよ別に。 コツがいるもんな。
 俺も慣れるのに時間かかったよ」

アハハと笑ってリーダーはムクに手を差し伸べたが、
ムクは自分の翼をリーダーに見せて肩を落とした。

「あー…すまない」

リーダーは差し伸べた手を一度引っ込めて
両手をムクに差し伸べた。

「抱っこして持ち上げてもらわなくても
自分で起き上がれるよ」

ムクは自力で起き上がると泥を叩いた。

リーダーは団体の中でたった1人だけ金髪で
鳥の姿になると金色の鳥になる。

全体的に灰色の髪をしたこの団体の中では
一際目立つ存在だった。

集団意識が強い渡り鳥の中では
団体の中で目立つ存在はいじめの被害にあうのが当たり前で、
でもムク見た限りリーダーはそんな事をされていなかった。

誰にでも優しくて、頼りがいがあって
誰よりも素早く高く飛べて、リーダーシップもとれる。
周りからとても愛される存在だった。

団員から浮いている半分人で半分鳥なムクにも
他の仲間と同じように接している。

ムクはこのリーダーを見ていると
『自分もいつかリーダーのようになりたい』と思っていた。

団体の中で浮いていても、実力とリーダーのような人柄で
自分を毛嫌いしていた奴らをいつか認めさせてみせると。

2時間経ってムクはやっと翼から人の腕に変わった。

「練習すればもっと速く切り替えができるようになるぞ!」

「うん…!」

ニカッと歯を見せて笑いかけるリーダーを見て
ムクは照れ臭そうに笑った。

自分の手をグーパーさせながらムクはこう思うようになった。

『何か…何でもいいからリーダーの役に立つ事が出来たら…』

バタバタと食料調達に向かっていた団員達が帰ってきたが
誰一人として食料は持っていなかった。

「リーダー、この街はダメだ。移動しよう!」

「人間の避難で食料は空っぽだ」

「渡り鳥に売る物なんてないって言われたわ!」

タオル調達に向かった団員達も続々と帰ってきて
険しい顔をして首を横に振った。

「タイミングが悪かったな…
 台風でさえなければ食料もタオルも、温かい風呂にも入れただろう…」

団員に囲まれてリーダーはこれからどうするかを話し合った。

「街を出るにしても、次の街…キンカシティまでの門が閉じられている。
 しかも門は工事中で人間の許可無しでは門は開かないだろう?」

「人間の助けを借りるなら食料を貰いたいね!」

「どうせこの天気だ。 外に出る奴のほうがよっぽどのバカだな」

焦りと怒りと寒さで冷静さを失いつつある団員達から
一斉に発言されているリーダーの様子をムクは隅の方で見ていた。

自分にズバッと言い返せるくらい威厳があれば
リーダーの役に立てただろう。
でも実際この状況でまともに聞いてくれる人は1人もいないだろう。

横目で話し合っている大人達を横目で見るとムクはため息をついた。

「次の街へ急ごう!!」

「この寒さで皆飢えて死ぬのか!?」

団員達の怒号が飛び交う中
リーダーはムクとまだ幼い団員の不安そうな顔を見かけると胸が痛かった。

リーダーは拳を握りしめて団員全員にこう言い放った。

「ここには食料も濡れた体を拭くタオルも無かった。
 皆、急いでキンカシティへ向かおう」


水野 翡翠 ( 2018/03/23(金) 20:43 )