09
「これ、あなたに!」
準備運動をしているゴウキに、
ななせはバッグの中から取り出した小さな紙袋を渡した。
「????? 食い物か?」
ゴウキはキョトンとしながら開封すると
ななせはニッコリと笑って首を横に振った。
「仲間の証!」
紙袋の中には赤色のリストバンドが2つ入っていた。
「これ…! 腕にするのか?!」
雑誌の写真でしか見た事がないリストバンドに
ゴウキは嬉しくて顔がほころびすぐにリストバンドを腕につけた。
「すげー軽い…!」
腕につけたリストバンドを眺めながら手をグーパーするゴウキに
レンは呆れた表情で見ていると
さっきからキョロキョロと誰かを探しているななせに声をかけた。
「何してんだよ」
「ムクくん来てないな〜と思って。
まだ下にいるかな〜?」
レンはドアを開けて屋上から出ようとするななせの首根っこを掴んで止めた。
「お前あんな皮肉鳥野郎連れて来てどうするんだよ!?」
「どうして?」
澄んだ瞳で聞いてくるななせに
心配するだけ無駄な気がしたレンは手を放しななせを解放した。
「好きにしろよ… 後で泣いても知らねーからな」
「???? うん! ちょっとその辺探してくる!」
解放した途端、命綱を外し走って階段を下りていくななせを見送りながら
レンを舌打ちしてため息をついた。
「本当に知らねーからな…」
毎回振り回されてきているため、なんとく今回も振り回されそうな予感がした。
展望台に着くとムクは1人で座って頬杖をついて景色を見ていた。
ななせは軽く深呼吸してからムクに近寄ると
ガラス越しから近づいてくるななせに気づいて
ムクは振り返らずに話しかけた。
「やあ、ジム戦頑張ってね」
ガラス越しから笑いかけてくるムクに気づき
ななせはムクの後ろ頭を見て頷いた。
「ありがとう…」
会話が全然続かなくて沈黙が続く中
ななせは拳を握りしめて沈黙を破るように声をかけた。
「あ、あのね…アナタも上に来てほしいんだ」
「なぜ?」
もともと鋭い目つきをしていたせいで怒っているようにも見えるし、
「放っておいてくれ」と訴えかけているようにも見えるムクの目に
ななせは言葉が詰まった。
「そ、それは…」
「キミが勝って喜んでるのを見て、すごいねって拍手すればいいの?
キミが負ける姿を見て、残念だったねって慰めてあげればいいの?」
どちらも違う。
そう言い返してやりたいのにどんどんムクの眉間に眉が寄って
表情が険しくなっていくのが分かった。
喉につっかえてなかなか出てこない本音を絞り出すように
ななせは言った。
「……アナタは苦しんでいる。
私はアナタを助けたい…!」
「………へえ」
そう言うとムクはスッと立ち上がり
すれ違いざまにななせに一言告げると先に屋上に向かった。
「正義感ぶっちゃって。面白い事言うね」
大丈夫。
ななせは深呼吸をして自己暗示を繰り返した。
「絶対成功しなくちゃ…」
自分で考えたムクを『救う』方法。
失敗すると大事故になりかねない。
ジム戦への分と2つのプレッシャーに板挟みになっている気分に苛まれた。
頬を2回叩くと足早に屋上に向かった。
先に屋上に上がってきたムクは隅の方で壁にもたれると
空の景色を眺めた。
曇り一つない快晴。
こんな空を飛んでいる小鳥達が心なしか羨ましくも感じてきた。
「………何してんだろ、俺…」
ため息と一緒に思わず漏れた本音。
ななせから言われたセリフが急に頭をよぎる。
『アナタを助けたい』
目を閉じると昔見た空からの景色を思い出し
心の奥が痛んだ。
遅れてやってきたななせがレンのところに駆け寄ると
レンに「遅い!」と頭を叩かれていた。
「ごめんなさい!!」
ゴウキに止められレンはフィールドの方へと向かった。
完全にかやの外状態の空海は3人の様子を
微笑みながら見ていた。
そして空海は隅の方にいるムクを見て軽く手を振ると
ムクは空海と目が合ったにも関わらず目を逸らした。
空海のウワサは小耳にはさんでいた。
なんでも「飛行タイプの救世主」だとかで。
そんなものは正直反吐が出そうだった。
一切空海の方を見ないままとベンチに腰かけると
バトル開始直前の2組の様子を眺めた。
『アナタを助けたい』
ずっと忘れられないななせの言葉。
「…ななせ。
キミは 俺をまた 空に帰してくれるのか…?」
自分の中で淡い期待が生まれてきている事に
ムクはまだ気づかない。