08
一方、展望台にはピリピリとした雰囲気が漂っていた。
一通り話し終えたムクは
余裕そうに口元に笑みを浮かべながらレンを見ていた。
レンは黙ってムクを睨みつけていた。
ゴウキはそんな2人をハラハラしながら見守った。
も、もし・・・
2人がケンカを始めたらオレが止めなきゃ・・・!
ゴウキがいつでも飛びかかれるように
じりじりと準備をしながらそう思っていると
ムクが沈黙を破った。
「彼女を泣かせた俺を
殴ってくると思ってたけど・・・
殴ってこないって事は
まさか図星なんじゃあ・・・」
「黙れ」
面倒くさそうにムクを見つめながら
レンは呟いた。
ムクは話すのを止めてレンの目を見ると
レンの目は怒りに満ちていた。
「お前なんか殴る価値ねぇと思った、
ただそれだけだ」
レンはゴウキに「行くぞ」と言うと
非常口の方に向かって歩くと
すぐ立ち止まって小声で言った。
「翼の無(ね)ぇ変な鳥だと思ってたが、
優しさも無ぇとはな・・・
あいつ(ななせ)を泣かせるくらいなら、
もう近寄ってくるな」
そう言うとレンは非常口のドアを開けて
入っていった。
ゴウキはムクをちらちらと見ながら
レンの後を追いかけた。
置いて行かれたムクは眉間にしわを寄せながら
歯軋りをした。
「何も知らないから
そんな事が言えるんだ・・・っ!」
拳をギュっと握り締めるとムクはうつむいて
強く握り締めた拳を壁にぶつけ搾り出すような声で言った。
「俺は好きで無くした訳じゃないっ・・・!!!」
屋上に来たななせは空海から渡された命綱を
装着しながらゆっくりと歩いていた。
「ここ、命綱無いと落ちちゃうんで気をつけて!」
空海はスタスタとラジカセのような機械がある場所に
向かって歩いた。
辺りと見回すと柵が1つもないヘリポートのようだった。
「こ、ここがフィールド?!
ちょっと危険すぎじゃあ・・・」
強風が吹くと命綱があっても
この屋上から落ちてしまいそうだった。
もしそうなってしまったら
きっとバンジージャンプみたいになるのかもしれない。
「危険、かぁー・・・」
空海は苦笑いをしながら
あぐらをかいて座ると
ラジカセをドライバーでいじりだした。
「僕ら人間からして危険であって、
僕の仲間からしたら遠慮なく自由にバトルに集中できる
最高のフィールドなんスよね〜」
こちらに振り向いてニッコリと笑いかける空海を見て
ななせは目をぱちくりとさせた。
「僕、こう見えて飛行タイプ専門のジムリーダーなんスよ。
幼い頃から自由に大空を飛び回る彼らと一緒に暮らしてきて、
もっと彼らの力になりたいし、
彼らの良さを色んな人に知ってもらいたくて
たくさん勉強して今に至るって感じっス・・・!」
ななせは、はにかみながら話す空海の隣に座った。
「でも、最近は『渡り鳥』に興味を持って
色々勉強中っス!」
ななせは「渡り鳥」という単語を聞いて
その話に食いついた。
「あ、あの!
その『渡り鳥』について教えてください!」
空海は驚いてななせを見ると、
トランシーバーから笑い声が聞こえた。
『お嬢ちゃん、渡り鳥なんかに興味持つなんざ
物好きだねぇ』
空海はハハハと笑うと
ラジカセの中にあるコードをいじりながら
話しだした。
「全部知っているって訳じゃないんスけど・・・
まず、『渡り鳥』というのは
鳥型飛行タイプの異能者っス。
簡単に言えば、彼らは飛んでいる間は鳥の姿で
地面に下りると人の姿になれるんスよ。
そして、常に団体で行動して
街や地方を移動して暮らしてるんス」
ななせは空海の話を相づちをうちながら聞いていた。
「しかも、彼らには彼らの社会があるみたいで
僕らの常識が彼らには通用しなかったりするんスよ〜。
例えば、この前出会った渡り鳥の人なんか
市場で万引きしてたっス。
どうして万引きしたのか訳を聞くと
どうやらお金を払って物を買うという概念がなかったみたいっス」
苦笑いしながらラジカセのコードを元に戻しながら
空海は言った。
「他にも、プライドが高かったり、
借りを作る事を嫌ったり、と
ちょっと他の異能者とは違って
困ったさんなんスよね〜」
『そうさな〜・・・
群れ社会を大事にしてるって事は
伝わってくるんだけどなー・・・』
トランシーバーの声が言いづらそうにしていると
空海は悲しそうな表情をしてラジカセをいじる手を止めた。
「団体行動の意識が強いせいか
いじめがひどいんスよ・・・
群れで裏切り者が現れた時とか、
別の渡り鳥が群れの中にいたりした時は
その子を二度と飛べなくしたりする・・・らしいっス・・・」
ななせは絶句して下を向いた。
そしてなぜかムクと初めて会った時の事を思い出した。
ななせはハッとして顔を上げた。
「もしかして・・・」
これはあくまで推測でしかない、けど、展望台で言われた台詞。
そして初めて会った時のムクの様子を思い出すと
疑問に感じていた謎のつじつまが合う気がした。
空海はドライバーでラジカセのネジを閉めながら話し続けた。
「仲間同士で傷つけ合うのはどうかと思うんスけど
なんせ僕らが言っても聞く耳を持たないもので・・・
だから僕、傷ついた渡り鳥を保護して
カウンセリングを受けたりしているっス。
学んでばかりっスけど
少しでも大好きな飛行タイプの力になりたくて・・・」
ななせはその場からすくっと立ち上がり
空海は驚いてななせを見上げた。
「どうかした?」
空海は遠くを見つめたままのななせを不思議そうに見た。
「空海さん・・・
鳥は、翼がある限り空を自由に飛べると思いますか?」
ななせは空海を見て言うと、
トランシーバーから青年の声が聞こえた。
『空海、あと少しで着くぜ〜』
空海はトランシーバーに向かって「了解っス」と言うと
ラジカセを地面に置いて
立ち上がってななせと向き合って二カッと笑った。
「僕は飛べると思う!!
飛べる可能性があると信じている限り、
きっと飛べると思うっス!」
2人が笑い合っていると、
屋上のドアが開いてレンとゴウキが入ってきた。
「レンくん、ゴウキくん・・・!」
ななせは2人に駆け寄ると
空海は腰に手を置いて3人を見ると大声で言った。
「お仲間も揃ったところで、
ジムバトル、始めるといくっスかーっ!」
そう言って空海は二カッと笑った。