07
タワーの屋上の展望台に辿り着いたななせ達は
辺りを見回したがジムの入り口は無かった。
展望台からクラウンシティを一望して
はしゃいでいるゴウキとななせを
レンはため息をついて見ていた。
「年下組は元気だね〜」
レンの隣でニコニコしながら言うムクを
レンは無視して散策し始めた。
1人で散策し始めたレンを
ムクは無表情で見送った。
「タワーの一番上にジムがあるってルカくん言ってたから
展望台を一周してみたけど、
どこにも入り口がないね・・・」
展望台をぐるりと一周してきたななせはゴウキに言うと
ガッカリしてため息をついた。
「そいつの情報、嘘だったんじゃないか?」
ゴウキはベンチに腰掛けて言うと
ななせは首を横に振った。
「ルカくんは嘘つくような人じゃないよ!」
断言するななせを見て
ムクはクスクスと笑った。
「ななせってば面白い事を言うね。
言われた通り探してもジムが無いって事は
彼に騙されたって事じゃないか」
ななせは笑顔で話すムクに振り向いた。
「だいたい、キミは簡単に他人を信じすぎだよ。
人は簡単に人を騙して、利用して、
そして裏切る。
人間でも異能者でも全く同じだ。
ななせ、君はどうやらまだそれを知らないんだね・・・」
目を閉じて腕を組みながら
ムクは口元に笑みを浮かべながら言った。
「ななせ・・・?」
黙ってムクを見ているななせを
ゴウキは心配そうに見た。
ムクはそんな2人に気にせず続けた。
「さっきからレンの姿が見えないようだけど、
彼も騙された事に気づいてタワーを出たんじゃないかな?
あるいは、自分より弱いキミ達を
見捨てたんじゃないかな?」
「見捨てた」という言葉を聞いてななせは
ボルサリーノの言っていた事を思い出した。
ななせは首を横に振って
ボルサリーノの言葉を忘れようとした。
「レンくんはそんな事・・・!」
展望台をぶらぶらと散策していた戻ってきたレンは
ななせの声を聞いて立ち止まると、
壁際にもたれて黙って会話を盗み聞きしようとした。
ななせは「しない」と言う前に言葉が
途切れた自分が嫌になってきた。
俯いて下を向いているななせを見ると
ムクは話すのを止めた。
「・・・どうかした?」
ムクがななせに触れようと手を伸ばすと
ななせはムクの手を払いのけると
今にも泣きそうな顔をゆっくりと上げて
震える声で言った。
「・・・どうしてそんなひどい事言うの・・・?」
ななせはそう言うと非常口の扉を開けて
入っていった。
泣きそうな顔をしていたななせを見て
ムクは彼女が去った今、少し罪悪感を感じた。
ゴウキはななせを追いかけようと非常口まで走ると
壁にもたれて下を向いているレンを見つけて安堵した。
「レン・・・!
お前どこ行ってたんだよ!」
ゴウキはレンに駆け寄って言うと、
レンは黙ってゴウキの腕を掴んで
ズカズカとムクに近寄った。
レンはムクと向き合うと
ムクを睨みつけて不機嫌な重々しい声で言った。
「・・・あいつ(ななせ)に、何て言った」
ムクはフッと笑うと
ゴウキとさっきの出来事をレンに話した。
非常口に入るとすぐに幅の狭い螺旋階段が見えた。
涙がこぼれないように上を見上げて鼻をすすると
上から風がふいているのに気づいた。
「・・・・・?
もっと上に行けるのかな・・・?」
ななせは涙を手で拭うと
狭い螺旋階段を1段ずつゆっくりと上がった。
最上階のドアは半開きになっていた。
ドアの隙間から様子を伺ってみると、
飛行服を着た人があぐらをかいて地面に座って
こちらに背を向けて何かをしていた。
誰かと会話しているのか話し声が聞こえた。
「風は気持ちいいっスね〜」
鼻歌を歌いながら青年が言うと
ななせは自分に話しかけているのかと驚いて
その場から少し退くと
半開きのドアが閉まり、その音が響いた。
ドアの閉まった音が思っていたより大きくて
ななせは心臓がバクバクして冷や汗をかいた。
きっとドアの向こうであぐらをかいて座ってた人も
この音に驚いたかもしてない、
そう思ってななせは静かに階段を下りようとすると
ドアが開いてひょっこりと顔を出した飛行服を着た青年は
ななせを見た。
「あれ、ここは関係者以外立ち入り禁止っスよ?
紙貼ってなかったスか?」
青年は愕然としているななせの横を通って螺旋階段の
一番下を見下ろすと
青年の胸ポケットにあるトランシーバーから
別の青年の声が聞こえた。
『なんだ? 空海。
また張り紙どけたまま放置してたのか?』
「そうみたいっス・・・」
青年は苦笑いしながら螺旋階段を下りると
階段の下から赤コーンを取り出して
階段前に置いた。
トランシーバーからはザザザと雑音に混じりながら
説教のような声が聞こえた。
「空海」という単語にななせは
看護婦から聞いた話を思い出した。
「もしかして、ジムリーダーの空海・・・さん?」
青年は上からこちらを見下ろしているななせを見上げると
ニコッと笑いかけた。
「はい、俺が空海っス!」
20歳くらいの優しそうなお兄さんで
もっと怖そうな人かと思っていたななせは安心した。
「もしかして挑戦者さんスか?」
「は、はい・・・!」
螺旋階段を上りながら空海は
ななせに話しかけると
ななせは元気よく返事をした。
階段を上り終えると空海は腕を組んでうなりながら言った。
「うーん・・・
ちょっと今は相手してあげられないんスよ〜。
相棒がおつかい中で」
『ジム戦挑戦者か?
悪いが、もうしばらく時間かかりそうだ』
トランシーバーから
雑音混じりに別の青年の声が聞こえた。
「じ、じゃあ待ちます・・・!」
ななせがそう言うと
空海はななせに頭を下げてお礼と謝罪をすると
ななせは慌てて空海の頭を上げるように頼んだ。
空海はななせの慌てっぷりに笑いながら頭を上げると
ドアを開けながら言った。
「せっかくだからジム戦のフィールドの下見でも
どうっスか?」
ななせは一度展望台に戻ろうと悩んだが
ムクにどう接していいのか分からずに
気分が沈んだ。
空海はしゅんとしているななせに
目線を合わせて声をかけた。
「・・・大丈夫っスか?」
ななせはハッとして顔を上げると
苦笑いをした。
「は、はい。
えっと、下見ですよね・・・!
下見したいです!」
空元気に振舞うとななせは
空海とドアの向こう側、
屋上へと足を運んだ。