06
タワーから少し離れた広場でななせは立ち止まって
ムクとゴウキに言った。
「思い出した!
皆、レンくん忘れてない?!」
「あ〜・・・・」
反応が薄い2人に
ななせは「もうっ!」と言うと
タワーの方に戻ろうとしたがムクに呼び止められた。
「待って。
俺なら彼がどこにいるのか分かるよ」
そう言うとムクは建物の屋根にすいすいと上ると
屋根から街を見下ろした。
「あいつ、飛行タイプ・・・かな?
風があいつの周りを覆ってる」
ゴウキがムクを指差してななせに囁くと
ななせは初めて出会った頃のムクを思い出した。
「そういえば…ムクくんと初めて会った時、鳥みたいだった」
ムクの背中に乗ればきっと空も飛べるのかな、と思うと
ななせは目をキラキラと輝かせた。
「彼の居場所が分かったよ!」
屋根の上から2人を見下ろしながら声をあげて言うと
ムクは市場の方を指差した。
「あそこに向かっている!
今から向かえばすれ違わずに会えるよ!」
「分かった!あなたも一緒に行こう!」
ななせはムクに手を振りながら言うと、
ムクはニコッと笑って言った。
「俺は後から行くよ! 必ず!」
ムクの笑顔に少し違和感を感じたななせは
ゴウキに手を引かれながら市場に向かって走った。
ななせとゴウキを見送り終えると
ムクはため息をついた。
「…いつまで仲良しごっこしなきゃならないのかな?」
さっきまでななせに向かって笑いかけていた笑顔は
まるで嘘のような冷たい表情をしていた。
両手を広げると両手は灰色の翼に変わり、
ムクは地面を見下ろした。
歯を食いしばると翼を広げて
約3mほどの高さのある屋根から飛び降りた。
飛び降りてすぐ羽ばたくが
ムクは地面に無様に落ちていった。
地面につく寸前に翼で防御をしたため軽傷で済んだ。
舞い降りてくる自分の羽を生気のない顔で眺めていると
翼はみるみる人の手に戻った。
「くそっ・・・!!」
ムクは歯を食いしばって地面を拳で勢いよく叩いた。
ムクの言っていた場所に辿り着くと
ゴウキはレンを探しに辺りを見回した。
「もう走れない・・・」
「なんだ? もう疲れたのか?」
ななせはその場に座り込んで呼吸を整えた。
「ゴウキくんは疲れてないんだね・・・」
「走り回るのは好きだからな!」
ゴウキはななせに手を差し伸べながら言うと
ななせはゴウキの手を取り立ち上がった。
「レンくん、どこにいるんだろうね・・・」
辺りを見回しても自分達より背の高い人だらけで
何度も人にぶつかり、ぶつかるたびに
ななせは「ご、ごめんなさい」と言った。
何度も人ごみを避けていると、
ゴウキの姿も見えなくなった。
「ゴ、ゴウキくん・・・?!」
ゴウキの名前を呼ぶと人ごみの中
ゴウキの手を振っているのが見えた。
ゴウキの手の方に人ごみをかき分けて進むと
ゴウキと不機嫌そうに腕組みをしているレンに出会えた。
表情が明るくなっていくななせを見て
レンはそっぽを向いた。
「レンくん、置いていっちゃってごめんね。
お、怒ってるよね・・・」
指をいじりながらしゅんとしているななせを見ると
エレベーター内で言われた台詞を思い出し
レンは調子が狂った。
体から静電気が発生し、
体中がかゆくて余計にイライラした。
舌打ちして首周り掻き毟っているレンを
ななせは心配した。
気持ちを切り替えて
ななせは2人に向かって言った。
「2人とも、これからジム戦に挑もうと思うんだけど、
準備はいい・・・?!」
キリッとした顔つきで話すななせを見て
ゴウキはやる気に満ちた表情で頷いた。
レンは2人に背を向けたまま
首周りをポリポリとかいていた。
いつもより素っ気ない態度のレンに
ななせは「タワー内に置いていった事を
まだ怒っているのだろうか」、
「謝った方がいいのか」と思い悩んだ。
ゴウキは2人の気まずい雰囲気に違和感を感じた。
「おや? 俺がいない間に
どうやら気まずい雰囲気になっているじゃないか」
沈黙が続く中、ムクが駆け寄ってきた。
「お前なんでずっといるんだよ。
こいつ(ななせ)に会えたら終わりじゃなかったのかよ」
ムクの方に振り向いてレンは言うと
ムクはフッと笑ってななせの肩を軽く叩いた。
「そんな事一度も言ってないけどね。
彼女に恩返しするまで俺はずっと彼女の傍にいるよ」
にこやかにレンに話すムクに
レンは眉をひそめた。
「わ、私は別に恩返しなんてしなくても
いいんだけど…」
「駄目だよ。 絶対に恩返しするから」
苦笑いするななせにムクは笑顔で威圧した。
「ひょええ…
ム、ムクくんが満足するまで
好きにするといいよ…!」
ムクに圧倒されてななせは尻込みした。
「君付けだと言いにくいでしょ? 俺の名前」
ムクはななせに耳打ちすると、フッと笑った。
「呼び捨てでいいよ」
ななせの背中を軽く叩くと、
ムクはさっきからしかめっ面をしているレンに
駆け寄ってなだめた。
「これからジム戦だろ?」
ムクの笑顔に何か違和感を感じてるななせに
ゴウキは話しかけた。
ゴウキに話しかけられてハッとすると
ななせは言った。
「う、うん・・・!」
4人はクラウンジムがあるタワーの屋上に向かった。