03
ななせはバスケットからりんごを1つ取り出して
笑顔でゴウキに渡した。
「いいよ! むしろ大歓迎!」
ゴウキははにかんで笑うと
ななせからりんご受け取った。
「ありがとな・・・!
断られるんじゃないかって思ってたから・・・」
「そんな事ないよ!」
ななせはずいっとゴウキに顔を近づけて言った。
「ゴウキくんの故郷をあんな風にしてしまったし、
私責任感じてたの。
だから私の方から一緒に旅しようって
言おうって思ってたのに先に言われちゃったね」
頭をぽりぽりかきながら苦笑いするななせに
ゴウキはキョトンとしながら答えた。
「あのゴミ捨て場はオレの故郷なんかじゃないぞ。
幼い頃に誰かに連れて来られたんだ。
その時の記憶はほとんど覚えてないけど・・・」
「そうなんだ・・・」
まずい事を言ったのではないかとななせは思っていると
ゴウキはななせから受け取ったりんごを食べながら笑顔で言った。
「いつか(ゴミ捨て場の)塀の外に出てみたかった。
その気持ちに嘘はない。
だから、特にあの場所に未練なんてないし
新しい気持ちでお前達と一緒に旅がしたいんだ!」
二カッと笑うゴウキをななせは感心した。
「オレの怪我はもう大丈夫だし、早く出発しようぜ!
まずはこの街からじっくりこの目で見てみたいんだ!」
患者服のまま病室を出ようとするゴウキをななせは止めた。
「まずは着替えよう!
えーっと、そうだなぁ〜・・・」
ななせがゴウキの服をどうしようかと考え始めた時、
外の空気を吸いに行っていたレンが病室に戻ってきた。
「なんだよ、まだ退院の準備すらしてなかったのか」
戻ってきたレンを見てななせはひらめいた。
「レンくん、嬉しいニュースだよ!
じゃじゃーん!
新しい仲間だよ!」
ななせは笑顔で手を大きく広げてゴウキの肩を叩いた。
全然話についてきていないレンに
ななせは気にせず言い続けた。
「あのねあのね!
ゴウキくんに服をプレゼントしたいんだけど、
私、男の子の服のセンスはよく分からないから
レンくんに頼んでもいいかな?!
あとねあとね!
2人が服選んでる間に私この街を
見て歩きたいんだ〜!
ね! ね!
いいでしょ〜!!」
目を輝かせて言い寄ってくるななせに
レンは反論する気力を失ってため息をついて
やれやれといった感じで二つ返事をした。
レンがOKしてくれた事にななせはその場で万歳をして喜ぶと
レンに財布を預けて病室を出ようとした。
何かを思い出したように立ち止まると
ななせはレンとゴウキに言った。
「皆用事が終わったらタワー付近で待ち合わせね!」
そう言い残すとななせは病室から立ち去った。
静かになった病室でレンはななせから
渡された財布をズボンのポケットに入れながら
唖然としているゴウキに言った。
「待ち合わせなんて実際ないからな。
オレ達があいつ(ななせ)を探しに
この街を這いずり回るって事だから」
「行くぞ」と言ってレンは先に病室から出ると
ゴウキはバスケットを持って意気込んだ。
「や、やってやるよ、それくらい上等だ!」
ゴウキは患者服のまま慌ててレンの後を追いかけた。
その頃のななせは建物や人々を見ながら街を見て回っていた。
財布はレンに預けているため
買い物は出来ない事が少し残念だった。
「どこから見て回ろうかな〜」
来た道を戻ろうと後ろに振り返ると
ななせは誰かに正面からぶつかった。
「ご、ごめんなさい・・・!」
びっくりしてぶつかった人に謝ると
聞き覚えのあるとても優しい声が聞こえた。
「・・・やぁ」
ゆっくり顔を上げてぶつかった人の顔を見上げると
ボロボロの焦げ茶色のマントのフードを顔が見えないくらいまで
深くかぶったボルサリーノがななせを見下ろして微笑んでいた。
「ボンちゃん・・・!」
満面の笑みでボルサリーノを見上げると
ボルサリーノは口元に人差し指を当てて微笑んだ。
「・・・人ごみは苦手なんだ。
場所を移動しないかい?」
ななせは周りを見渡して頷いた。
「いいけど・・・
どこも人でいっぱいだよ・・・?」
ボルサリーノはフードは深くかぶり直すと
右手を差し出した。
「お気に入りの場所があるんだ。
きっと君も気に入るよ・・・」
帽子の奥から綺麗に光るルビー色の目でななせを見て言うと
ななせはボルサリーノの右手を握って離れないようについて行った。
しばらく歩くとクラウンシティの象徴であるクラウンタワーの前まで来た。
「ボンちゃん、どこまで行くの〜?」
「もう少し・・・かな」
へとへとになってきたななせは
スタスタと前を歩くボルサリーノに言うと
ボルサリーノは振り向いてニコッと笑った。
2人はタワーの中に入って
エレベーターで10階まで来た。
エレベーターが開いたその奥には
まるで庭園のようなお洒落な雰囲気のカフェがあった。
「すごい・・・!」
カフェの真ん中にある小さな噴水から流れる水の音に、
ほのかに漂うコーヒーの香り。
とても上品な空間だった。
ボルサリーノはフードを外して空いている席に座ると
カフェ全体に見惚れているななせを手招きした。
ななせは小走りでボルサリーノと相席した。
「クラウンシティで一番気に入ってる場所なんだ・・・」
目を閉じて背もたれに深く腰掛けながら
ボルサリーノは言った。
「何か飲む・・・?」
目を開いて
ななせにゆっくりとメニューを渡しながら言うと
ななせは首は横に振った。
「私、今お財布はレンくんに渡してあるから
お金ないよ・・・」
ボルサリーノは荷物がたくさん入って大きく膨らんでいるかばんにある
小さなポケットからこげ茶色の巾着袋を取り出した。
「・・・少しなら持ってる。
遠慮しないで」
巾着袋を上下に軽く振ると中からお金の音がした。
ななせははにかみながらメニューを受け取ると
メニューで口を隠しながらフフっと笑った。
「じゃあ・・・
お言葉に甘えて・・・!」
ボルサリーノもななせにつられて笑った。
その頃、タワーの付近でレンと
ランニングウェアのような動きやすそうな服を来たゴウキが
いつまで経ってもやって来ないななせをげんなりしながら
ベンチに座って待っていた。