02
異能者用の医療施設、センターに辿り着いたななせとレンは
受付の人からでゴウキの部屋を教えてもらい、
案内してもらった。
入院している患者のほとんどが背中に翼の生えた人々で、
ななせは傷薬を与えた青年を思い出した。
あの青年は腕が翼になっていた。
「・・・なんだここ。
飛行タイプの奴ら(異能者)ばっか入院してるじゃねぇか」
レンが前を翼の生えた人々を横目で見ながら言うと、
看護婦は苦笑いをして答えた。
「あぁ、そうなのよ〜。
ちょうど渡り鳥の来る季節だから
とても忙しくて・・・」
「渡り鳥?」
余所見していたななせが看護婦を見た時には
ゴウキのいる病室に辿り着いていて
看護婦はななせにニコッと笑いかけた。
「渡り鳥に関しては、
この街のジムリーダーである空海くんが一番詳しいと思うわよ。
彼、パイロットやりながら渡り鳥の研究と保護をしているから」
案内を終えた看護婦は「それじゃあ」と言うと
受付の方へと歩いて行った。
「渡り鳥、ねぇ・・・
まだそんなのがいたのか」
レンは興味無さそうに言うと
一足先にゴウキのいる部屋に入っていった。
「渡り鳥かぁ〜・・・」
だんだん渡り鳥の事が気になってきたななせは
早くジムリーダーの空海に会いたくなって
右腕を天井に上げて言った。
「空海さんに会いにレッツゴー!」
ゴウキが入院している事を忘れていたのか
ななせは病院の出口に向かって歩きだすと
レンに首根っこをつかまれ、ゴウキのいる病室に引きずり込まれた。
ゴウキの事を思い出したななせは
たははと苦笑いをした。
病室に入ってきたななせ達を見てゴウキの表情は明るくなり、
ベッドから降りて2人に駆け寄った。
「お前ら無事だったんだな!」
ゴウキはボロ雑巾の服ではなく少しサイズの大きい
綺麗な患者服を着ていた。
もちろん、左目の下には新しいパッチが貼られていた。
「会うのが遅くなってごめんね!
ゴウキくんこそ無事で良かった!」
ななせとゴウキは握手して手を上下に振り回した。
レンはゴウキにりんごを1つ放り投げながら言った。
「ほらよ」
「りんごだ・・・!
ありがとう、レン!」
りんごをキャッチしたゴウキは目を輝かせてレンを見ると
すぐにりんごにかぶりついた。
「レンくん、りんごなんてどこで手に入れたの?」
さっきまでレンがりんごを持っていなかったのに
ゴウキにりんごを渡した事に疑問を感じたななせは
レンに耳打ちした。
レンは体を傾けながらななせの話を聞くと
黙って病室の前をゆっくりと歩いているよぼよぼの老婆を指差した。
老婆のバスケットの中にりんごがいくつか入っていた。
「ま、まさか盗んだんじゃあ・・・!」
いきなり大声を出したななせの口をレンは右手で塞いだ。
「バッカ! くれたんだよ・・・!」
レンは小声でななせに言うと
老婆はレンを見て笑顔で小さく手を振った。
「あ、レンくん!
おばあさんが手を振ってるよ!」
ななせはレンの右手をはがして
笑顔で老婆に手を振り返した。
レンは老婆に背を向けたままだったが
ななせはレンの顔を見てフフフと笑った。
レンは舌打ちしながら照れ臭そうに頭をかいていた。
老婆はななせにゆっくり近づくとりんごの入った
バスケットを渡した。
「これ、良かったらあげる」
「いいのですかぁ?!」
ななせは喜びながらバスケットを受け取ると
老婆をゆっくりと頷き、レンを見て笑った。
「1時間くらい前に優しい彼(レン)が私のくじいた足をマッサージして
治してくれたうえに、ここまで運んでくれてね。
おかげで助かったわ〜。
お礼にこれ(りんご)渡そうと思ったんだけど、
彼は1つでいいって遠慮してて・・・」
ずっと背を向けたままのレンを
ゴウキはニヤニヤしながら見て
ななせは不思議そうに見た。
「ばあさん!
何はともあれりんごはもらうよ!」
「お体、お大事にしてください!」
ななせとゴウキは老婆を見えなくなるまで見送ると
2人は窓際で景色を眺めているレンに近寄った。
「レンくんってやっぱり優しいね〜」
「遠慮せずにもらっとけよ〜。
オレが全部食べるのにさ〜」
冷やかしてくる2人にイライラしたレンは
2人の声を掻き消すくらいの大声で言った。
「あーあーあー!!
どっかの誰かのお人好しな部分が
オレに伝染したのかもなぁーーーっ!!」
そう言うとレンは病室を出ようとした。
「どこ行くの?」
「外の空気吸いに行くだけだ」
ななせに呼び止められ
レンは立ち止まって振り向かずに言うと
病室を出て行った。
ななせとゴウキは目を丸くしたままレンを見送った。
「・・・ゴウキくんはこれからどうする?」
ななせはゴウキの方を見て振り向いた。
「ど、どうするって・・・?」
窓際に置いてある花瓶の横にバスケットを置きながら
ななせは言った。
「ゴウキくんはもう自由だよ。
あのゴミだらけの町にいた人達は全員解放されたみたいだし・・・。
でも・・・ゴウキくんの故郷であるあの町はもう
封鎖されるみたい・・・」
俯きながら話すななせの横顔を見ながらゴウキは言った。
「・・・そっか。
皆、解放されたのか・・・」
安心感とこれからどうしようという不安感が入り混じり、
ゴウキはベッドに腰掛けて食べ終えたりんごの芯を
ゴミ箱に向かって放り投げた。
りんごの芯は綺麗に宙を描きゴミ箱に入った。
ゴウキは振り向いてななせを見た。
「あ、あのさ・・・」
ななせは不思議そうにゴウキを見て頷くと
ゴウキはまっすぐななせを見つめて向き合った。
「オレをお前達の旅に連れてってくれよ」