02
「ななせにレン、か。 よろしく」
ルカはフフッと笑った。
ルカの笑顔を見たななせは
ルカが男である事を忘れかけた。
「話を戻していいかな?」
「うん!」
熱い紅茶を冷ますように
息を吹きかけていたななせは
ルカを見て笑った。
「キミ達と一緒にいた、赤毛の少年。
彼についてだが・・・」
「ゴウキくんの事?!」
勢いよく顔を上げたななせは
危うく紅茶をこぼしそうになった。
「名前は知らないが・・・
彼は今クラウンシティのセンターで治療を受けている。
もう少し遅かったら命の危険にあっていたそうだ」
「ゴウキくん、死んでない?!
大丈夫?!」
食いつくようにななせは
ルカに質問した。
ルカはななせの肩にソッと手を置いて答えた。
「医師曰く、もうしばらく安静にしていると
すぐ元気になるらしい」
それを聞いたななせはホッと
胸を撫で下ろして
レンにもたれかかった。
「良かったぁ・・・」
「おい」
レンに声をかけられ
ななせはハッとしてレンにもたれるのをやめた。
「ご、ごめん。
つい癖で・・・」
ななせが頭をポリポリかくと、
レンはため息をついた。
そうこうしてるうちに
ルカは茶菓子を持ってやって来た。
「今回の件について、キミ達には感謝している。
実はあの廃棄物だらけ場所、
アナザー地方の地図には記されていない場所だったんだ。
クリミアシティから山火事が起きているとの
通報を受けて消火しに来た時には驚いた。
あの場所にあんなに人が住んでいて
その上、麻薬中毒患者がたくさん発見された」
ななせは茶菓子を食べようと伸ばした手を止めて
ルカの話を聞いてうつむいた。
「レンから一通り話を聞いたのだが、
ガンゼルという男があの場所を仕切っていたそうだな?
だが、あの場所にはもうガンゼルはいなかった。
工場の中のほとんども破壊されていて
一体何の作っていたのか分からなかった」
うつむいたままのななせに
ルカはクッキーを1つ渡した。
「ガンゼルの指名手配所はアナザー地方中に渡っている。
ボクら(自衛隊)が必ず見つけて捕まえる」
ななせはゆっくりと顔を上げてクッキーを受け取ると
ルカを見て微笑んだ。
「あの場所で大規模な火事が起きたから
我々は地図に記されてないあの場所を見つけた。
たくさんの行方不明者が見つかった。
ガンゼルという悪人がいる事に気づいた。
キミ達には感謝の気持ちでいっぱいだ。
後の事は自衛隊(ボクら)に任せてくれ」
「うん・・・!」
ななせはクッキーを一口食べると
「美味しい!」と言って笑った。
茶菓子を食べ終えたななせは
自分が寝ていた部屋に戻り、
着替えてルカとレンがいるエレベーター前にやって来た。
ずっと拘束された状態のレンは
首や肩を回したりしていた。
「はぁ〜ぁ・・・」
ため息まじりレンが呟くと、
ルカはレンを見て言った。
「拘束と解いて技を発動したりするなよ、レン。
お前は電気タイプだから
もしそんな事したら皆が驚いて死んでしまうかもしれない」
「皆・・・?」
ななせは自分達以外に人がいるのかと
辺りを見回した。
「あぁ、皆というのは彼らの事だよ」
ルカは泳いでる魚達を指差した。
「彼らの保護も仕事の一環でね。
今では家族同然さ」
ルカが水槽に手を触れると
ルカの手にたくさん魚達が集まってきた。
「そろそろ入り口へ向かおうか」
ルカは水槽の向こうにいる魚達に別れを告げると
ななせとレンをエレベーターに乗せて
上に上がった。
自衛隊の建物を出ると
レンは拘束を解除されて、
大きく伸びをした。
「赤髪の少年のいる病院まで送ってやろう」
ルカは近くにあった車の扉を開けて
ななせを見た。
「なんか特別待遇受けてるみたいだね!」
ななせはウキウキしながら
車に乗り込んだ。
肩回ししながらレンは
車に向かっていると、
ルカはレンを真っ直ぐ見ながら言った。
「これはボクの思い違いなのかもしれないが・・・
レン、お前は自衛隊(ここ)に世話になった事は・・・?」
「・・・ねぇよ」
レンは肩回しを止めて一瞬ルカを見ると
車に乗り込んで、扉を閉めた。
「・・・そうか」
納得いってないような様子で
ルカはそう言うと運転席の方に座った。
クラウンシティに向かう道のりにある森の道路を
車で走る事15分。
車は突然止まった。
「どうしたの?」
ななせは運転席にいるルカを見た。
ルカは渋い顔をしながら車を降りた。
車を降りたルカは前を塞いでいる大木に向かって歩いた。
「・・・またか・・・」
ルカが呟くと
車から降りたななせがやって来た。
「木が倒れてこれじゃあ通れないね」
ななせが大木をまじまじと眺めていると、
ルカは言った。
「ここ最近、森で騒ぎがあったような痕跡が
アナザー地方中で発見されているんだ。
この大木もきっとそれだろう」
ルカはため息をつきながら
懐から丸めた書類を取り出し、
胸ポケットに挿していたペンで
さらさらと書き込むと書類を丸めて懐に入れた。
「植物関連は草軍のペリドットに任せるとして・・・
残念だが、ここから徒歩になるが大丈夫か?」
2人の帰りが遅いと感じたのか
レンも車から降りてやって来た。
ななせは元気よく答えた。
「うん!!
景色を楽しみながらクラウンシティに向かうの賛成!」
レンも大木を見て察したのか
ため息をついた。
「本当に申し訳ない。
車は部下に運んでもらおう」
ルカはタブレットを取り出し、
タブレットの画面を4回ほど人差し指で叩くと
タブレットをしまって、歩きだした。
「では、クラウンシティに向かおうか」
ななせとレンはルカに続いて歩き出した。
アナザー地方のどこかにある建物。
ろうそく1本の明かりを頼りに
ガンゼルはタブレットで誰かと通話をしながら
紙に必死に何かを書き込んでいた。
「これを・・・これをサリバン様に渡さねば・・・!」
「どうしました?
何をそんなに必死になって書き込んでいるのです」
タブレットの向こう側にいる通話相手の声は
イライラしているのが伝わってくる。
「あなたがあんな大規模な事件を起こしたせいで
私が動かなければいけなくなったのですよ?
少しは反省しなさい」
ガンゼルは不気味に笑うと
タブレットの画面を3回叩いた。
「あなた様に見せようと思って・・・」
さっきまでくどくどと文句を言っていた
通話相手は黙ってしまった。
「とても興味深い奴らを見つけましてね・・・
きっとあなた様も会うでしょう。
ねぇ? グリード様」
古風な喫茶店でコーヒーの入ったカップを
テーブルの上に置いて
グリードはタブレットの画面に映っている
ななせとレンを見て
細く開いた目でにやりと笑った。
「これはこれは・・・
何とも興味深いものですね・・・」