14
ゴウキは風で髪がなびいているプリシモを見て唾を飲んだ。
緊張で高鳴る鼓動、張り詰めた空気を全身で感じる。
深く深呼吸するとゴウキはプリシモに向かって走った。
幸いプリシモは両目が見えない、
ゴウキはチャンスだと感じプリシモの顔を殴ろうと拳を振りかざした。
振りかざした拳はプリシモの顔に当たる前に
ゴウキの動きは動かなくなった。
何かに引っ張られた感じで体はピクリともしなかった。
「なっ・・・んで・・・っ」
ゴウキはプリシモの額が青く光ってることに気づいた。
ガンゼルがしゃがれた声で笑ったと同時に
プリシモは前髪でほとんど隠れていた顔を上げた。
プリシモの額を見てゴウキは声をあげた。
プリシモの額にビー玉のような大きさの目が
ギョロリとゴウキを見た。
額の目は青く光っていた。
「プリシモのとっておきの技、”サイコキネシス”・・・
額の目に宿る念の力を解き放て・・・!!」
ガンゼルの声を聞いたプリシモは額の目を大きく見開いて、
目から赤紫のレーザーをゴウキに向かって放った。
サイコキネシスを食らったゴウキは
その場から吹っ飛んだ。
ななせはゴウキの落下地点まで走って来て
キャッチしようとしたが、
逆に下敷きになってしまった。
「なんで・・・助けたんだよ・・・」
ゴウキはななせの上から退いて
起き上がろうとした。
ななせは苦笑いしながら
起き上がってゴウキを見て言った。
「えへへ・・・
黙って見てるなんて出来ないよ」
ななせはゴウキの手を肩に回して
立ち上がるのを手伝った。
「私は全然弱いかもしれないけど・・・
出来る事はしたい・・・!!
だから、頑張ろう!!
ここから出て、もっと広い世界を見てみようよ!!」
擦り傷のついた顔でななせは笑った。
「無・・・理だ・・・」
ゴウキはななせの笑顔を見て
ポツリと弱音を吐いた。
「どうして・・・?」
「オレ・・・は、炎技を使えない・・・
格闘技で攻撃しようとしても、プリシモの”サイコキネシス”で
触れる事すら出来ない・・・」
ゴウキはうつむくと
炎に包まれていた髪から炎が消えてしまった。
「自分の力で制御出来ないから、パッチを剥がせない・・・
パッチを剥がして力が暴走したら・・・
オレは・・・
オレは・・・死ぬんだってよ・・・」
誰にも言えなかった悩みをななせに打ち明けた。
「オレはまだ・・・死にたく・・・ない・・・っ」
ななせはゴウキの体の原素が黒く濁っていくのが分かった。
「ど、どうしたの・・・?!
大丈夫・・・?!」
ななせはゴウキの背中をさすって励まそうとした。
すると、ななせはゴウキの背中に小さな虫が
張り付いているのに気づいた。
虫は見た事がない真っ黒の虫だった。
そして、ななせは気づいた。
「もしかしてこの虫がゴウキくんを・・・?!」
ななせは虫が苦手だったため
少し控えめに虫を手で掃った。
虫はななせの手には目もくれず
ゴウキの背中に張り付いたままだった。
ななせは虫を掃うのを止めて
ゴウキの肩を揺すった。
「ゴウキくん!!
背中に虫が・・・!!」
ゴウキはボーっとして反応しなかった。
その間にもゴウキの白い原素はどんどん黒く濁っていった。
ななせは覚悟を決めて虫を見ると
平手打ちをするように虫をゴウキの背中から掃った。
虫に触れた時にななせは虫に手の平を噛まれた。
「いっ・・・!!」
虫を振り払って噛まれた場所を見ると
少し血が出ていた。
虫は地面に落下すると
どこかへと飛んで行ってしまった。
ななせは噛まれた手をギュっと握ると
ゴウキは顔を上げてななせを見た。
「あれ、オレ・・・」
黒く濁っていた原素は白く戻っていくのが分かり、
ななせはホッとした。
「ゴウキくん、何かに洗脳されてたみたいだよ。
でも、もう大丈夫!!
私が追い払ったから・・・!」
ななせは笑顔でゴウキに言うと
ゴウキの手を取り、自分のハンカチを渡した。
「ちょっとの間、私を頼ってくれないかな・・・?
私が、あなたの力を暴走させない!」
真っ直ぐ真剣に見つめてくるななせを見て
ゴウキは頷いて、ハンカチを握った。
「・・・頼む・・・!」
ななせはニコッと笑うと、
後ろに下がって大きな声で言った。
「いくよ、ゴウキくん!!
あなたの力、解放しよう!!」
ゴウキは左目の下にあるパッチを勢いよく剥がすと
ゴウキは燃え盛る炎に包まれると
やがて、バトルフィールドは炎に囲まれた。
ゴウキを包んでいた炎は消えると
ゴウキの髪は炎に包まれていた。
ななせから渡されたハンカチは
右手首に巻きつけてあった。
ななせはまっすぐガンゼルを見た。
「ありったけの力を相手にぶつけよう・・・!」
ななせがガンゼルに人差し指を向けたと同時に
ゴウキは全身に炎をまとい、
プリシモに向かって走った。
雄叫びを上げながら走っていると
炎の勢いはどんどん増していった。
ガンゼルは向かってくるゴウキに
杖の先を向けて言った。
「”サイコキネシス”で終わらせてくれよう・・・!」
プリシモは額の目を見開いてゴウキを見ると、
ゴウキはまたプリシモの目の前で動きが止まった。
ななせは真っ直ぐガンゼルを見たまま言った。
「動きは止められても、
ゴウキくんの燃え盛る炎(意思)は止められないよ!!」
ゴウキは唸ると
頭の炎から炎が放出されプリシモは炎に包まれた。
プリシモは悲鳴をあげながら
炎を消そうとその場を走り回った。
ゴウキは自由に動けるようになったのが分かると
炎に包まれた状態でプリシモに突進した。
プリシモは壁に叩きつけられると
意識を失ったのかぐったりとした。
ガンゼルは舌打ちをすると、
プリシモを担いで懐から小さな酒瓶を取り出すと
地面に叩き割って逃げるようにその場から立ち去った。
「待てっ!!」
レンが追いかけようとすると、
酒瓶の割れた場所が爆発した。
ななせは悲鳴をあげると爆発の勢いで倒れた。
周りは火事現場のように炎に包まれて熱かった。
酸素ボンベの効果が切れてきているのか
だんだん息苦しくなるのが分かった。
「レンくーーーん!!!
ゴウキくーーーん!!!」
酸素がもったいない気がしたが
2人の姿が見えなくて不安に思ったななせは
大声で2人の名前を呼び続けた。
ガンゼル見失ったレンは
ななせの悲鳴が聞こえたのに気づき、
辺りを見回したが周りは炎に包まれていて
自分が今どこにいるのかすら分からなかった。
「おい!! チビーーー!!」
レンは2人の反応が来るかと思い、
大声で呼んでみたが建物の崩れる音などで
2人の声は全く聞こえなかった。
レンは舌打ちをすると
炎を避けながら2人を探しに歩いた。
少し歩くと、地面に倒れているゴウキを見つけた。
「チビ!!」
レンはゴウキに駆け寄り、
気を失っている事が分かると
ゴウキを担いだ。
ゴウキの頭の炎は消えていて
ななせから渡されたハンカチは
燃えてなくなっていた。
レンはゴウキを担いだまま
炎を避けながらななせを探しに歩いた。
「おーーーい!!」
正直、名前を呼べば反応が来るかもしれないと思った。
だけど、レンはまだななせの名前を呼びたくなかった。
認めてない奴の名前を呼びたくないという変なプライドのせいで。
「おーーーい!! 聞こえてるなら返事しろーーー!!」
レンはふと、ななせの酸素ボンベの効果が
もうじき切れる事を思い出し走り出すと、
レンの目の前に水をまとった波動が通過し、
波動が通った部分の火は消火された。
レンは立ち止まり、
波動を放った相手を見た。
レンの目線の向こうには
青色と黄色が特徴的な軍服を着た
毛先に軽くカールがかかった金髪の女性が
ぐったりしたななせを抱え、
剣をレンに向けて真っ直ぐレンを見ていた。
「動くな。
ここで何をしていたのか、詳しく聞かせてもらおう」
重みがかった低い声で言うと
サファイアのような青い目でレンを真っ直ぐ見ながら
レンにゆっくりと近寄った。