12
ガンゼルは真っ白い特殊なスーツを着て
ガスマスクをつけ、プリシモの背中に飛び乗った。
ガンゼルは杖でプリシモの頭を
叩いて叫んだ。
「ゆけ! プリシモ!
あやつらにお前の毒の脅威を見せてやれ!」
ななせはレンの腕を握りながら
自分の手が震えている事に気付いた。
「どうする?!」
レンは振り向いてななせを見ると
ななせは慌てて言った。
「と、とりあえず!
ここから出て広い所に・・・!!」
レンはゴウキとななせの手を引いて
非常階段に向かって走り出した。
すぐさまプリシモは向きを変えて
レン達を追いかけた。
「足がもげるまで走れっ!!」
レンは階段を走って上りながらゴウキとななせに言った。
ななせは重たい酸素マスクを抱え
レンに手を引っ張られながら走った。
ゴウキはレンの手を振り払い
ななせの背中を軽く押しながら走った。
「大丈夫か?!」
ななせはゴウキを見て頷いた。
走っているせいか
なぜだかとても息苦しくて
しゃべる事が出来なかった。
約5m後ろのほうでは
ガンゼルが高笑いが響く中
プリシモが右目を光らせて8本の手を使って
追いかけてきていた。
3人は階段を何百段も上がり
工場の非常出口にたどり着いた。
レンが扉を開けようとすると
ロックがかかっていて開かなかった。
「手こずらせやがって・・・っ!」
レンは暗証番号を打ち込む機械に
電気ショックを当てると機械が壊れ、
扉が開いた。
扉が開いたと同時に3人は工場から出て走りだした。
体力が限界に近いななせはその場で躓いて転びそうになったが、
ゴウキがななせを抱き上げてレンの後を追いかけた。
「なんだ、もう限界か?!」
しばらく走るとレンは立ち止まって
ななせを見た。
ゴウキからゆっくりと地面に降ろされたななせは
地面に座り込み息を整えた。
「酸素ボンベはあと5時間で切れるはずだ。
でもとても息苦しそう・・・
大丈夫か?」
ゴウキはななせの背中をさすりながら言った。
そうこうしてる内に
プリシモは逃げ惑う人々を無視して
踏み潰しながらレン達に追いかけてきた。
レンはゴウキとななせのの前に出て
右手人差し指をプリシモに向けて
レーザーのような電撃を放った。
レーザーは見事プリシモの右目に命中し
プリシモはさっきよりもかん高い悲鳴をあげて
その場で暴れだした。
ガンゼルは暴れるプリシモの背中を杖で
何度も叩きながら怒鳴った。
「えぇい! 暴れるな!
落ち着け! お前の目くらい治してやる!」
レンとゴウキはななせを抱えて
プリシモと8mほど距離を置いて様子を見た。
プリシモは「ううう」と唸りながら
みるみる子供の姿に戻った。
ガンゼルは地面にうずくまってる
プリシモの隣に立ってレン達を見た。
「サリバン博士の”おもちゃ箱”をだいぶ荒らしてしまった。
早く研究の成果の報告書類と
お前達を渡さねば
さぞお怒りになるだろう」
「おもちゃ箱・・・?」
レンは警戒態勢を崩さず
ガンゼルと睨みつけた。
ガンゼルはしゃがれた声で笑いながら話した。
「そう、ここはゴミ処理場という名の
サリバン博士の”おもちゃ箱”である。
サリバン博士は研究に熱心な方だが
遊びにも熱心でねぇ・・・
このゴミ処理場という箱に住む人間と異能者を
使って色々な研究もするのさ」
やっと息が整ったななせは
ガンゼルとプリシモを見た。
プリシモは地面にうずくまったまま
唸っている。
「た、助けてあげなきゃ・・・!」
ななせはバッグから傷薬を1つ取り出すと
ゴウキに腕を掴まれた。
「あいつは敵だぞ?!
なんで助けるんだよ?!」
「そ、それは・・・」
ごにょごにょ話すななせに
レンはななせに背を向けたまま言った。
「じじいに捕まったあいつ(プリシモ)はついてなかった。
それだけの事だ。
オレ達(異能者)の世界はそんなもんだ・・・」
ななせは苦しそうに唸りながら
目を押さえてるプリシモを見た。
「そんなのって・・・」
ななせは歯を食いしばってうつむいた。
あんまりだよ・・・
知れば知るほど異能者の世界の残酷さを感じる。
目の前で苦しむプリシモに何もしてやれない
無力な自分が悔しかった。
もしプリシモの主がガンゼルでなく、優しい人だったら
きっとプリシモはひどい扱いを受けないだろう。
ななせは急に頭痛がして頭を押さえた。
ゴウキが心配して何か言っているが
ななせの耳には入らなかった。
ガンゼルはななせを見て言った。
「優しいお嬢さんよ、
キミは何も知らないのだな?
ならこれから先、キミは世界に絶望するだろう・・・
実はサリバン博士もこの世界に絶望している。
だから博士は毎日この世界が希望に満たされるようになる
研究をしている」
「ハッ!
異能者達をダークボールで支配して
希望に満たされる世界を作るってか?
ふざけんなっ!!!」
レンがガンゼルに怒鳴ると
空が急に雨雲に包まれ、雷が轟きだした。
ガンゼルは驚いて空を見上げた。
「オレ達だって生きてるんだ。
これ以上誰かに生き方を支配されてたまっかよ・・・っ!」
レンの瞳が黄色に輝き、
体から電気が走りだした。
ガンゼルは愕然としながらレンを見ると
呪文のように呟いて空を見上げて両手を広げた。
「もしや・・・雷神・・・
いや、雷神は博士が手に入れたはず・・・
ではなぜこやつ(レン)はこれほどの
数の雨雲を呼べるのだ・・・?!
普通の雷タイプの奴らじゃあ
これほどの力は無いはずだ・・・!」
目を大きく見開いてぶつぶつ呟くガンゼルを見て
3人は不気味に感じて3歩ほど退いた。
ガンゼルは大きく見開いた目でレン達を見ると、
しゃがれた声で不気味に笑って
プリシモの肩を杖で軽く叩き、
ポケットからダークボールを1つ取り出した。
「そこの電気の青年・・・
実に興味深い・・・
もしかすると我々の求めているものかもしれぬ・・・!」
肩を叩かれ、プリシモはフラつきながら立ち上がった。
「オレも戦う・・・!」
ゴウキはレンの隣に立って
ガンゼルを睨んだ。
「足引っ張んなよ・・・!」
レンに言われてゴウキはうなづいて構えた。
ななせはゆっくり立ち上がり、
ガンゼルを見た。
「詳しい話とか私にはよく分からないけど
私はあなたに負けない・・・っ!
勝ってここにいる人達を解放して
プリシモちゃんも助ける・・・!」
ななせの瞳が一瞬黄色に輝くと
ななせの周りに大量の白く輝く原素が現れた。
ななせはガンゼルをキッと睨んだ。