11
工場の暗い廊下を3人は慎重に歩いた。
ななせは先頭を歩くレンの服の裾を
軽くつまんで離れないように歩いた。
ゴウキはななせの後ろについて歩いた。
40分以上歩いたが
工場の中は見張っている者には1人にも出会っていない。
レンは一度立ち止まり、ななせとゴウキを見た。
「見張り1人も置いてないっておかしいだろ・・・」
「そうか?
オレは楽に進めてラッキーだと思うけど・・・」
ななせはレンとゴウキの話している内容が
よく理解出来ず少し不満だった。
そんな時、ふと誰かに見られているような気がして
ななせは後ろを振り返った。
だが後ろには誰もいなかった。
でも真っ暗な通路の奥に誰かがいそうな気がした。
「誰かいるの・・・?」
ななせは真っ暗な通路に向かって言うと
レンはななせの台詞を聞いて
真っ暗な通路を見て警戒した。
「誰かいたのか?!」
3人は通路の奥を黙って見ながら
警戒した態勢を崩さなかった。
しばらく沈黙が続いた。
だが、真っ暗な通路の奥の反応はない。
「な、なんだよ・・・
誰もいないじゃないか・・・」
ゴウキは警戒態勢を解いて一安心した。
レンはななせの右手を握って
黙って先に進んだ。
「お、おい!
オレを置いていくな!」
ゴウキも慌てて2人の後を追った。
レンは足早に歩きながら
ななせに言った。
「”何か”いるな・・・
今気付いたが、どうやらオレ達は
ずっと後をつけられてたみたいだな・・・」
「嘘?!
全然気付かなかった」
ななせはレンに手を引っ張られながら歩いた。
レンは一瞬後ろを見ると大声で言った。
「走れっ!!」
レンはななせの手を引っ張って走り出した。
「えぇっ?!」
ゴウキはレンの声に驚いて走り出すと
後ろから大きな蜘蛛のような物体が
黄色い目を光らせながら3人を追いかけてきた。
ななせは転びそうになりながらも
懸命に走った。
何回か曲がり角を曲がっていると
蜘蛛のような物体は正面に劇特して
90度向きを変えて追いかけてくる事が分かった。
「あいつ意外と間抜けだな!」
ゴウキはニカッと笑うと
走りながらレンに言った。
レンは蜘蛛のような物体の目に向かって
人差し指を向けてレーザーのような電気を放つと
蜘蛛の左目に見事当たった。
蜘蛛はかん高い悲鳴をあげて
その場に転んだ。
その隙に3人はエレベーターに乗って
地下に降りた。
エレベーターがとまり、
3人はエレベーターから降りてみると、
そこは研究室のような広い空間だった。
モニターの前に猫背の白衣姿が目立つ老人がいた。
レンはななせの手を離して1歩前に出て
老人に向かって言った。
「よお、じいさん。
ちょっとあんたに言いたい事があって来たぜ」
老人はモニターを見ながらしゃがれた声で笑うと
ゆっくりと体ごと振り向いた。
ぶ厚い眼鏡に魔女のような鼻、
でこが広く綿毛のような白い髪に
不気味なデザインをした杖をついていた。
「なんの用かね・・・?」
「オレ達をここから出しちゃあくれねぇか?」
ななせはレンの目を見て
不良の頭領と言われていた頃のレンを
思い出した。
今のレンの目はあの時(不良の頭領)の目だ、
ななせはそう思った。
「オレ達はこのゴミ捨て場の住民じゃねぇ。
迷い込んだだけだ。
それにオレ達は一刻も早くここから
出てやらなきゃいけない事がある。
もし出してやる気がねぇんなら
力ずくでも出てやる」
そう言うとレンの金髪部分が淡く光って
体中に電気が走り出した。
老人はしゃがれた声で不気味に笑うと
モニターの左側にある大きな機械に近寄った。
「口を慎みたまえよ、若人。
私の名はガンゼル。
この処理場の支配人であり、
天才科学者であるサリバン博士の弟子である」
「何・・・っ?!」
「サリバン?!」
ガンゼルの台詞を聞いて
ななせとレンはすぐにグリードを思い出した。
彼を包み込むように漂う真っ黒の原素、
不気味にすら感じる笑顔で
ダークボールでレンの不良仲間を全員捕まえていった
あの悲劇が脳裏によみがえった。
レンは怒りがふつふつとこみ上がり
歯を食いしばり拳を強く握り締めて
ガンゼルを見た。
「グリードはオレの仲間を全員連れ去った・・・っ!
サリバンに捧げるとか言ってなぁ・・・っ!!」
レンの体から激しく電気が走りだした。
ガンゼルは大きな機械からダークボールを
1つ取り出すと、振り返ってレンを見た。
「活きがいいのがおるのう・・・」
ガンゼルはしゃがれた声で不気味に笑うと、
ガンゼルの後ろにある扉が開き、
深い紫色した長い髪の子供がフラつきながら
ガンゼルの隣に立った。
「あ・・・っ!」
ななせは子供を見て声を挙げた。
人々が物乞いをしているところを
ななせが割り込むと怒って周りの人々に
毒ガスを放ったあの子供だった。
「知ってるのか?」
レンは振り向いてななせを見ると、
ななせはうなづいた。
「私があの子を怒らせたから、
たくさんの人が死んじゃったの・・・」
ななせは人々が子供の出した毒ガスで
苦しそうに息絶えていくのを思い出した。
ガンゼルはしゃがれた声で怒鳴ると
子供の背中を杖で叩いた。
「どうした、プリシモ。
シャキっとせんか! このノロマ!」
背中を叩かれた子供は「うっ」と言って膝まづくと、
ゆっくりと立ち上がって顔を上げた。
プリシモという子供の左目がぐちゃぐちゃに潰れていた。
プリシモの顔を見たななせは口を手で覆い、
悲鳴をあげそうになった。
「どこかで鼠でも追いかけて
遊んでおったな・・・
どうした、プリシモ・・・
鼠に目でも噛まれたか?」
ガンゼルは不気味に笑うと
レン達を見て言った。
「喜べ、お前達はこのゴミ処理場から
出られるぞ。」
「ほ、本当か?!」
ゴウキは前に嬉しそうに1歩前に出て言った。
「あぁ、この処理場から出してやるともさ。
お前達のような問題児は
サリバン博士の所に行ってもらおう」
ガンゼルはそう言うと
杖でプリシモを前に突き出した。
「プリシモ、殺さない程度にやれ」
ガンゼルに前に突き出されたプリシモは地面に倒れると、
ヘドロのような髪がプリシモを包んで
やがて大きな蜘蛛のような物体になった。
レンはななせを庇って1歩退いた。
「こいつ・・・!
さっき追いかけてきたやつじゃねぇか!」
ゴウキはエレベーターに駆け寄り、
ボタンを連打した。
「駄目だっ!
エレベーターが動いていない!」
どんどん大きくなっていくプリシモを見上げると
ななせはレンの腕を掴んでレンを見た。
「レンくん!」
レンは右目を光らせてこちらに振り向くプリシモを
見ながらななせをに言った。
「生きてここから出たいなら
オレに命令しろ!」
「・・・うん!」
ななせは決意した目で
蜘蛛のような物体になったプリシモを見て頷いた。