10
30分歩くとななせとレンは
ゴウキと合流した。
「勝手にどっか行ったから心配したんだそ!」
「戻るってちゃんと言っただろーが」
叱ってくるゴウキにうんざりしながら答えると
レンはななせの手を離した。
ゴウキはななせを見て驚いて
レンに言った。
「おい、連れて来たのか?!
人間ってオレ達より弱いんじゃ・・・」
「私、皆の力になりたいの!」
ななせはゴウキの前に立って
真っ直ぐゴウキを見て言った。
ななせの真っ直ぐな瞳にゴウキは
言い返す言葉が出なかった。
「頼むからトラブルだけは起こすなよ」
「うん!」
ため息まじりにレンが言うと
ななせは笑顔で返事した。
しばらく歩くと、
3人は大きな工場の建物を見つけ
物陰に隠れながら様子を伺った。
「働ける者はこの工場で肉体労働をするんだ。
肉体労働が出来ない奴はゴミ拾い。
工場の支配人はガンゼルっていうじじいだ。
人間も異能者もゴミ扱いする最低な奴だ」
「許せないね・・・!」
ゴウキの説明にななせは立ち上がろうとすると、
レンに頭を叩かれ、しりもちをついた。
「いた!」
「お前は黙ってじっとしてろ」
レンに叩かれた部分を両手で押さえながら
ななせは黙った。
ゴウキは苦笑いすると説明を続けた。
「お前らがいない間に色々情報を手に入れたぞ。
工場の中に外に出られる手がかりがあるらしい。
それと、ガンゼルは何かを”みつゆばいばい”してるらしい」
「密輸売買か・・・良くねぇもんだろうな・・・」
ゴウキとレンの話にななせは
ついて行けなかった。
「(みつゆ・・・バイバイ?)」
レンに話の内容を聞きたかったが
「黙ってろ」と言われたため
発言するのをやめた。
ななせは深い紫色の髪をした子供の事を考えた。
「(あの子、絶対異能者だ・・・
私より小さいのに平気で人を殺しちゃうなんて・・・)」
ななせが落ち込んでいると
レンに軽く頭を叩かれた。
「おい、ボーっとすんな、行くぞ」
「あ、待って!」
ななせは急いで立ち上がり、
ゴウキとレンの後を追いかけた。
時刻は午後5時過ぎ。
ななせの酸素マスクの効果が切れるまで
あと、7時間。
ゴウキに工場の中に入れる抜け道を案内してもらい、
狭くて足場の悪い道を何度も歩き
3人は工場の物置部屋の天井に辿り着いた。
「お前、戦えるか?」
レンは見張りがいるかを確認している
ゴウキに聞いた。
「体術なら得意だ!」
ゴウキは誇らしげ笑って答えると、
レンは呆れてため息をついた。
「そうじゃなくて、
きちんと自分の力使えるのか?」
レンの言葉を聴いてゴウキから笑顔が消えた。
「・・・オレ、上手く力使えないんだ。
いつも無駄に炎出しちまって
昔、皆にすごい迷惑かけたんだ。
その時に、ガンゼル手下が
オレにこのパッチをくれたんだ。
原素(エレス)の流れが悪いだとかで・・・
このパッチを貼ってから
力はほとんど使えなくなった」
安全だと判断したゴウキは
先に天井から地面に降りた。
レンはななせを抱きかかえて
ゴウキに続いて地面に降りた。
ななせはレンにそっと地面に降ろしてもらうと、
辺りを見回した。
物置部屋には布がかぶせられた物が
隅の方に置かれてあって
ほこりっぽかった。
ななせは布がかぶせてあるのに
興味を示して近づこうとすると、
レンがななせの首根っこを掴んだ。
レンはななせの首根っこを掴んだまま
ゴウキに話した。
「それはお前の完全な修行不足だ。
力の扱いぐらい自分でなんとかしろ」
「な、なんだと・・・?!」
レンの発言にゴウキは腹が立った。
「体術なんて異能者なら誰だって出来る。
それに、いざじじい(ガンゼル)と闘うってなると
力無しでは無理だろうな。
あんまオレの足引っ張んなよ」
レンはななせを開放して
扉を少し開けて安全確認をした。
ゴウキは下唇をギュッと噛みしめた。
すると、ななせはゴウキの肩にそっと手を置いた。
「ごめんね、レンくんは
きっと君の事心配してるんだと思う。
だからあんまり気にしないで!
さ、行こう!」
「あ、おぉ・・・」
ゴウキはななせに腕を引っ張らればがら
自分の不甲斐なさを感じた。