09
目を覚ますとななせは
ゴウキの家のソファーに横になっていた。
視界にレンの姿はなかった。
ななせは起き上がろうとすると、
近くでガラスの割れる音がして
驚いて起き上がって音のした方を見ると、
レンが苦しそうに机に突っ伏したまま唸っていた。
ガラスの割れた音は
水の入っていたグラスを
レンが落とした音だった。
「レンくん?!」
ななせはレンに駆け寄ると
レンの腕に湿疹が出来ていた。
「ねぇ! 大丈夫?! 傷薬ならあるよ!!」
ななせはバッグを持って来て
レンに傷薬を差し出した。
レンは机に突っ伏したまま
絞り出すような声で言った。
「毒消し・・・
毒消し・・・持ってるか・・・?」
レンが毒を浴びていた事に今気付いたななせは
バッグの中をあさった。
「毒消し、3つだけあるよ!
だからレンくん、死なないで!」
毒消しと書いてある注射器の入った透明のケースを1つ取り出して
震えているレンの手のひらに置いた。
「ケースから出して渡せよ・・・」
「ご、ごめん!」
ななせは慌ててケースから
細い注射器を出してレンの手のひらに置いた。
レンは震える手つきで左腕に注射器を射した。
注射器の中の液体が全部レンの中に入ったと同時に
腕の湿疹は綺麗に消え、
レンは一息ついて注射器を抜いて
体を起こした。
「大丈夫・・・?
もう元気になった・・・?」
レンから空になった注射器を受け取りながら
ななせは恐る恐るレンに聞いた。
「あぁ」
ななせに注射器を渡し終えると
レンは大きく伸びをして言った。
「良かった・・・!」
ななせはホッと一息をつくと
レンは立ち上がって言った。
「今からまた散策に行って
チビ(ゴウキ)と合流しに行ってくる。
・・・その・・・」
レンはななせに背を向けて頭をかいた。
「ん?」
ななせはきょとんとしてレンを見ていると、
レンは黙ってななせに左手を差し出した。
「どうせお前1人でどっか行って
トラブルに巻き込まれるだろ。
そうなると面倒だから・・・
その・・・オレから離れるな」
ななせは共に行動出来る事が嬉しくて
図分の表情がみるみる明るくなるのが分かった。
「・・・・うん!!!」
酸素ボンベとバッグを持ってななせは
自分より大きいレンの左手を右手で握った。
留守番している時は自分が
お荷物のように感じてとても寂しかったが
さっきのレンの台詞を聞いて
必要とされているような感じがして嬉しかった。
ニコニコしながら見てくるななせを一瞬見て
レンはそっぽを向いてななせの手を握り返して
ななせの手を引いてゴウキの家を出た。
足場の悪い場所を何回か歩き、
ななせは辺りの様子を見ながらレンの隣を歩いた。
泣き止まない子供をあやす女性やゴミ拾いをする女性達、
タバコを吸って何やら悪い話をしている男性達、
殴り合いなどの揉め事をしている若者達など
ゴミ捨て場というより1つの街だった。
皆 雑巾のようなみすぼらしい服装をしていた。
「おい、兄ちゃん達、
服とバッグ置いてけよ」
若者3人に囲まれ
レンは足と止め、ななせは3人を警戒してレンにくっついた。
「どけ、人間のクズが」
レンは3人を睨みつけると
若者達はクスクスと笑った。
その時、一瞬の出来事だった。
1人の若者が白目を向いて倒れた。
残りの若者達は全然状況がつかめず、その場を1歩退いた。
「あんまオレを怒らすなよ・・・」
レンの髪にかすかに電気が走っていた。
「ひ、ひぃ・・・! 異能者・・・悪魔の使者・・・っ!!」
レンの髪からほとばしる電気を見て
残りの若者達はレンを見て転びそうにながら
逃げ去った。
ななせはレンの顔を見上げると、
レンの目線は遠くの方を見ていた。
「悪魔の使者・・・か」
そう呟くとレンはななせの手を離して
歩き出した。
前を歩くレンの背中は悲しそうだった。
ななせはレンを追いかけて
レンの手を握った。
「レンくんは悪魔の使者なんかじゃないよ・・・!
優しくて良い人だよ・・・!」
いきなり手を握られて驚いたレンは
真っ直ぐ自分を見つめるななせを見た。
「皆がレンくんの事悪く言っても、
私はレンくんの良いところ知ってるから・・・!
私はずっとレンくんの味方だからね!」
ななせはニコッと笑うと
レンはそっぽ向いた。
「勝手にしろ」
そう言ってレンはななせの手を握り返し
ななせはレンの隣を歩いた。