03
あまりの蒸し暑さにレンは目を覚ました。
ぼやけた視界に赤髪の少年がレンの顔を覗き込んでいた。
「・・・第一・・・村人か・・・」
レンは枯れた声で呟くと少年は
驚く様子を見せずに持っていた水筒を
レンに渡した。
「水、飲め」
レンは水筒の中で響く水の音を聞いて飛び起きて、
少年から渡された水筒の水を一気に飲み干した。
「お前、どこから来たんだ?」
少年はレンの隣に座り、聞いた。
やっと視界がハッキリしてきたレンは
少年に空っぽになった水筒を返して答えた。
「クリミアシティだ」
少年は左目の下に白いパッチを貼っていて、
服装はボロ雑巾のようで全身汚れていた。
「クリミアシティ・・・?」
少年の目は好奇心に満ちた目で。
レンを見ている。
「クリミアシティぐらい行った事あるだろ?
それよりここはどこなんだ?」
レンはその場に立ち上がり、辺りを見回した。
日はもう暮れていて辺りは暗かったが
ゴミの量は変わっていなかった。
「ゴミ処理場だ。
見て分かるだろ、このゴミの量。
全部人間が出したゴミだせ?」
少年はボロボロの鞄からもう1つ水筒を取り出し
一口飲んだ。
「スラム街でもある」
少年は立ち上がってレンに近寄った。
「お前、ここに来たって事は
もうここから外には出られないぞ」
レンの隣に並んで少年は言った。
「一生ここでゴミ拾いだ・・・」
少年はゴミ山を見ながら悔しそうに歯をくいしばった。
レンは辺りのゴミを見回しながら
レンは眉間にしわを寄せた。
「・・・絶対ぇ、ここから出てやる・・・」
レンがそう小さく呟くと、
レンの金髪部分が淡く光った。
レンの金髪が光ったのを見て少年は
驚いてしりもちをついた。
「お、お前・・・に、人間じゃないな・・・?!」
退いていく少年を見下ろしながら
レンは不機嫌そうに答えた。
「・・・異能者だ。 悪いか?」
少年は退くのを止めて茫然とした。
「い、いや・・・初めてで・・・」
少年は服についた汚れを掃いながら
立ち上がって言った。
「だろうな。
クリミアシティですら知らねぇんなら・・・」
レンは嫌味ったらしく言いながら
頭をポリポリかきながら
まだ寝ているななせの様子を見に近づくと、
背後から少年が指をいじりながら言った。
「・・・オ・・・オレ以外の奴(異能者)に会うのは・・・
初めてって意味で・・・」
レンは耳を疑い、
振り向いて少年を見ると
少年はやや怯え、指をいじりながらレンを見た。
すると、少年の赤髪が燃え盛る炎になっていた。
「オレも・・・異能者だ・・・」
少年の表情はだんだん暗くなると同時に、
頭の炎も自然と消え、赤髪に戻った。
「気味・・・悪いよな・・・」
少年は悲しそうな表情をしながら俯くと、
レンは軽くため息をついて
眠っているななせを抱きかかえて
立ち上がって言った。
「そういうもんさ、オレ達異能者は」
少年はレンの台詞を聞いて
やや悔しそうな表情をして拳を強く握った。
レンは、ななせのバッグを持って少年を見た。
「とりあえず、泊めてくれ。
あと、医者とかいないか?
こいつ(ななせ)が目を覚まさないんだ。
あと、ここの地図とかあったら見せてくれ」
「え・・・っ?!
あ、お・・・あぁ・・・!」
たくさん注文を受けた少年は
慌てながらレンを自分の家へと案内した。
少年の家に向かって歩きながら
レンは周りを見渡しながら少年に言った。
「名前は」
「ゴウキだ・・・」
「オレはレンだ」
ゴミを踏む音だけ響き、
しばらく歩いてゴウキは前を指差した。
「ここがスラム街。
荷物とか取られないようにしろよ。
ここに住んでる奴らは貧乏だからな」
そう告げるとゴウキはレンの前を歩き、
レンはななせを抱え直してゴウキの後をついて行った。
マンションのようなオブジェの建物には
汚い洗濯物が吊るされ、窓からは煙が出ている。
「くっせぇなぁ・・・何の臭いだ?」
レンは鼻をつまんで煙を見た。
「麻薬だ。
ここに来てちっとも働かず
どこで手に入れたんか分かんねーけど
ボロボロになるまで麻薬吸って
死んでいくんだ・・・
今までそんな奴ら何人も見てきた。
珍しい事じゃねーさ」
レンはななせのバッグからハンカチを取り出し、
それでななせの鼻と口を覆って
先々進むゴウキの後をついて行った。
狭い道を何度も通ってやっとゴウキの家に着いた。
家といっても狭いボロボロのアパートのようだった。
「足元、気をつけろよ。
たまに床抜けるから」
そう言うとゴウキは
ボロボロの体育用マットを1枚運んできた。
「オレ普段ソファーで寝てるんだ。
汚いけど、その女(ななせ)に使ってくれて構わない。
オレ達はこれ(マット)が寝床になるけど・・・」
そう言いながらゴウキは地面にマットを敷いた。
「悪いな。 何から何まで」
レンはゆっくりななせをソファーに寝かせて言った。
「・・・そいつの名前は・・・?」
ゴウキはななせの寝顔を覗き込みながら
レンに問いかけた。
レンはため息まじりに
ななせに荷台の布を布団代わりにかけながら言った。
「こいつはななせ。
オレと旅してる人間だ」
ななせの鼻と口にハンカチをかぶせて
レンはマットに寝転がった。
「人間なのか・・・」
ゴウキはななせの鼻と口を覆っているハンカチを見て、
ソファーの下から何かを取り出してレンに渡した。
「これ、酸素マスクだ。
1つしかないが良かったら使え」
レンはゴウキから酸素マスクを受け取ると
ななせに近寄り、ハンカチを取って
ななせに酸素マスクを装着させた。
「な・・・っ?!
オレはお前にと思って・・・」
ゴウキは驚いてレンに言った。
レンはななせに酸素マスクを装着し終えると
振り向いてゴウキを見た。
「このゴミ捨て場の臭い・・・
ゴミの臭いと麻薬の臭いだけかと思ってたが
麻薬の煙の臭いを嗅いで気づいたんだ。
あの麻薬・・・
毒タイプの奴ら(異能者)の毒ガスを使って
作られている・・・」
「えっ?!」
ゴウキは耳を疑い、レンを見た。
「でも、ここにいる異能者は
オレとお前だけだ・・・!
オレ、物心ついた時からここに住んでるけど
他に異能者っぽい奴らに会った事ないぞ?!」
ゴウキは頭を抱え、
知り合いの名前をぶつぶつ呟きながら
指折数えだした。
「はっきりと分かったのはそれだけだ。
もっと詳しく調べる必要がある」
そう言うとレンは酸素マスクから出る酸素を
吸いながらすやすやと寝ているななせを見て言った。
「毒タイプの異能者はオレ達からしたら
猛毒だが、毒消しを使えば治る。
だが、人間からしたら毒タイプの奴らの毒は
命に関わる・・・
いくら毒消しを使ったところで手遅れだ。
人間は・・・オレ達とは違って脆い」
レンは起きる気配の無いななせの前髪に触れてゆっくり撫でた。
「このマスク、いつ効果切れるんだ?」
レンは振り向いてゴウキを見た。
「明日の日付変わるまで・・・だ」
レンはマットに寝転がり天井を見た。
「明日の日付が変わるまでに
ここ(ゴミ捨て場)の謎を解いてやる・・・!」
金髪の部分が一瞬光るとレンは目を閉じて眠りについた。
ゴウキもレンの隣に寝転がり、眠りについた。