02
「ジム戦に来たのになんで
オレはプール掃除なんかやらされてんだよ・・・」
水の溜まっていないプールの底で
モップの一番上の柄の部分で
頬杖をついてレンは言った。
「『オレは』じゃなくて『オレ達は』でしょ!」
プールサイドに落ちてる
ビート板を拾いながら
ななせはぴしゃりと言った。
「また手が止まってる!」
「へいへい。」
気だるげに返事をすると
レンは頬杖をやめてモップを動かした。
「掃除お疲れ様です。」
女の子が首から真っ白のタオルを首から
さげて、お茶とお菓子を持ってきた。
「少し休憩しましょう。」
プール施設のロビーに来たななせとレンは
用意された水をコップ1杯飲み干し
脱力した。
「プール掃除、お疲れ様です。
これ、良かったらどうぞ。」
白いバスローブを着た女の子が
皿いっぱいに盛られたクッキーを
テーブルの上に置いた。
ななせとレンは脱力したまま
お礼を言った。
「自己紹介が遅れました。
私、クリミアプールのオーナー兼
クリミアジムのジムリーダーをやらせていただいています、
シャーリィです。」
「ジムリーダー」と聞いたななせは
勢いよく起き上がり、顔を近づけてシャーリィを見た。
「ど、どうも!
チャレンジャーのななせです!
こっちはパートナーのレンくんです!」
初めて会ったジムリーダーに
緊張したななせは
ソファーでくつろいでいるレンを紹介した。
レンはシャーリィを見ずに
軽く手を挙げてすぐ下ろした。
シャーリィはななせとレンを見ると
「なるほど。」と言って立ち上がった。
「チャレンジャーだったのですね、
てっきり泳ぎに来た客人なのかと思ってました。
では、私は奥のジムで待っていますんで、
頑張って辿り着いてください。」
そう言い残して、シャーリィは
きょとんとしているななせと
ソファーでくつろいでいるレンを残して
その場を去って行った。
「頑張って辿り着いてくださいね、だって。」
ななせは今にも寝そうなレンの体を
揺さぶりながら言うと、
「そーかよ。」と、レンは適当に返事した。
落ち着いてるレンに比べて
ななせはすごい緊張していた。
人生で初めてのジム戦。
母親やハレヤから話は聞いていたから
ジムについて少しは理解している。
でも、ななせの周りで
トレーナー経験をした事のある人は
1人もいなかった。
噂でしか聞いた事がなかったため、
どんなものなのかこの目で見た事が無かった。
だから、ななせはとても緊張していた。
恐怖とは似ているようで違う気持ちで
ななせの体は震えていた。
そんな ななせの頭の上にレンの手の平が乗った。
「・・・。」
不安が一気に無くなった気がしたななせは
うつむいていた顔を上げて
目をつぶって天上を見上げているレンを見た。
「・・・励ましてくれてるの・・・?」
照れくさそうにななせが言うと
レンを目を開いて、ななせを見た。
「あ、わり、肘掛かと思った。」
レンはななせの頭からパッと手を離した。
てっきり励ましてくれているのだと
勘違いしていた事に気づいたななせは
ムカついてその場にあったクッションを
レンの顔面に向かって投げた。
「ぶっ!!」
クッションはレンの顔面に命中し、
ななせはレンを残して建物の奥へと向かった。
ジム戦への緊張はいつの間にか消えて
レンへの怒りを感じていたななせであった。