05
レンに病室を追い出され、
ななせはロビーに来てソファーに
ゆっくりと腰かけた。
窓の外を見ると雨がしとしとと降っていた。
まさに今の気分に合っている気がして
ななせはうつむいた。
私はあなたを助けたい、
ただそれだけなのに・・・
ななせは下唇を噛み締めた。
「・・・もっと彼について知らなきゃ・・・!」
知って私も力になりたい・・!
ななせの目は決意に満ちていた。
ふと声が聞こえたのでななせは
顔を上げて辺りを見回すと、
トレーナーとそのパートナーの異能者が
会話してる姿を見かけた。
男性2人組で、自販機でジュースを
選んでいた。
2人はとても仲が良く、ずっと会話しながら
ジュースを買ってセンターを出て行った。
『トレーナーになるには異能者を連れてなきゃいけない』
小鳥から言われた言葉を思い出し、
ななせはまたうつむいた。
どうやったらレンを説得できるだろうか、
そんな事をずっと考えていると、
エレベーターの扉が開き、
レンが出てきてななせを無視して
センターから去っていった。
「あ、待って・・・っ!」
ななせは慌てて立ち上がり、
荷物を片付けて、ショルダーバッグを
首から下げてレンの後を追いかけた。
「ねぇ、待ってよっ!」
雨の中、レンとななせは
傘を差さず、離れて歩いていた。
ななせはショルダーバッグが雨で濡れないように
抱きかかえて早歩きでレンの背後から話しかけた。
「あの・・・さっきはごめんなさい。
私・・・何も分かってなくて・・・」
レンは何も反応を返さず、
ただひたすら早歩きで不良のアジトへ向かっていた。
ななせは聞いてくれているか
心配に思ったが、負けじと話し続けた。
「でも! 助けたいのは本当だよ!
私・・・何でもする!!
8つのジムに勝てって言うなら勝つし!!
サリバンをこてんぱんにしろって言うならするよ・・・!
だから・・・私と旅しよ?!」
レンの歩みが速くなっていくのが分かり、
ななせはバッグを抱えて走って追いかけた。
「ねぇ・・・!!」
ななせがレンの背中に触れようとした時、
レンは立ち止まり、
振り返ってななせの手をはたいた。
「しつけぇぞっ!!
オレ以外の奴誘えよっ!!
そこら中にいるだろ・・・!
大体お前なぁ・・・!」
ななせはは持っていたバッグを
怒鳴ってる最中のレンの顔面に思いっきりぶつけた。
「いっ・・・!!!」
レンは顔を抑えてフラついた。
「あなただから誘ってるのっ!!!」
ななせは、むしゃくしゃして
涙を流しながらレンに向かって怒鳴った。
「あなたを助けたいのっ!!
あなたの力になりたいのっ!!
初めて一緒に戦った異能者が・・・あなただから・・・!
だからこんなに誘ってるんじゃん・・・!!
そ、それともカツラギタウンから出たくないのっ?!
よ・・・弱虫っ!!」
ななせはバッグで何度もレンの胸部を叩いた。
カチンときたレンは
ななせからバッグを取り上げた。
「なっ、何が弱虫だっ!! 泣き虫!!」
そして、レンはななせの両頬をつねった。
「泣いてないもんっ!!」
ななせは泣き止んで、レンの手を掴んで
抵抗しているとレンはななせの顔を見て
「フハハッ」と笑った。
「今のお前の顔・・・すっげぇブス。」
「なっ・・・!」
ななせはレンの手を放して
赤く腫れた頬に手を触れた。
レンは奪い取ったななせの
バッグをくるくると回し、
ななせを見た。
「バカでお人好しで泣き虫で・・・
・・・なんかほっとけねぇ奴だな・・・」
「え・・・・・」
ななせはきょとんとしてレンを見上げた。
レンはななせと目が合うと
ななせの頭をぐしゃぐしゃと
かき回して、ななせに背を向けて
振り向いた。
「いいぜ。
お前の旅のお供になってやるよ。
けどな・・・オレをパートナーにしたからには
てっぺん目指せ・・・!
あと、お前はフヌケな事抜かしたらオレは許さねぇからなっ!」
最後にななせにデコピンをすると、
レンは先に歩を進めた。
「いったぁ・・・」
デコピンされた所を抑えるななせに向かって
レンは着ていた上着を脱いで投げた。
上着はななせの頭にかかって、
ななせは上着を手に取り、レンを見た。
「返事は?」
レンはななせのバッグを肩にかけたまま
振り向いて言ってきた。
ななせの表情はみるみる明るくなり、
「・・・うん!」
笑顔で返事すると、走ってレンの隣を歩いた。
2人が揃って歩き始めた頃には
雨はいつの間にか止んでいて、
晴れの日差しが2人を照らした。