03
手の間から咲いた花を眺めているななせに
ボルサリーノは近くにあった花瓶に花を生けながら話した。
「・・・君は変わってるね。
僕に優しい・・・」
「人に優しくするのは当たり前だよ! ママにいつも言われたからね!」
ななせは笑顔でボルサリーノを見た。
ボルサリーノはゆっくり振り返って
悲しそうに微笑んだ。
「たとえ・・・それが異能者でもかい・・・?」
ななせは悲しそうに微笑むボルサリーノを
真っ直ぐに見つめて言った。
「『人間だから』とか『異能者だから』とか
そんなの関係ないよ。
同じ『人』として優しくしただけだよ。」
ボルサリーノは目を閉じて、
花瓶に生けてある蕾を指でつついた。
「・・・君は優しいね。」
ボルサリーノはゆっくりと顔を上げてななせを見た。
「・・・それに、君は何も知らない。」
「え・・・?」
ボルサリーノは、ポカンとするななせに
近寄ってななせの頭を優しく撫でた。
「さ、頭領君の様子を見て来よう・・・」
先に病室に向かって歩き出したボルサリーノを見ながら
ななせも後をついて行った。
沈黙が続くエレベーターの中、
ボルサリーノはエレベーターのボタンの端を
指でなぞりながら後ろの方でボーっとしている
ななせに話しかけた。
「・・・どうして彼(レン)を庇ったの?
・・・彼は同じ『人』でも初対面の赤の他人なのに・・・」
ななせは、「うーん」と少し考えて答えた。
「最初は怖い人だなって思ったけど・・・
私を攻撃から守ってくれたから・・・
本当は優しい人なのかなって思ったし・・・
それに・・・」
だんだん口ごもるななせの回答に
ボルサリーノの頭のアホ毛がヒョコヒョコ動いた。
「それに・・・あの人(グリード)に
彼を渡しちゃいけないって思ったの・・・」
ななせはグリードの周りに浮いていた
真っ黒の原素と殺気を思い出して
震えが止まらなかった。
「・・・なるほど。」
ボルサリーノはボタンをなぞっていた手を止めて答えると
エレベーターの到着のベルが鳴り、扉が開くと
ボルサリーノとななせはエレベーターを出た。
「・・・君はお人好しだね。」
「えっ?」
ななせは顔を上げてボルサリーノを見た。
「・・・何でもないよ。」
ボルサリーノはクスッと笑って歩き出した。
ななせはその後をついて行った。
「・・・彼がどうしてクリミアシティに向かうトレーナーに
バトルを申し込むか知ってる?」
ななせは首を横に振った。
「・・・そうか・・・知らないんだね・・・」
ボルサリーノは立ち止って辺りを見回し、
人がいない事を確認して、その場にしゃがみ込んだ。
ななせもつられてその場にしゃがみ込んだ。
「彼には内緒だよ・・・」
ボルサリーノの真剣な表情にななせは緊張して
唾を飲み込んだ。
「・・・彼はなぜかサリバンについてよく知っているんだ・・・
誰もサリバンの姿を見た事がないから、サリバンの存在は
アナザー地方の都市伝説になっているんだけど、
彼だけはサリバンを見た事があるらしい・・・」
ななせは黙って話を聞いた。
「彼曰く、サリバンは異能者を奴隷にして
何か悪い事を企んでいるらしい・・・
それに、よく他人の大事なパートナー(異能者)を
奪うらしい・・・
そこで、彼は1個目のジムであるクリミアジムに向かう
新米トレーナーに、自分の大切なパートナーが
サリバンに奪われないか、強さを確かめるために
わざわざ不良のアジトを作って腕試ししているんだって・・・」
話終えたボルサリーノはななせは見ると、
ななせはポロポロと涙を流して下を向いていた。
「・・・どうして泣いているんだい・・・?」
特に驚いた様子を見せず、ボルサリーノは
指でななせの涙をぬぐった。
「・・・もし、それが本当なら・・・
私・・・感動する・・・」
「今流してる涙は感動の涙じゃないの・・・?」
薄っすら苦笑いを浮かべたボルサリーノを
ななせは真っ直ぐ見上げた。
「・・・ボンちゃん、私、頭領さんの力になりたい・・・!」
ななせの曇りのない茶色の瞳を
ボルサリーノはやや驚いて見つめ、
そして、フッと笑って立ち上がった。
「・・・君の人生さ・・・
君がしたいと思った事をすればいいさ。」
そう言ってボルサリーノはレンのいる病室に向かって
歩みだした。
ななせは涙をぬぐいながら、ボルサリーノの後をついて行った。