02
ななせが仮眠から目を覚ますと、夜が明けていた。
「おはよ。」
目の前で油絵を描いていた青年がななせを見て微笑んだ。
青年は美しい花畑の絵を描いていた。
「おはよう・・・」
ななせはゆっくりソファーから起き上がり辺りを見回して
絵を描いている青年に問いかけた。
「頭領さんは・・・?」
青年はパレットに絵の具の色を混ぜながら答えた。
「元気になって寝てるよ。」
その言葉を聞いてななせは安心して胸を撫でおろした。
ふとななせは足元に落ちていた絵を拾った。
絵は鉛筆で描かれた寝ているななせのデッサンだった。
「すごい・・・」
隅の方にはサインが書いてあった。
「ボルサリーノ・クリストファー・・・?」
ななせの呟きが聞こえたのか、
青年の頭の2本のアホ毛がピクリと動いた。
「あぁ・・・それは僕のペンネームみたいなのだよ。」
青年は絵を描きながらななせに言った。
「素敵な名前持ってるじゃん!」
ななせは青年の前まで絵を持ってきて
笑顔で話しかけた。
だけど、青年は手を止めて目線を下に逸らした。
「・・・僕はその名前を気に入ってないんだ・・・」
ポカンとするななせを見て青年はクスリと笑った。
「僕はおかしいかい?」
ななせはコクリと頷いた。
「自分の名前が気に入らないって思ってる人、初めて会った。」
ななせは青年の隣に腰かけた。
青年は絵を描くのをやめて、パレットと筆を近くの机の上に置いた。
「だって・・・長いし覚えにくいし・・・」
青年は手元にあった紙にペンで自分の名前を書き始めた。
ななせはそれを見ていた。
「僕は君みたいに短い名前がいいなぁ・・・
もし、名前を与えてくれる人がいるならね・・・。」
そう言って青年は紙に「ななせ」と書いた。
「じゃあさ!」
ななせは青年からペンを借りて紙に字を書いた。
「ボルサリーノ・クリストファーだから・・・
ボンちゃん!」
そう言って青年のサインの下に書かれた
「ボンちゃん」という字を青年に見せた。
青年はしばらく呆然と字を見つめると
クスッと微笑んだ。
「僕は君から名前をもらいたいって言ったつもりはないんだけど・・・」
「あっ、ご、ごめんね・・・!
やっぱりちゃんとした人からもらいたいよね・・・!」
恥ずかしく思ったななせは苦笑いをしながら
字を消しゴムで消そうとしたが、
青年がその手を止めた。
「なっちゃんがせっかく考えてくれた名前だもん・・・
覚えやすいし短いし・・・とても気に入ってるよ・・・」
ななせは表情を明るくして青年の顔を見た。
「素敵な名前をありがとう。」
青年がニコッと微笑むと、ななせの手の間から綺麗な
草花が生えた。
「すごい・・・! マジックみたい・・・」
ななせは関心して笑顔で青年を見た。
「ありがとう・・・」
青年もななせにつられて笑顔でななせを見た。