03
自動販売機からジュースを取り出して、
ななせに手渡しながら小鳥は説明した。
「トレーナーというのはね、異能者を6人率いて
ジムやチャンピオンリーグに挑戦する人達の事を言うのよ。
主に夢や叶えたい願いがある人が
なるけどね・・・」
「なるほど・・・」
ななせの頭には小鳥のあの回答が
気になっていた。
「さて、ここまでで質問はある?」
「あの・・・」
ななせは恐る恐る口を開けた。
「何?」
微笑みながら質問を待つ小鳥に
ななせは重い口を開いた。
「私達以外に・・・他のトレーナーには・・・
原素が見えるんですか・・・?」
しばらく沈黙が流れ、小鳥は返答した。
「そうね・・・どうなのかしらね・・・
それは私にも分からないわ・・・
ただ・・・私が今まで会った人の中には
原素が見える人はいなかったわ・・・」
そう言って小鳥は目線を下げた。
「そう・・・ですか・・・」
ななせはうつむいた。
「・・・私達って・・・何者なんでしょうね・・・」
「そうね・・・」
小鳥は足元にすり寄ってきた黒猫を
抱き上げて黒猫を優しく撫でた。
「・・・神様が与えた不思議な力・・・
だったりして。」
「え・・・っ?」
ななせが顔を上げると小鳥はニコッと笑って
「なんてね。」と言った。
「さ、これで一般的な事は伝えたわね・・・
次は『トレーナーの常識』を教えるわね・・・」
そう言うと小鳥はさっきの笑顔が消えて
真剣な表情をしていた。
「異能者と人間の歴史を学んだ事がある?」
「ちょっとなら・・・」
真剣な表情をする小鳥にななせは
戸惑い、緊張した。
「じゃあ教えるわね・・・」
小鳥は一呼吸おいて説明し始めた。
「遥か昔、神様は2種類の人間を作ったの。
見た目はどちらも変わりないんだけど
1人は水や炎などの自然の力を意のままに操る能力があったの。
もう1人は自然の力を操る事が出来ないから
その力を恐れたの。
自然の力を操れる人間はそれを良い事に、
どんどん自然の力を操れない人間を虐げ、土地を奪ったりなどしたの。
我慢の限界を超えた自然の力を操れない人間は
神に頼んだの。
神は自然の力を操れない人間の話を聞いて
大変怒ったの。
そして、自然の力を操れない人間に知識を与え、
自然を操れる人間から知識奪い、
一生自然の力を操れない人間に従うように命令したの。」
しばらく沈黙が流れ、小鳥が呟いた。
「どう思う・・・?」
「どう・・・といわれても・・・」
ななせが返答に困っていると、
小鳥は悲しそうな表情をして笑った。
「難しい?」
「・・・はい。」
ななせは苦笑いをして答えた。
「そっか。」
小鳥もつれらて苦笑いをした。
「この歴史があるから今でも異能者は差別を受けているの・・・
だから中には差別を恐れて人間になる手術を
受けたいと言う異能者を、私は何人も見てきたわ・・・
見た目も人間と何ら変わらないからね・・・
でもこの世界は異能者にはそこまで
優しくないの・・・
センターはあくまで怪我の治療程度しかやってないから
人間の治療専用の病院に行っても
さんざん心を痛めつけられて異能者は追い出されるだけ・・・」
「ひ・・・ひどい・・・」
ななせは下唇を噛み締めてうつむいた。
「だから最近では自らの能力を使わない
異能者が急増していってるの・・・」
小鳥は紙コップに注がれた水を飲んだ。
「トレーナーになるっていうなら、
あなたもいずれは異能者を率いるかもしれない。
・・・苦戦して、もう嫌だって思う事が
これからたくさん起こるでしょう。
でも、どんなに苦しくても我慢しないで
誰かに相談するのよ・・・?
相談された相手はきっとあなたを
助けようとしてあなたの力になってくれるから・・・」
小鳥は紙コップをテーブルに置いて微笑んだ。
小鳥が微笑むと小鳥の周りにいた原素は眩しく輝いた。
その小鳥の言葉を聞いて
ななせの表情は明るくなった。
「・・・・はいっ!」
元気よく返事をすると、
小鳥はニコッと笑った。
センターに出ると小鳥はななせを
見て言った。
「じゃあここで私とはお別れね。」
「色々教えていただき
ありがとうございますっ!」
ななせは深々とお辞儀をした。
「いいえ。
私は先輩トレーナーとして当たり前の事をしたまでよ。」
小鳥はクスクスと笑い、ななせの地図を見た。
「ななせちゃんはこれからどこへ向かうの?」
ななせは頭を上げてポリポリとかいた。
「まだ仲間1人も連れてないんで
ジムは・・・無理かな・・・」
小鳥はクスクスと笑い、ななせに地図を返した。
「そうね、ジムはまだ無理ね。
じゃあ興味深い話を1つ。
クリミアシティに向かう途中の道路に
とても悪い不良の軍団があるの。」
ななせはつばをゴクリと飲み込んだ。
「ま、まさかその不良軍団を倒せと・・・?!」
「ちょーっと違うわね。
実はその軍団が現れるとね、落雷が起こるの。
とーっても興味深いと思わない?」
爽やかな笑顔で話す小鳥を見て
ななせは嫌な予感を感じた。
「『イカヅチ』っていうこの地方ではすごい有名な
不良軍団なんだけど・・・
やっつけて仲間にしてみない?」
「お断りさせていただきますっ!!!!!」
ななせの声がカツラギタウン中に響き渡った。