01
必要最低限の荷物が入ったショルダーバッグを肩から提げて
ななせはスニーカーを履いた。
「それじゃあ、行ってきます。」
「無理しないでね、気をつけて行ってらっしゃい。」
母親は優しく笑いかけ、寂しい気持ちを隠して
ドアを開けて旅立っていくななせの姿を見送った。
生まれた頃から住んでいるルイタウンを出る前に
ななせはハレヤの家を訪問した。
案の定、ハレヤはいなかった。
2年前に突然 家を出た、とハレヤの母の言葉を
聞いたななせはハレヤの家を後にした。
バッグから持参したアナザー地方の地図を
取り出して広げた。
「ルイタウンを出てしばらく歩くと・・・
カツラギタウンに着くんだ・・・」
そう呟くと、ななせは地図をバッグの中に押し込んで
カツラギタウンまで走った。
カツラギタウンに着くとななせは足を止めて町を見回した。
カツラギタウンはルイタウンと比べると都会で人が多かった。
「見た事のない店がある・・・!
すごい・・・!」
興味津々で歩き回っていると、ななせはとある人物を見て立ち止まった。
ななせの目線の先には、ベンチで黒猫を撫でる
髪も服装も真っ白の女性だった。
見た目に目を奪われた訳ではなく、
その女性の周りに飛び交う
小さな光の粒の量に目を奪われたのだった。
あの不思議な青年より光の粒が多く、
女性はとても眩しく輝いていた。
他の人を見回しても、誰も真っ白の女性を眩しそうに見てなく
各々の時間を過ごしていた。
「私だけ・・・なのかな?
目がおかしいのは・・・」
ななせは目をこすってまた女性を見た。
すると女性と目が合い、女性はクスっと笑いかけ
ななせに近寄った。
「こ、こんにちは・・・!」
ななせは慌てて頭を下げて挨拶をした。
「こんにちは。」
女性はななせより身長が低いのに
とても大人びた雰囲気を漂わせていた。
ななせは頭を上げて、光の粒を指差した。
「あ、あの・・・!
この光ってるやつは一体何なんですか・・・!?」
女性は少し目を見開いて驚いた。
「あなたには・・・原素(エレス)が見えるの・・・?!」
「エ・・・エレス・・・???」
女性は黒猫を地面に下ろし、
ななせをベンチに案内した。
「立ち話もなんだし・・・
少し座りましょうか・・・」
「あ・・・はい!」
優しく微笑みかける女性につられて
ななせは女性について行った。
噴水の近くのベンチに座ると
女性は膝の上に乗ってきた黒猫を撫でた。
「まずは自己紹介からね・・・
私の名前は小鳥。
旅をしながら異能者について研究しているの・・・
でも本物の研究家には劣るけどね。」
そう言って小鳥は苦笑いをした。
「あ、私 ななせっていいます!
今日旅初めて・・・その・・・
トレーナーに・・・なりたくて・・・」
だんだん口ごもるななせを見て
小鳥は不思議に思った。
「どうしたの・・・?」
ななせはうつむいてバッグを握りしめた。
「し、信じてもらえないかもしれないですけど・・・
私・・・5年前から昨日までの記憶が無いんです・・・」
小鳥は黙ってななせの顔を見て真剣に話を聞いた。
ななせは話を続けた。
「私からしたら・・・5年間も眠ってたって事で・・・
その・・・信じられなくて・・・
最初はドッキリかと思ったんです・・・!
でも・・・ママはそんな冗談言う人じゃないんで・・・」
「怖いのね・・・」
小鳥の台詞にななせは勢いよく頷いた。
「現実を受け入れられなくて泣いてたら
白髪頭の男の人に会ったんです・・・
その人は私の泣いてた理由が筒抜けてたのか
よく分からないんですけど・・・
『トレーナーになってチャンピオンになると
何でも願いが1つ叶う』って聞いたんです。」
小鳥はその言葉に反応し、噴水の方を見た。
「そうね・・・
確かに、チャンピオンになればどんな願いも
野望だって叶えられるわ・・・」
その小鳥の台詞を聞いてななせは拳を強く握った。
「私・・・知りたいんです・・・!
空白の5年間を・・・どうしても・・・!
だから・・・トレーナーになろうとルイタウンから
カツラギタウンまで来てみたんですが・・・」
そう言ってななせは辺りを見回した。
「なんか・・・いきなり壁にぶつかって・・・」
アハハと苦笑いしながらななせは頭をかいた。
小鳥はクスリと微笑んで立ち上がった。
腰まで伸びた綺麗な白髪が光の粒を風で扇いだ。
「私ね、こう見えてもトレーナーなの。
良かったら教えてあげる。」
ななせが小鳥を見上げると表情が途端に明るくなり
「・・・はいっ!」
と 笑顔で返事をして立ち上がった。