04
ななせは鏡の前に立ち、おかしなところは無いか確認をする。
寝ぐせ無し。
糸のほつれ無し。
深呼吸をして鏡に映る自分に笑いかける。
「……よし!」
ななせが部屋から出ると、ムクとゴウキがドアの前で立ち話をしていた。
会話の内容は恐らく今日のジム戦だろう。
そうじゃなかったら今日の朝ごはんの話でもいていたのかもしれない。
ななせの顔を見るなり、二人は会話をやめて笑顔を向けた。
「おはよう」
「おっはよーー!」
「二人とも、おはよう!」
つられてななせも笑顔で二人に挨拶をする。
朝食を食べにフロントに3人は向かう。
ゴウキは2人より1歩前に出て、朝食が楽しみなのか気分よく鼻歌を歌って歩いていた。
ムクはななせに歩幅を合わせ、ご機嫌なゴウキを穏やかな目で見つめている。
朝から姿を見ないレンの事が気になったななせはムクに聞いた。
「レンくんは一緒じゃないの?」
「あぁ。彼はあの夜、1時間だけ寝ていたんだけどすぐに起きて部屋から出て行ったんだ。
あれから戻ってきてないから、それからどうなったのかは知らない。
後を追うべきだったね…ごめん」
「全然大丈夫。なんとなーく、そんな気がしてたんだ。
いつもみたいにフラッと戻ってくるよ」
穏やかな眼差しから憂いを帯びた眼差しに変わり後悔するムク。
ななせは空笑いをした。
戻ってくると信じてはいるがどこか不安ではある。
どこかで大怪我を負っていないといいけど…
ななせ達3人がフロントに着くと、フロント中にルカの大声が響き渡った。
フロントにいる人全員がソファー席の方に目を向け、ざわついた。
ななせ達も何か事件が起こったのかとソファー席の方に目をやる。
そこには体を仰け反らせて悔しがっているルカと、得意げに笑みを浮かべてるレンがいたのだ。
ななせとゴウキは驚いてレンに指さして大声を出した。
「あーーー!!レン!お前、オレが起きたらいなかったから心配したんだぞ!!」
「レンくん!!ルカくんにひどい事したの?!」
「イカサマしたな!?許さんぞ!レン!」
一度に3人に喋られ、レンは退いた。
受付の人や利用客からの人の視線が痛い。
ムクだけは平静で、この状況をぐるりと見渡してからレンを見て言った。
「すごい。俺達一気に注目の的だね」
レンはムクの言葉が煽りに聞こえてイラっとした。
さっきまで最高に気分が良かったのに。
こんなにも一瞬で冷めてしまうとは。
レンは黙ろうとしないでやいやい言ってくる3人にカチンときて、怒鳴った。
「お前ら一瞬黙れっ!!!」
騒ぎがひと段落して、4人は一緒に朝食済ました。
まだこちらを白い目で見てくる利用客に、レンは睨みつけて威嚇した。
レンに睨まれた客はそそくさとカフェから去って行き、とうとう4人だけの貸し切り状態になった。
「そんなに無関係な人を睨みつけなくてもいいんじゃないか?」
ムクはレンを宥めるように声をかける。
ななせもゴウキもそれに賛同する。
「変な注目浴びたくねーんだよ。
頭おかしい奴に見られるのは癪だ」
「案ずるな。そういう目で見られたのはボクとお前だけだ」
溜息まじり発したルカに、レンはテーブルを強く叩いて黙らせた。
ルカをやれやれと肩をすくめる。
空気は張り詰めたままで、全然いい方向に向かない。
ななせは話題を明るい方に変えようとわざとらしく明るく振る舞った。
「そ、そういえば二人は朝までずっと一緒だったの?」
「…別に」
「朝日が昇り始めた頃くらいに、フロントにレンが来た」
レンの回答は短すぎて当てにならないので、ななせはルカの話をうんうんと相づちを打ちながら聞いた。
レンはふてくされて、自分が注文したレモンスカッシュにストローをさして音を立てて飲んだ。
ルカはレンのあからさまな嫌がらせに舌打ちして、ななせに説明した。
「ボクは、いつ将軍が来られても万全の態勢で迎えようと徹夜していた。
そしてレンが来て、ババ抜きをしようと誘われたのだ。
ボクはババ抜きなんて遊び聞いた事が無いから、レンから教わった。
10戦はしたが…全然勝てないんだ!!
ボクばかりババを引き、レンが先にあがる。
これは紛れもなく……イカサマだ!!!」
百面相しながら説明するルカを見て、ムクは「あー…」と申し訳なさそうに呟いた。
「そりゃあ、それだけオーバーリアクション取ってたら勝てない…かな」
「彼のイカサマでは無いと?!!?」
食いつくようにグイグイくるルカにムクはたじろいだ。
席に座り直してルカは腕を組んで反省した。
「精神を統一し、顔に出さずにカードを選ぶ……
そうか、ババ抜きも武道に通ずるものがあるのだな!!
なるほど!良い経験をした!」
「なんかよく分からんねーけど、オレにもババ抜き教えてくれよ!」
「もちろんだ!それまでに特訓をしておこう!
今度勝負する時のボクは強いぞ!」
話をあまり理解してないであろうゴウキにルカは笑いかけた。
意気投合するルカとゴウキ。
空気が明るくなってななせは安堵し、2人が仲良くなって嬉しく思った。
こうして4人は楽しい?朝食を終えた。