03
用意された部屋に入って鍵をかけ、ななせは部屋を見渡した。
1人には広すぎる部屋。急に寂しさがこみ上げてくる。
ベッドに横たわり溜息をつく。
「もう皆寝たかなぁ…」
ポツリと呟く。
隣の部屋から騒ぎ声でも聞こえてきてほしいのに、隣部屋からは特に何も聞こえなかった。
寂しさで押しつぶされそうになる。
夜も遅いし明日に備えて3人はもう寝たのだろう。
寝たくない。
ななせはベッドで大の字になって天井を見た。
1人で寝ると必ずと言っていいほどずっと同じ夢を見る。
しかもそれは良い夢では無い。
自分は大怪我を負って動けず、誰かが泣いている声が聞こえる夢。
自分が死ぬ夢はお世辞でも良い気分にはとてもならない。
今日も同じ夢を見てしまうかもしれない。
そう思うと眠いけど寝たくなかった。
レンだけと旅していた時は、寝るときには傍にレンがいてなぜか悪夢なんて見なかった。
ゴウキとムクが増えてからレンは素っ気なくなっていっている。
ななせにはそれが悲しかった。
距離が離れていくのを感じてきている。
仲間は多い方が賑やかで良いと思ったんだけど…
「レンくんはもしかしたら賑やかなのが嫌いなのかな…」
このままもっと仲間が増えたら、施設で泊まるとなると皆と同じ部屋にはなれないのだろうか?
『人間だから』という理由で。
疲れがたまっていて身体も限界なのか瞼が重くなってきた。
「寝たくないのに…」
また、あの夢を見てしまう…
ななせはそのまま眠りについた。
激しい頭痛がしてハッと目を開いた。
ななせはどしゃぶりの雨が降っている墓地に傘も立たずに立っていた。
空はどんよりとしていてとても止みそうにない。
来た事が無い場所なのに、来た事がある
。
夢で何度か来ているからもう驚いたりはしなくなった。
「早く目を覚まさなきゃ…」
手の甲をつねるなど、頬を叩くなどしたが場所は変わらなかった。
この後の展開も知っている。
私はここで、死ぬ。
何者かに後ろから刺されて死ぬんだ。
何気なしにすぐ真横にある墓石に書かれてある文字を読もうと、墓石の泥を手で落とした。
その文字を見てななせは言葉を失った。
『ハレヤ』
ハレヤという名前は自分の幼馴染で、2年前に旅に出た。
でも墓石には「7歳の時 事故死」と書かれてある。
ななせは食い入るように墓石を調べた。
「ハレヤ…?同じ名前の人ってだけだよね…」
何が何だか分からなくなって、いつの間にかここが夢だと忘れていた。
自分が
この後どうなるのかも。
「…ぅッ!!」
背中に激痛が走る。
視界がボヤけ、暖かい水が下に流れていくのを肌で感じる。
振り向いて相手の顔を見ようと思っても暗くて、視界がボヤけてくっくりと見えない。
また…殺された…
誰かも分からない人に…
「ごめん…守れなかった…君を…守れなかった…」
また誰かが泣いている。
ひたすらななせに謝罪をしている。
あなたは…一体…誰なの…?
夢の中なのに痛みを感じる。
ハレヤの墓石の上にそのまま崩れ落ちるように身体を横にする。
雨にうたれているせいもあって身体が冷えていくのを感じる。
もうこれが最後の悪夢であってほしい。
ハレヤが死んでいるとか、誰かが泣いているとか、もう見たくない。
そう願ってななせは静かに目を閉じる。
部屋をノックする音で、ななせは目が覚めた。
ドアの向こうからゴウキの元気な声が聞こえてきた。
「ななせー! 起っきろー!
朝だぞーー!朝――!」
朝日が差し込む部屋を見渡して、悪夢から解放された事に気づく。
約束通り早起きして起こしてくれたのはとても嬉しいのだが、とても体が怠かった。
それに妙に夢で刺されたところが痛い…
手で背中をさすってみるが、当たり前だが傷なんて無かった。
「夢で良かった」と毎回胸を撫で下ろす。
重い身体を起こし、洗面所で顔を洗って鏡で自分の顔を見ると目の下に少しクマが出来ている。
無理もない、夢見が悪かったのだから。
でも今日はそんな言い訳していられなかった。
パン!と頬を思いっきり叩く。
じんじんと頬が赤く腫れたがスッキリした。
「…よし!」
夢で見た事は忘れよう。
特に墓石に刻まれた名前の事は。
歯ブラシにたっぷり歯磨き粉を乗せていつもより気合を入れて歯を磨き、
身支度を整え、ななせは部屋を出た。