04
ハナエシティに続く森を歩くななせ一味。
あんなに厳重に立ち入りを禁止されていた森だが、特に荒らされた跡など無かった。
鳥の鳴き声、風が吹くと木の葉がこすれる音が聞こえ、何とも落ち着くただの森。
「なんだよ、全然普通じゃねーか」
小石を蹴りながら先頭を歩いているレンは言うと、ムクも腕組をして同意した。
「確かに。警戒してても殺意なんてどこからも感じないな。
まあ、草タイプでもなければ分からない事もあるかもしれないけど…」
「そうなの?」
ななせの質問にムクは頷いて答えた。
「草タイプの異能者って、ほとんどの人が植物と会話が出来るんだよ。
森で何か事件が起きても、そこにもし目撃者らしき人物がいなくても
木や植物、花なんかは目撃しているだろう?…って。
つまり、彼ら(草タイプ)にとっては、植物も『人』扱いんだよ」
「へぇー!! お花と会話できるの羨ましいなー」
ムクの説明に目を輝かせて喜んでいるななせを見て、
レンは馬鹿らしく感じて舌打ちをした。
「なぁ〜にが、『お花と会話できるの羨ましい〜』だ。
人間も妄想で花と会話くらいできるだろ」
「な! なにそれひどい!!」
喜びを台無しにするような事を言ってきたレンに対して
ななせは頬を膨らましとした。
「今のはちょっとひどくないか?レン…」
「うんうん。乙女心分かってないね」
ゴウキとムクからも冷ややかな視線を送られ、
レンは「謝れよ」と訴えられてる気がしてぐぬぬと悔しがると、
そのまま何も言わず、背を向けて足早に前を歩いていった。
そんなレンの背中を見てムクはため息をついてななせを見た。
「ななせってなんであんな素直じゃない奴を一緒にいるの?
別に彼を悪く言うとかじゃなくて…その…」
頭を悩ませて慎重に発言しようとしているムクが言い終わる前にななせは即答した。
「優しいからだよ!」
「…」
その回答に納得がいかないのかムクは何も答えず、ゴウキが口を開いた。
「でも優しさが出る確率は1割くらいじゃね?
俺そんなに見たこと無いけど…」
「これからもっと見れるよ!たぶん!」
ブイサインしながら自信満々に答えるななせに、
ムクとゴウキは不安そうにお互い見合わせた。
「そこ!! 誰かいるのか!?
今ここは立ち入りを禁じているぞ!」
いきなり背後から怒声を浴びて3人共驚いて振り向くと、
金髪の軍服を着た女子…ではなく、男子のルカが剣先をこちらに向けて睨みつけていた。
「ルカくん!!」
ななせはルカを見て笑顔で前に出ると、
ルカはギョッと驚いて剣先を少し下に下げた。
「ななせ…?!
それにゴウキ…?!?!」
混乱しているルカにななせは今までの事を話した。
剣を鞘に収め、ルカはななせの話を聞き終えても
なんだか納得いかない表情でいた。
「おかしいと感じたんだ。
アレックス将軍からの伝達が途切れるし、ボクだけ指示が全然出なくて…
おまけに植物に囲まれるのは少々苦手でな…ここ(森)にいると気が狂いそうで…」
「泣いてたのか?」
「そんな訳ないだろう!!騎士が泣くときは大事な人が亡くなった時だけだ!」
ルカはゴウキからの質問をピシャリと言うと、
急にショボンとして小さな声で呟いた。
「…置いて行かれたのかと思っただけで…
でも泣いてなんかないっ!!!!!!!!!」
「誰も泣いたのか泣いてないのかまでは知ろうと思ってないよ」
急に大声で発言したルカにムクはピシャリとそして冷静に答えると、
ムクの正論にルカはまたショボンと肩を落とした。
ますますルカが女の子のように見えてきて、ななせはちょっと気の毒に感じた。
「ボ、ボクは一体どうすればいいんだ…
アレックス将軍から全然連絡が来ないんだ…」
小形の電子端末を握りしめながら、ルカは震える声で呟いた。
「元来た道辿れば入り口前に自衛隊の人達がいたはずだよ」
「そ、そうか…!」
ムクの助言に表情が明るくなったルカは
イキイキとしながらななせ達とは逆方向に進もうとした。
「ではな! ななせ!ゴウキ!ムクよ!
レンによろしくと言っておいてくれ!」
そう言うとルカはスタスタとクリミアシティの方へと歩いて行ってしまった。
ななせとゴウキは笑顔で手を振って見送り、
ムクは疲れた様子で溜息をついた。
「彼、水タイプだね? それに鋼タイプでもあるね?
感情が忙しい人だなぁ…」
「でも良い人だよ!」
「ななせ、キミは皆が皆良い人だとは思いこまない方が良いよ…」
笑顔で答えるななせにムクは「やれやれ…」とため息をついた。
ハナエシティに向かおうとななせ達が歩を進めようとした瞬間、
ななせは肩を掴まれ驚いて振り向くと、
息を切らして走ってきたのかすごい形相でルカがこちらを睨みつけていた。
「森の入り口には…誰もいなかったぞ…っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
分かりやすいくらいの怒り具合。
ムクは頭を抱え、ななせはルカの形相に縮み上がり、
ゴウキはとりあえずななせを庇うようにルカの前に立ち塞がった。
一方その頃のレンはハナエシティにまで辿り着いたが
誰一人自分の後ろについてきていない事にやっと気づいて怒りがこみ上がってきた。
「なんで誰もいねーんだよ!!クソが!!」
ズカズカと森に向かって行ったのだった。