01
新たな仲間ムクを迎え、ななせ達は次の街へと向かった。
ゴウキもななせもムクが加わった事を喜び、特にゴウキは男友達が出来たとはしゃいだ。
レンただ1人は3人から距離を置いていて、全然喜んでいなかった。
「えーっと、これでジムリーダー2人に勝ったって事だよね」
ななせとゴウキは今までの出来事を簡潔にムクに伝えると
ムクは頭の中を整理しながら頷いた。
「マッピング能力には自信あるからそのへんは俺に任せて。
後、全員は乗せて飛べないからそこはご理解のほどよろしく。
乗せるとしたら…そうだなぁ、ななせかゴウキくらいかな」
「オイ、腹立つから笑顔で喋るな」
今にも喧嘩をおっ始めそうなレンをななせは落ち着かせようと鎮めた。
「メモしとくね!…あ」
ななせはカバンに手を伸ばしたが落下した時に落とした紙の事を思い出した。
内容も思い出せない。きっといつかは見つかるだろう。
気を取りなおして手帳を引っ張り出すと、ムクの言っていた事をメモし始めた。
「俺達仲間なんだからさ、お互い事知っておくべきだと思うんだけど、どうかな?」
ムクは立ち止って1人離れて歩いているレンを向かって不敵な笑みを浮かべた。
レンはムクの目つきのせいか睨まれているように感じて睨み返した。
いけすかねぇ。態度も。その目も。
威嚇をする猫のようなレンを見て、ムクは手に負えないとばかりに肩を落とした。
次何か言えば電撃されそう。そんなのはムクにとってはひとたまりもない。
ムクは一呼吸おいて口を開いた。
「タイプは飛行・ノーマル。
有利なのは草、格闘、虫。
不利なのは岩、氷、あと…電気」
新参である俺が、古参である彼に警戒心を解いてもらうにはもうこれしかない。
ちょっとプライドが許せないけど。
レンからの無言の威圧。
嗚呼、渡り鳥時代(むかし)にもこれに似たものを何度も感じた。
懐かしさすら感じちゃうな。嫌なものだけど。
「特性は『威嚇』。
今のところ覚えている技は『燕返し』、『インファイト』。
まだ何か知りたい?」
額から変な汗が流れる。
何かリアクションしろよ…!
レンの方に目をやってもレンはこちらを睨んでいるだけ。
でも今は認めてもらうためには土下座でも靴でも舐める勢いで自分の全てを晒す気でいた。
「別に。お前なんかに興味ねーし」
やっと口を開いたセリフがこれだった。
ムクは思わずガクッときた。
俺の頑張りを返してくれ…これだから電気タイプは…
ムクは喉まで出かかった溜息を止めた。
今ななせが鎮めていてくれているから良いが、ここで溜息が漏れたらどうなるか…
きっと彼女でも手に負えないだろう。
「自分の手の内明かしたくらいで、はいオレはお前の事信じます!なんて言わねぇよ。
オレからしたらお前はまだ嘘つきだ」
「まあ、そう思われても仕方ない…か…」
レンはため息をつきながらそう言うと今度は先頭を歩き始め、
ムクはレンに何も言い返せなくて俯いて下唇を軽く噛み締めた。
ななせはポカンとしながらレンとムクのやり取りを見ていた。
「レンくんも言わなきゃ!
言わないなら私が代わりに言ってあげるよ!」
「…は?」
今までの空気をぶち壊す一言。
ななせは手帳をパラパラとめくると「ふん!」と意気込んで声量を上げて発表した。
「名前はレンくん。 好きなものはまだちょっと分からない。
あ、でもスタンガンとか電池とかすごい好きっぽい。
嫌いなものは地面。土下座はたぶん絶対嫌い。ううん、絶対嫌い!
私はサンドイッチが好きなんだけど、レンくんはいつもおにぎりを食えって言ってくる。
時々お母さんみたい。あと…」
「おい!!! 何勝手に個人情報発表してるんだよ!!!」
「あー! 頑張ってメモしたのに!」
ペラペラしゃべるななせから慌てて手帳を取り上げると、
ななせの手帳から自分の事が書かれたページを破ってななせに手帳を返した。
破られたところを見てななせは肩を落とした。
唐突の、真偽不詳の情報を聞かされたムクは唖然としていた。
それを見ていたゴウキも一緒に呆然としていた。
「そんな曖昧な感じでここまで来れたの逆にすごいね…」
「初めて知ったぜ、レン…」
顔が火照ってきたレンは背を向けてクソっと小石を蹴飛ばすと、3人を置いて先に早足で歩いた。
ななせはレンの背中を見つめながらポツリと呟いた。
「そういえば…私、レンくんとゴウキくんの特性知らない…」
「1つだけ分かった事としては…
ななせ、キミはトレーナーとしてはまだまだってとこかな」
「はぁ…」
ムクに図星を突かれ、ななせは凹んだ。
成長出来たと思ったんだけど、それはめちゃくちゃ小さな1歩だったのかもしれない。
ジム戦に勝てたからめちゃくちゃ成長したのかとぬか喜びしてたんだと痛感した。
ななせはゴウキに励まされながらも次の街向かって歩いた。