07
飛べなかったのがまるで嘘かのようにムクはななせを乗せて
スイスイと飛んでタワーの上に降りた。
ムクが屋上に足をついた瞬間、羽が抜けて腕が出てきた。
抜けた羽は原素(エレス)となり空に舞い上がっていった。
「お、お前…ニ…ニワトリ…」
唖然としているレンに
ムクはフッと口角を上げて笑った。
「俺はもうニワトリじゃないよ、単一電池くん?」
「ウッ」
レンはななせの無事を確認し安堵したが、
ムクに対し敗北感を感じてムカついた。
「いやー、こんな映画みたいな展開があるなんて
思わなかったっス…」
「一仕事終えたばかりなのに、回復させられて何事かと思ったぜ…」
目を輝かせて感動している空海。
ツチはかろうじて動けるくらいに回復してもらったのだが、
一安心して床に大の字になって寝ころんだ。
「飛行タイプのジムリーダーなのにすぐ動けなくて情けないっス…
俺もまだまだっスね…」
「でもそれがあったから俺はまた飛べるようになったんだ。
…それとも、そういう計算だったのかな?ジムリーダーさん?」
シュンと肩を落としている空海をムクはチラリと横目で見た。
「まさか! 俺はエスパータイプじゃないんでそんな未来予知的な事出来ないっスよ!
あ、エスパータイプのジムリーダー・ビューティさんならそういう事出来そうっスよね〜」
パッと笑顔を見せる空海。
起き上がったツチはムクの横腹を小突いて耳打ちした。
「突き詰めようとするだけ無駄だぜ?
人間の考える事は俺達異能者には理解できねーんだから」
「それもそうか…」
これが空海の計算にせよ、ななせの計算にせよ結果的にどうでも良かった。
それにもしかしたら計算じゃないかもしれない。
確かに考えるだけ無駄だな。
異能者では理解出来ない考えをするのが人間。
能力が無くてすぐ死ぬ生き物。
異能者の中では弱いくせに内に恐ろしさがあるとされている。
「なぁ、人間って面白いだろう?」
ツチはムクにもたれかかってくると、親指で空海を指して笑いかけた。
「…まあ、悪くはない、かな」
心地よい風が吹いて髪が揺れる。
この後、ななせと空海は握手をして
ムクはななせ達と解散した。
飛べるようになったんだ。
これからどうしようか…
ムクの中で小さな悩みの種が芽を出した。