Chapter 9   飛べるよ
05
空海がツチと話し合いをしている空き時間に、
フィールド外で待機しているレンは不満を垂らした。

「相手が飛行タイプのみなら俺が有利じゃねーか」

「彼にはまだ秘密がある。
 それが分からない限り有利とは言えないよ」

自分のでかい独り言を聞かれたような気がして
レンはイラッとしてムクを見た。

「ほお〜〜〜〜〜〜???
 ニワトリが偉そうな事言って何が出来るってんだ。
 飛べないしうるさいしでウゼーなぁ」

「何とでも言えよ、単一電池。
 俺は正論を言ったんだ」

「たっ、単一…?!」

もともと鋭い目つきをしているムクがさらに
目つきが鋭くなってレンを睨みつけた。

「単一電池ってなんだお前!!
 もう一度言ってみろ!!」

「でかいだけで使い道がないって意味だよ。
 電気タイプにうってつけの悪口さ。

 さっき俺にニワトリって言ったよな?
 その仕返しだよ」

「使い道あるだろクソが!!!!
 テメー、前髪だけ赤いだろっ!!
 それがニワトリに似てるじゃあねーか!!」

怒鳴らず冷静に言ってくるムクに腹が立ったレンは
彼の胸ぐらを掴むと身体から電気の火花が散った。

「もおーー!!!喧嘩しない!!」

ななせが二人の間にスッと手を挟んで二人を引き剥がした。

「喧嘩しに来たわけじゃないからね!
 ムクくんも、レンくんの挑発に乗らなくていいからね!」

レンは舌打ちして掴んでいた胸ぐらを乱暴に離し、
床であぐらをかいて座った。

「ごめん、少し冷静さを見失ってたよ」

ななせに謝ると掴まれた部分を軽く叩いてムクもベンチに座った。

忘れてはいけないが、ジム戦はまだ終わっていない。

話し合いを終えた空海がななせに試合再開のサインを見せた。
ツチは風に乗ってフワッとフィールド内に入ってゴウキを見た。

まだ余裕そうな笑みを浮かべるツチに
ゴウキはゴクリと生唾を飲み込んだ。

不利なのは俺だ。

隙を見せたらそれこそあの衝突を超える一撃を食らう。
あの衝突寸前で機体に一撃炎の拳を食らわせたが本人ではなく、
飛行艇の機体にダメージがあっただけ。

つまりツチ自身は無傷の状態。
それに比べてゴウキは半分くらいダメージを受けた。

回復してもらう暇は無い。
仮に回復してもらったとしても、ツチの方が素早さが高いため
ゴウキは一度も攻撃出来ないまま2度攻撃を食らって終わり。
最悪の場合、回復した後攻撃を食らってゴウキがノックダウン。

だからななせは回復をしてこない。
それが分かっているから傷薬を握りしめたまま。

これはもう…
大打撃になるような技をお見舞いするしかない…!

「這いつくばってでもやってやる…!」

ゴウキは狙いを定めた獣のように全神経を集中させた。

屋上の隅をギリギリ立っていたツチが右腕を伸ばすと
そのままフラッと後ろから飛び降りるように下に倒れていった。

「!?」

いきなり視界から消えて驚いたゴウキは追いかけて下を覗き込むと
建物に使われている鋼鉄が
吸い寄せられるようにツチにまとわりつき、
みるみる人1人入れるくらいの小型の飛行機に変わった。

小型飛行機は急速旋回をしてゴウキの様子を伺うように空中を飛び回った。

ツチが小型飛行機に変わる瞬間を一部始終目撃して
ムクは感嘆の声を漏らした。

「もしかして特性は『磁力』…」


特性:磁力
鋼タイプは戦闘で逃げられない。

追記
身体が磁石のようになっているので鉄が吸い寄せられる。


普通の飛行タイプの特性に『磁力』はありえない。
でも、ツチはムクと同じ異種型。
「普通」ではない。

彼は風に乗る程度で、1人で飛ぶ事は不可能。

鋼鉄がくっついてくるこの特性で、
自分に合った飛行機の形になり
エンジンなんて使わず自分が中に入って風を操って操作する。

そうすれば、自分も飛べる。
飛行タイプにしか出来ない空の世界へ行ける。

「普通とは違う」というコンプレックスを武器にするなんて…

きっと彼はジムリーダーに出会って運命が変わったのだろう。
飛べない自分に飛行機(つばさ)を与えてもらったんだ。

同族でここまでトリッキーな事をする者はムクの中では見た事がなかった。
「羨ましい」とさえも思ってしまった。

「しまった!! また飛ばれたらどうも出来ねぇ!!」

何も出来ず1人フィールドであたふたするゴウキ。
空海はトランシーバーを使ってツチに指示を出した。

「『フリーフォール』!!」

小型飛行機は一度旋回してから、ツチは小窓から手を出して
ゴウキの左腕を掴み、空中へと飛び立った。

「ゴウキくん、振りほどいて!!!」

ななせの声は惜しくも届かなかった。
高く飛べば飛ぶほど落ちる高さが高くなり、
ゴウキには不利になった。

「『フリーフォール』の時は、両者共何も出来ない。
 次のターンで2人共落ちてくる。

 今の彼(ゴウキ)ではどうにも出来ないだろう…」

苦い表情をするムクにななせはひたすら祈るしかなく、
レンと後悔をした。

「私がもっとしっかりしていたら…」

「あのバカが正面衝突していなかったら…」

ななせもレンも小さくなってきた頃、
空高く飛ばされながらゴウキはななせの言葉を思い出した。

「俺のやり方で…!」

風の圧力に負けそうになりながらも飛行機の機体にしっかりしがみついた。

「優雅な空の旅を」

小窓からツチは掴んでいたゴウキの腕から手を離し、軽くウインクした。
気持ちが悪いくらいの浮遊感の後に
フッと力が抜けたように飛行機が落下していった。

「うわわわっ!!!」

飛行機は力強く引っ張られているように勢いよく真っ逆さまに降下し、
振りほどかれそうで慌ててしがみついている力を強めた。

目も開けてられないくらいの強風に何も出来なかった。

このまま落ちると自分は何も出来ないまま終わってしまう!
そう思った時に「もうこれしかない」と考えついた。

「今更何かする気か?! もう遅い!」

ツチに感づかれたが、そんな事はどうでも良かった。
片腕だけでしがみついたまま、
ゴウキは左目の下に貼ってあるパッチを剥がした。

「これが!! 俺の!! やり方だーーーッ!!!!!!!」

パッチを剥がした瞬間ボッとゴウキの髪が引火し、
火は飛行機全体にまで燃え移った。

「!!?」

ツチが気づいた時にはもう遅かった。
フィールドに飛行機が墜落し、破片は散らばり
屋上に叩きつけられたゴウキはピクリとも動かず戦闘不能になった。

「ゴウキくん!!!」

ななせが呼び掛けてもゴウキは返事をしなかった。

左目下に貼ってあったパッチは剥がされ、
燃え尽きたかのように体中から黒煙が上がっていた。

「まさにオーバーヒート…」

ポツリと呟いた立ちすくしているムクを見て、
レンはムクに向かって親指を下に向けた。

「これを見てもまだお前は俺達を馬鹿にするか?」

それだけを言い残しレンはななせとゴウキのもとへと走っていった。

互いを信頼してこそ成り立つバトル。
両者の絆・勇姿をここまで見せつけられたんだ。

ムクの中では1つの答えが見えていた。


■筆者メッセージ
※独自設定?あります!!注意!!
水野 翡翠 ( 2018/12/06(木) 16:07 )