03
ななせはムクとゴウキのいるベンチに向かって走った。
ゴウキはななせを見て心配そうに立ち上がった。
ムクは飛行艇を睨んだままななせを見ても微動だにしなかった。
「レンでも勝てないくらいヤバイ奴なのか…?!
あのトンデモ機械は…!」
「違うの!」
ななせは慌ててるゴウキに落ち着いてもらおうと手をしっかり握った。
突然手を握られたゴウキはゴクリとつばを飲み込んだ。
「こ、交代だな…?!」
「ごめん、それも違う」
真剣な表情のままななせが首を横に振ると
自分の出番が来ると思っていたゴウキは
上げといて下げられた気分で凹んだ。
凹んでるゴウキを後にして
ななせは飛行艇を見上げているムクに駆け寄った。
ななせが駆け寄ってきた事に気づいたムクはななせを見て鼻で笑った。
「いいの? バトルはまだ終わってないよ」
「いいの! 私はあなたに用があって来た!
レンくんが時間稼ぎしてくれてる間に、あの飛行艇の『彼』について
知っている事全部教えてほしいの!」
飛行艇の騒音と強風のせいで普通に話しかけたら声が届かない。
ななせはそれに負けないように声を張り上げた。
風でよろめくけど、まっすぐとムクを見つめた。
バカだなー、会って間もない俺を信用しているのか?
だとしたらどれだけ脳内お花畑なんだよこの娘(こ)は。
「俺は嘘を言うかもしれないよ?」
こうしてじらして、その時間稼ぎとやらを無駄にしてやろうか?
「それに、協力するとは言ってないし」
そう。俺はただ観戦するだけのただの部外者。
どうせなら、キミが哀れに負けるところでも______。
ふとななせの顔を見た。
ななせは泣きそうな表情でも、怒ったような表情でもなかった。
ずっと真剣な表情でムクを見つめていた。
「……なんで、そんな目で見るんだよッ…」
その表情が、目が、ムクに罪悪感を感じさせた。
とっさに手でななせの目を隠すような素振りをした。
「ムクくんが言う事、嘘でもいい。
ムクくんを信じるか信じないかは私次第だから。
嘘を言ったからムクくんのせいにしない。
それはムクくんを信じた私のせいだから。
でも、私、ムクくんは嘘つかないって知ってるよ」
ニコッと優しく笑いかけたななせを指の間から見て
ムクは手から力が抜けてきて顔を覆っていた手をゆっくり下した。
飛べなくなってから、ムクの心の中に黒いモヤがずっと住み着いていた。
それからは時々悪魔のような囁きが聞こえていたし、
自分でも知らない間に悪い事ばかり思いついてしまっていた。
さっきだってそう。
『ななせがバトルで負けて泣いて絶望するところが見たい』と思っていた。
思っていた…のに…
そのモヤが心から消えていくのが感じた。
霧が晴れて、曇り空から太陽の光が差し込んだ感じがした。
モヤが消えてから、悪魔の囁きのようなものは一切聞こえなくなった。
「…『彼』は…あの中にいる」
ムクの口からポロっと出た言葉がそれだった。
「あの中? あの飛行機の中って事?!」
食いつくようにななせはムクの腕を掴んで揺すった。
揺すられながらムクはななせを落ち着かせようと彼女の肩をポンポン叩いた。
「一度でもあの飛行艇から中にいる『彼』を引きずり出してよ。
そうしてくれないと俺も『彼』の正体がが掴めないよ。
あの機械のせいですべて情報が遮断されているようだから」
「ほ、ほほほほんと?!?!?
ありがとう!!! 私達頑張るからね…!!」
目を輝かせて足をバタバタさせて落ち着きのないななせは
ムクの手を握って何度も手を上下に振って
フィールドで時間稼ぎをしているレンに駆け寄っていった。
これで良いんだ。
ななせの背中を見てそう思った。
結局嘘なんて1つも言えなかった。
でも、それが良かったんだ。
彼女には、嘘なんて無い真実が良いんだ。
だから、このバトルが終わったら、彼女には「ありがとう」を言おう。
ムクはそう決心すると再びベンチに腰を下ろして
ななせとレンを見守った。