Chapter 9   飛べるよ
02
クラウンシティのタワーの屋上。
風がやや強い中ななせのジム戦はまだ続いていた。

風はいっこうに弱くはならず、むしろ強くなってきている気がしていた。
きっとこの天候が飛行タイプの異能者には最高のフィールドなのだろう。

レンはななせの風よけになり、
ジムリーダー・空海の出してくる次の相手は誰なのかと睨んでいた。

「チャレンジャーには
 ガンガン攻めて来てほしいってずっと思っていたんスよ!俺!」

空海はノイシーが入ったボールを安全な場所へ移してから
ななせとレンを見て目を輝かせて声を張り上げた。

「ジムリーダーじゃなかったら、
 俺には飛行タイプ異能者オタクって事しか残ってなくて…

 それは流石にまずいって相棒に言われて、
 相棒がバトルの事色々アドバイスしてくれてなかったら
 俺はチャンピオンさんから声かけてもらえなかった!
 今こうしてジムリーダーにはなれてない!

 それくらい、俺は相棒の事大好きだし信頼してるし
 どんなピンチも駆け抜けれる!

 キミ達が次に相手するのは、俺の最高の相棒っス!!」

空海はトランシーバーの無線を切って
両手を空高く挙げて大きな声で叫んだ。

「ツチーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!」

風がビュウビュウ吹き続ける中、
『それ』は姿を現した。

聞き慣れないプロペラの音。
風を切って何かが向かってくる音が聞こえてきた。

空海の掲げた両手の先を見上げると
真っ赤な飛行艇が空から大きく旋回してきた。

「な」

「なんだアレかっけーーーー!!!」

初めて見る飛行艇に男子らしい反応をするゴウキと、
てっきり人の形をした何かが来ると予想していたレンが唖然と空を見上げていた。

「え? アレって反則なんじゃあ…」

1人であたふたしながら
もにょもにょ言っているななせにムクは淡々と答えた。

「反則じゃない。
 『彼』も立派な飛行タイプだ。

 変わり者ってだけで全然反則なんかじゃあない」

『変わり者』。
そう、『普通じゃない』って事。
俺と同じ…

ムクは訝しげに飛行艇を見上げた。

ツチと呼ばれている飛行艇の『彼』は
同じ飛行タイプであるムクから見たら『飛行タイプとの複合タイプ』という事は
ハッキリ分かったのだが、もう1つのタイプがすぐに分からなかった。

ムクは渡り鳥で各地を移動していた経験があるため
異能者のタイプの見分けには自信があった。
飛行艇の『彼』にはモヤがかかっているようでハッキリと分からない。

ただ分かったのは自分と同じ『飛行タイプ』なのだという事だけ。

「細工したな…」

各地を移動して色んな場所を見て、
色んな異能者を見てきている渡り鳥をやってきたムクに
同族たる飛行タイプの異能者に関する謎かけを
空海が出してきているように感じた。

ムクはプライドが高い分無性に腹が立ってきた。

分かりそうで分からない!
この歯がゆさに思わず歯ぎしりをした。

飛行艇の『彼』の謎をいち早く解かなければ。
ななせ達が先に解いてしまったら、
ななせ達が負けた時に鼻で笑う事が出来なくなる…!!!!!

ムカムカしながら考えていると
空海から見られている事に気づきハッと目が合ってしまった。

挑戦状を出してきた者の余裕なのか
空海はニッと笑うと挑発するように指でサインをした。

随分と余裕そうじゃあないか…

冷や汗が流れムクはその挑発に乗るように
空海に口角を上げて笑いかけた。

「ただ見物するのも暇だし…
 乗ってやるよ、人間」

ムクは冷や汗を拭うと
太陽の光で真っ赤に艶がかった飛行艇を凝視した。

飛行艇は屋上には着陸せずにぐるぐると屋上の周りを旋回していた。

空海の指示が無いと着陸はしないのか、
それとも着陸する気はないのか、
それともこちらの様子を伺っているのか。

目で追っていると不意打ちを食らいそうでレンは舌打ちをした。

ななせは軽率な指示をレンに出したくなくて
その場で固まっていた。

飛行艇は思っていたより大きくはない。
せいぜい1人乗れるのが精一杯のような小型飛行艇だった。

飛行艇の中で誰が操縦しているのかと
操舵室を見ようとしても素早くてギリギリ操舵室の様子は見えない。

無人という可能性も最初は考えた。
だけどその考えはムクの言った『彼』という言葉が引っかかった。

『彼も立派な飛行タイプだ』

飛行艇を見て瞬時に性別が男だと理解したのはムクだけ。
ななせもレンもゴウキも誰も性別なんて分かりっこなかった。

だって飛行艇に雌雄はないから。

という事は、ムクは飛行艇の中身が見えたという事。

ななせはとてもムクに色々聞きだしたかった。
今すぐにでも「ちょっとタンマ!」と言ってムクのところに向かいたかった。

でも今そんな事をしてもいいのだろうか…?

1人で悩んでいても時間だけが過ぎていく。
ななせは恐る恐る風よけになってくれているレンに耳打ちした。

「レンくん、こんな事言ったらレンくん怒るかもしれないけど…」

「あぁ?」

もうすでに怒っているレンにななせは尻込みした。
でもここで「やっぱいいや」なんて諦めてしまうと
今のレンだと余計に機嫌が悪くなって言う事を聞いてくれなくなると
安易に想像出来て、もう怒られるならいつものように怒られようと
吹っ切れて聞いてみた。

「ちょっとムクくんと話がしたいの!」

「はぁっ?!」

怒られると思って叩かれる準備としてななせが目をつぶると
頭をガシッと掴まれた。

「まさか俺が無機物に負けるとでも思ったのか…?」

般若のような形相でななせを睨んでくるレンに
ななせは今まで見た事のない怖い顔だったのでひるんで
言葉がすぐに出なかった。

精一杯勇気を振り絞って出た言葉がこれだった。

「む…『むきぶつ』って何…?」

「………………………………」

初めて聞いた言葉だったので、つい。

レンの顔が一瞬で冷めた表情に変わって
ななせはなにかまずい事でも言っただろうかと汗が滝のように流れた。

レンは何も言わずに
子犬みたいに小刻みに震えているななせのつむじをグっと押した。
これが意外と痛かった。
叩かれるよりマシだったので「痛い」とは言わずに堪えた。

「すぐに終わらせて来い。
 時間稼ぎくらいしといてやる」

レンに力強く背中を押され
ななせは転びそうになっても踏みとどまって
振り向きはしないけどちゃんとレンの言葉に返事をした。

「ありがとう…!
 聞くだけだからすぐに終わるよ…!」


水野 翡翠 ( 2018/03/29(木) 20:46 )