01
クラウンシティにあるタワーの屋上。
そこで今まさにジムリーダー空海がチャレンジャーと勝負をしていた。
チャレンジャーは焦げ茶色の髪をした肩につかないくらいの髪の長さの女の子・ななせ。
ななせの連れている異能者は電気タイプの青年レンと
炎・格闘タイプの赤髪の少年・ゴウキ。
対する空海の出した異能者はコウモリの羽をした飛行・エスパータイプの女の子。
ななせと空海のバトルを見てムクは1つ分かった事があった。
「レンくん! 私そんな指示してないよ!!」
「うるせー!!! オレに死ねって言うのかお前は!!!!!!!」
2人の怒鳴り声が飛び交うフィールドでムクは冷静に呟いた。
「全然仲良くないじゃん、なにこれ」
「まったくだよなー」
隣で聞いていたのかゴウキが苦笑いして答えた。
まだ言い争いをしている2人を凝視したままムクはゴウキに質問してみた。
「え、いつもあんな感じなの? 2人は」
「オレも入ったばかりでよく知らない…でもだいたいあんな感じ…」
「え………」
ムクはふと展望台でレンに言われたセリフを振り返ってみた。
展望台で泣かしたら殺すとか俺に言わなかったっけ?
いっちょ前に恰好つけてなかった?!
俺てっきりそういう関係なのかと…
これ以上はレン(かれ)のために言わないでおこうとムクは思い
ぐっと出そうになった言葉を飲み込んだ。
「か、勝てると思うか…?」
心配そうに横目でこちらを見上げているゴウキを見て
ムクは鼻であしらった。
「さあ? どうだろうね。
飛行タイプは同類だから俺は読みやすいけど、他の人には厳しいんじゃない?」
現にレンが電気技が一つも当たらなくてイライラしているのが
見ているこっちにも伝わってくる。
せっかくななせが指示しているのに
それを無視して自分のやり方で闘っている。
それに見て分かった事がもう1つ。
ジムリーダーも決して弱くはないという事。
今のななせとレンは完全に空海の手のひらで踊らされている。
「1人目でこれだと、彼(空海)がこの先にもう1人控えてるとしたら
まずいんじゃないかな?
まだ2人目が彼(レン)にとって有利なのか
不利なのか、どんな奴かも分からない。
対策不足で負ける可能性もゼロじゃない。
今の状況でもし勝てたら…それはまぐれだよ」
現状見た限りだとこれが質問の答えだとムクは思った。
横目で見てくるゴウキにフッと少し口角を上げて答えると
ゴウキは冷や汗が流れ、不安そうな顔でななせ達を見た。
風がどんどん強くなってきて
向かい風が吹くたびにななせはよろめいた。
たまに立っていられなくてこけそうになるがしっかりと命綱を掴んで持ち堪えた。
向かい風の影響でレンの状況がよく見れないが絞り出すように叫んだ
「レンくん…! 言う事を聞いて!!!」
風の影響で立っているのもやっとの態勢をしているななせを見かけると
舌打ちをしてレンはななせの真ん前に背を向けたまま立った。
「どうだ、これで多少は風来ねぇだろ」
「え…」
ななせはてっきり怒鳴っていつものように
頭を叩いてくるのかと思っていたが口調は思っていたより優しかった。
風を防ぐために顔を覆っていた腕をどけてレンの背中を見上げた。
肝心な時に反抗してきたりして怖いけど、些細な事で助けてくれる。
風よけになってくれているレンの背中がたくましく感じた。
「次からはもっとマシな指示を出せ。
俺の技は何も考えずぶっ放せば目の前の敵に当たる。
だがそれはお前にも当たるからな」
自分勝手な行動ばかりすると思ったらちゃんと考えてくれていたりする。
ななせはレンが自分に気を使ってくれてる事に気づかず、
言う事を聞いてだのあーだこーだ言ってしまった事が情けなく感じた。
ただこのバトルに勝ってムクに『信じれば勝つ!』と証明出来ると
思い込んでいた。
でもそれでもし勝っても、自分だけが満足するだけで
実際闘ってくれるレンとゴウキの気持ちを無視するのだと。
「ごめん…」
ななせは俯いて右手をそっとレンの背中に当てた。
触れた右手から静電気のようなチクチクとした痛みがする。
「ありがとう、レンくん…!」
私、間違ってたよ。
気づかせてくれてありがとう。
ななせはそのまま右手に力をぐっと込めてレンの背中を押した。
「おう」
レンは一度も振り向きはしなかったけど、
この一言は怒っているようには聞こえなくてななせは思わず笑みがこぼれた。
少しずつでいいからレンくんの事を知っていきたい。
その思いはこのバトルが終わってから伝えるとしよう。
だから今はしまっておこう。
バトルに気持ちを切り替えると
空に向かって人差し指を挙げてななせは声を張り上げた。
「“かみなり”!!!」
フィールドの真上に黒雲が雷を轟かせて現れた。
レンの放った電気を取り込むとさらに轟かせた。
ななせは地面に座り込んでなるべく自分の高さを低くした。
レンが手で指示すると
雷は相手の飛行・エスパータイプの女の子の下に一直線に雷鳴を響かせて落ちた。
戦闘不能になった女の子を見て
レンはななせのところまで歩いていった。
「ノイシー、ごくろうさん。
ゆっくり休んで…」
空海は戦闘不能になった女の子・ノイシーを抱き上げると
ノイシーは空海に「ごめんにゃぁ〜…」と笑いかけてボールの中に入っていった。
レンはバッグで自分の頭を守って座り込んでいるななせの頭を
コンと軽く叩いた。
「オレが“かみなり”を放つ時は」
「なるべく低い姿勢にすること!
ね! 覚えてるでしょ?」
「上出来」
レンが手を差し伸べるとななせはその手をしっかりと握り、
立ち上がってレンに笑いかけた。
続く2戦目の相手は果たしてどんな相手なのか。
ムクは1戦目を終えてのななせとレンを冷めた目で見ながら鼻であしらった。
「…へえ、まぐれ、ってわけでもなさそう」