01
プロローグ
昔話でこんな話がある。
『この世界には 「人間」と「異能者」が存在して
異能者はそれぞれ炎、水、草、風、氷、地面、岩、毒、電気など
自然の力を自由に操ることが出来る。
その力で自分達が強いという事を表し、「人間」に危害を加え、神を怒らせた・・・
そして怒った神は「異能者」は「人間」には
逆らえないよう掟を唱えた。
そうして「人間」と「異能者」の格差が起きた・・・・・』
色とりどりの花が咲いた広い花畑で、
真っ白の髪をした青年は表紙がボロボロの本を閉じた。
神は人間と異能者の差別が起こる事を予想しただろうか・・・
この今の世の中を・・・
生暖かい春風が青年の頭上にある2本の白いアホ毛を揺らす。
「・・・・・・・・・・・・・近い将来、
誰かがこの格差社会を無くして自由な世の中になるだろうか・・・」
そんな事を呟いて青年は放置していた絵画の画材セットを片付け始めた。
晴天の午後の空、アナザー地方 ルイタウンの近くにある森で
2人の子供が走って目的地に向かっていた。
「待ってよ!! ハレヤ!!」
息を切らしながら黒髪の少女は前を走る金髪の少年に向かって言った。
少年は止まる気配を見せずに振り返った。
「早く!! ななせ!!」
「森には異能者がいるってママが言ってたよ!!」
「でも大発見したんだ!! じっとしてられないよ!!」
湖のある広い場所に着くと、少年ハレヤの足が止まる。
「着いた。」
続いて少女ななせの足が止まり、息を整えた。
「も・・・もう走れないよ〜・・・」
そんな ななせの肩をハレヤは優しく叩き、
「ほら見て・・・あそこ・・・」
と、湖の向こうを指差した。
ななせは指差した方向を見て、絶句した。
そこには鎖でつながれた男の子がいた。
男の子はひどくやつれていて、
打撃痕や傷つけられた痕がたくさんあり、ぐったりとしていた。
「あの子・・・怪我してる・・・!
手当てしてあげないと・・・!」
ななせは慌てて持参していた救急セットを持って
男の子の方へ向かおうとすると、ハレヤがななせの肩を掴んで止めた。
「あいつが今近所でうわさになってる異能者だよ。
結構凶暴らしいから近寄ったら怪我じゃ済まないかもしれないよ!?」
「で、でも!!
すごく痛そうだよ?!
放っておいたら可哀想だよ!」
「おい!!」
ななせはハレヤの手を振りほどき、ゆっくり男の子に近づいた。
「あ、あの・・・大丈夫?
今手当てするからね・・・・・・・・」
そろりそろりと男の子に近寄って、救急セットから消毒液を取り出して
男の子の腕の傷に触れようとした途端、目の前がピカッと光った。
何が起こったのか分からなかった。
身体中が痛くて・・・・
動けなかった・・・・・・・・・・・
真っ暗な世界でななせは仰向けに倒れていた。
体中が痛い・・・
私・・・死ぬの・・・かな・・・?
死の恐怖で涙がこぼれた。
「・・・死にたくない・・・っ。
まだ・・・死にたくないっ・・・」
泣きじゃくっていると、強い光がななせの顔を覗き込んだ。
「え・・・・」
ななせは驚いて光を見た。
「・・・生きたい・・・?」
光の中から女性の声が聞こえた。
「・・・生き・・・たい・・・」
女性の声にすがるようにななせは言った。
声の女性はフフフ・・・と笑い、
「・・・いいでしょう・・・。
あなたのこの世に生きる意味・・・ちゃんと見つけるんだよ・・・。」
と 眩しく輝いて辺りを光で照らした。
「うっ・・!」
ななせはあまりの眩しさに目をつぶった。
目を覚ますとななせは自分の部屋のベッドに寝ていた。
「良かった・・・。
私・・・生きてた・・・。」
起き上がって時計を見ると午前7時。
「きっとあれからずっと寝てて次の日になってたんだ・・・。」
部屋のドアが開き、ななせの母親がひょっこり顔を出した。
「おはよう、ななせ。
朝ごはん出来てるから食べてね。」
「あ・・・うん。」
母親が去ってからななせは不思議に思った。
ママ・・・私がずっと寝てたのに心配してないんだ・・・
ちょっと傷つきながら部屋を出て食卓へ向かい、
ななせは母親に思い切って言った。
「ママ、私どれくらい寝てたの?」
母親は皿洗いを中断して、うーん・・・と言いながら宙を眺めた。
「7時間ぐらいじゃない?」
と 笑顔で答える母親。
「結構寝た気がするんだけど・・・」
「そう思うくらい安眠したって事じゃない?」
母親は皿洗いを再開してクスっと笑った。
「そうなのかな〜・・・。
あ、ハレヤは・・・?
あの後、私はどうなったの・・・?」
ななせは身を乗り出して質問すると、
母親は思いもよらぬ返答をした。
「ハレヤ君?
ハレヤ君なら2年くらい前に旅に出たじゃな〜い。
あなたも見送ったじゃない、忘れたの?」
「え・・・?
何言って・・・。
2年前って・・・私が5歳の時はいたのに・・・。
2年前じゃないよ、だって私が7歳の時もいたし・・・」
状況を理解出来ていないななせを見て母親は大笑いして言った。
「何言ってるの?
2年前ってあなたが10歳の頃よ?」
その台詞を聞いてななせの頭は真っ白になった。
「じゃあ私は今・・・」
「12歳にもなって自分の年齢も忘れちゃったの?」
その母親の台詞を聞いてななせは食卓から飛び出して外に出た。
もう何がなんだか分からなくなっていた。
自分だけ5年前に置いていかれた、そんな気がした。
外の景色は昔と変わってないけど、人々は変わっていた。
どうして・・・5年も経っているの・・・?
思い出そうとするとズキッ頭痛が襲った。
まるで思い出すなと言っているように思えた。
悔しさのあまり涙が流れ、うずくまって静かに泣いた。
すると人が近寄ってくる足音が聞こえ、ななせの前で止まった。
「大丈夫・・・?」
暖かく吹いている春風と共に優しい言葉が聞こえた。
ななせは涙を拭いて見上げた。
見上げた先には とても風変わりな格好をした青年が立って手を差し伸べていた。
肩甲骨まで伸びた髪、まつげも眉も髪も真っ白で一際目立つルビー色の目。
頭の上にある2本のアホ毛が風になびいていた。
それに中性的な顔立ちをしていて女の子と間違えてしまいそうだった。
とても綺麗な人なのに青年はみすぼらしい格好をしていた。
それに青年の周りには小さな光の粒がたくさん飛び交っていて
ななせは思わず目を細めた。
「あの・・・あなたは・・・?」
青年はニコッと微笑んで、ななせと目線を合わせてしゃがみこんだ。
「僕は旅人さ・・・。」
そう青年が言うと強い風が吹いた。
「君とはまた会えそうな気がするな・・・。」
「え・・・?」
青年の2本のアホ毛はヒョコヒョコ動いた。
「いいかい。
立ち止まってても何も変わらないよ。
前に進まなきゃ・・・」
青年はニッコリと微笑んでななせの頭を撫でた。
「どうして・・・私を・・・」
唖然とするななせを見て青年は光の粒を指差した。
「皆が教えてくれたんだ・・・
君、これが見えるんでしょ?」
ななせは光の粒をまじまじと見てうなづいた。
「なら、君はトレーナーになる資格があるって事さ・・・」
「トレ・・・ーナー・・・?」
「トレーナー。
最大6人の異能者を従え、チャンピオンになるのを目指す人達の事。
8つのジムを勝ち進み、四天王と現チャンピオンを倒すと
チャンピオンになれるよ。
チャンピオンになると何でも願いが1つ叶うらしいよ・・・」
何でも・・・願いが・・・?!
ななせはその言葉に反応した。
「な・・・何でも・・・?」
「そう、何でも。
大金持ちになるとか、富や名声を得たいとか・・・
何でも叶うらしいよ・・・」
「私は・・・・」
私は知りたい・・・っ!
「私は・・・っ!」
5年前に何があったのか・・・
あの暗闇で私に語りかけたのは誰なのか・・・
「私はっ!
5年間、私に何があったのか知りたいっ!」
青年に向かって言うと、青年は苦笑いをした。
「あいにく、僕はチャンピオン様じゃないよ・・・」
青年はクスっと微笑んだ。
「そっか・・・君には叶えたい『夢』があるんだね・・・」
青年はななせに背を向けた。
「君のその『夢』が『野望』にならない事を・・・
僕は祈り続けるよ・・・」
そう言い残して青年は去っていってしまった。
ななせは青年を見送った。
「・・・不思議な人だなぁ・・・」
さっきの青年の言葉を振り返ってみた。
「チャンピオンになれば・・・何でも願いが叶う・・・」
そういえば・・・ハレヤは2年前に旅に出たんだっけ・・・?
もしかしたら・・・ハレヤもトレーナーに・・・?!
「幼馴染のハレヤなら5年前の事が分かるかもしれない・・・!」
ななせは急いで家に戻り、母親の前に立って言った。
「ママ!
私 トレーナーになるっ!」
母親は驚いた表情をして言った。
「ど、どうしたの? 急に・・・」
ななせは旅の準備をしながら答えた。
「確かめなくちゃいけない事があるの・・・!」
ななせの目は決意に満ちていた。