第4話「採用試験」
「さて、残るは実技だけか」
8月18日、俺は仕事の採用試験を受けていた。さっき面接が終わったばかりだ。内容はと言うと、免許の有無や知識の程度を計るもの。俺は免許なんて持ってないから、実演してやった。すると残りの質問は全てパスされた。まあ、これでも何年間かやっていたからな。ある程度の腕になるのも当然か。
面接が終わると、俺はグランドに案内された。中々広いな。校舎も合わせればがらん堂に匹敵するだろう。俺が着いた時には、辺りに野次馬が1人の男を囲っていた。男は上半身裸で、髪は白髪混じり。裸足にズボンの組み合わせだ。……上くらい着ろよ。俺がそんなことを考えていると、男は声をかけてきた。
「ほう、君が志願者か。なるほど、見ただけでかなりの強者だと分かるな。これは期待できそうだ!」
「……あんたが校長か。どこかで見たことがあるような気がする」
人ごみをかき分けながら男が俺の前にやって来た。実技試験は校長自らがやるとは聞いていたが、何をするつもりだ?
「なんだ、君はわしを知らんのか。では自己紹介だ。わしはシジマ、タンバジムリーダーであると同時に、タンバ学園の校長をやっておる。まあ、学園とは言っても高校なんだがな、がはははは」
男、シジマは腹の底から笑いあげた。……そう言えば、俺が旅をしていた頃に戦った記憶があるぞ。格闘タイプの使い手だったような。
「タンバジムリーダーか。どうりで強そうなはずだ。で、その校長がわざわざ出向いたということは……」
「その通り!」
俺の言葉が終わる前に、シジマは頷いた。それからボールを手に取る。
「実技試験は、わしとのバトルだ。2対2で戦い、その結果を評価に加味する。ここまで来たのだ、今更後戻りなどできんぞ」
「勿論だ。ジムリーダーとは厄介な相手だが、大丈夫だろう」
俺は腰に提げたボールを掴み、シジマと距離を取った。野次馬達も俺達から離れていく。勝負の準備は整った。俺とシジマの間に審判らしき男が残り、試合開始を宣言する。
「これより、実技試験を始めます。対象は校長、志願者。使用ポケモンは2匹。以上、始め!」
「ではわしから、オコリザル!」
「フォレトス、出番だ」
俺はまず、フォレトスを繰り出した。一方シジマはオコリザルだ。オコリザルは、確か格闘タイプでは6番目くらいの素早さだったな。技の種類も豊富、油断したら手痛い一発を食らうだろう。ま、フォレトスを一撃で仕留めるのは不可能だがな。
「ぬふふ、格の違いを示すのだ。オーバーヒート!」
先手はオコリザルだ。オコリザルは体中から熱波を放った。その熱さは、地面が焼け焦げていることから想像に難くない。俺も暑い。フォレトスはこれを直に受けたが、なんとか踏みとどまった。さすが、頑丈の特性は便利なもんだ。さて、反撃と行くか。
「甘いぜ、だいばくはつだ」
フォレトスはオコリザルに接近し、爆発した。爆風はオコリザルを襲い、黒煙が2匹を覆う。しばらくして、煙が晴れてきた。そこには気絶したフォレトスとオコリザルがいた。
「フォレトス、オコリザル、両者戦闘不能!」
「なぬ、オコリザル!」
シジマは唸りながらオコリザルをボールに戻した。俺もフォレトスを回収し、2匹目をスタンバイさせる。
「なんだ、ジムリーダーも弱くなったもんだ。俺が旅をしていた頃はもっと強かったはずだが」
「……貴様、わしと戦ったことがあるのか?」
俺の言葉に、ジムリーダーは反応した。まあ、もう20年も前の話だからな。覚えていなくてもなんら不思議なことではない。
「ああ、確かに。さっき思い出した。もっとも、もう随分昔の話だがな」
「なるほどな。ふっ、それを聞いて安心した。ならばわしの新たな力、とくと見るが良い。ハリテヤマ!」
シジマは自信満々に2匹目のハリテヤマを投入した。ハリテヤマと言えば、格闘タイプでも指折りの耐久を持つポケモンだよな。攻撃も十分ある。素早さが低いから行動回数こそ少ないものの、交代からでも仕留められるポケモンは多い。
「ハリテヤマか、一撃は難しいな。だがこいつにかかれば……カイリュー!」
だが、俺の前にその程度では意味がねえぜ。俺は切り札のカイリューを送り出した。その瞬間、野次馬達がどよめいた。なんだ、ドラゴンタイプがそんなに珍しいのか? 45番道路で釣りをすればゲットできるんだがな。まあ、そんなことはどうでも良い。今は目の前の試合に集中だ。
「ねこだまし!」
先に動いたのはハリテヤマだ。ハリテヤマは拍手をしてカイリューをひるませると、その巨体に似つかわしくない速さで接近、カイリューをはたいた。俺のカイリューの特性をマルチスケイルと知っての行動とは思えないが、面倒なこった。
「っち、ちょこざいな。カイリュー構うな、ぼうふう攻撃」
カイリューは肩の翼で突風を巻き起こした。ハリテヤマは地面に伏せてやり過ごそうとするが、そうは問屋が卸さねえ。大風はハリテヤマを吹き飛ばし、ハリテヤマは背中を叩きつけられた。
「なんの、ストーンエッジ!」
ハリテヤマはすぐに立ち上がると、その場で足踏みをした。すると、カイリューの足元から岩の刃が生えてきた。刃はカイリューの腹部をえぐるが、なんとか凌いだ。俺は胸をなでおろし、最後の指示を出す。
「終わりだ、しんそく」
カイリューは、目にも止まらぬ速さでハリテヤマに突っ込み、そのまま蹴散らした。ハリテヤマは地響きをたてながら崩れ落ちる。
「ハリテヤマ戦闘不能、カイリューの勝ち! よって勝者、志願者テンサイ!」
「ふん、当然だな」
俺はカイリューを引っ込めた。引退したとは言え、かつては頂点を取った男だ。そう易々とジムリーダーに後れを取るわけがない。しかし、野次馬共の歓声はどうにかならねえのか? うるさくて仕方がない。
そんなことを考えていると、敗れたシジマはハリテヤマをボールに収め、俺に近寄って来た。妙に晴れ晴れとした表情だ。
「テンサイとやら、見事であった。ジムリーダーのわしをこうもたやすく突破するとは。だが、これでもまだ実力の一部しか出しとらんのだろ?」
「……さすがに分かっちまうか。俺の本領は力任せではない。もっと、驚きと巧さを備えたものだ」
「そうか。しかし、その状態でこれほど強いとなれば話は早い。是非とも、9月1日より教師として我が学園の生徒を鍛えてやってくれ」
シジマは俺に握手を求めた。俺はそれに応じた。これで採用か。なんだかあっけないもんだが、それについては言わないでおこう。
「……了解した。それでは、俺はそろそろ失礼させてもらおう。当日からはよろしく頼む」
俺はこう言い残すと、さっさと帰宅するのであった。今日の飯は美味くなりそうだ。
・次回予告
登校初日、事件は起きた。職員室は朝から大慌て、カメラがあちこちを撮っている。一体、何が起きたと言うんだ? 次回、第5話「9月1日」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.71
久々のバトル、中々楽なものです。何故なら、まだポケモンの数が少ないからです。これが段々増えてくると思うと……。しかしテンサイさん、さすがに採用試験であの口調はまずかったかな。普通ならあの時点で一発アウトな予感。
ダメージ計算は、レベル50、6Vフォレトス腕白HP防御振り、オコリザル無邪気攻撃素早さ振り、カイリュー控えめHP特攻振り、ハリテヤマ意地っ張り攻撃特防振り。フォレトスの大爆発でオコリザルが中乱数1発、カイリューはハリテヤマの猫だましとストーンエッジをマルチスケイル込みで確定で耐え、暴風と神速でハリテヤマを確定で倒せます。
あつあ通信vol.71、編者あつあつおでん