第29話「とんでもないプレゼント」
「おお、テンサイではないか。まさか君が来るとはな」
12月24日木曜、時刻は午後7時を回ったところでシジマ校長が声をかけてきた。舞台は学校1階の多目的教室。多目的教室と言っても、そこらのちんけな代物とは訳が違う。体育館の半分はあるであろう巨大な部屋なのだ。これに倉庫が備わっているのだから恐れ入る。普段は体育や大規模な会議で使われる場所だが、今日に限っては趣が異なる。人は皆華やかな衣装をまとい、ご馳走の香りが漂う。実に非現実的な空間だ。
そのような場所でも、俺はさらしに着流しだった。まあ、そんなことは問題ではない。俺はシジマ校長のあいさつに返事をした。
「こんばんは、校長。俺もいまだに冗談だと思ってますよ、自分が人前に現れるなんて」
「確かにな。それでも来たということは、彼女の提案だろう?」
「全くもってその通り。留守番のはずが、『暗い帰り道には付き添いが必要です!』とかで付き合う羽目になりましたよ。まあ、内容自体は素晴らしいですが」
俺はフォローをしておいた。今、この場にいる奴らは現実を忘れている。それに水を差せるほど非情ではないからな。相手にもよるが。
俺の言葉を受け、校長は上機嫌だ。今日はシワの無い背広を着ているが、そこまで腹部は目立たないな。昔は少したるんでいたらしいが、これも鍛練の成果か。
「わはは、それは良かったわい。主催者になった甲斐があるというものだ」
「……しかし、突然クリスマスパーティーなんてどうしたんです? しかも、こういうイベントにはいるはずの教頭もいませんが」
俺は率直な疑問をぶつけた。そう、今日はまだあの癪に障る教頭を見ていないのだ。いないならそれで構わないものの、理由が気になるもんでね。
俺の問いに、校長は胸を張って答えた。
「ほう、やはり気になったか。そうだな、今回パーティーを開いたのは生徒の教育が目的だ。社会に出ても恥ずかしくないようにするために、服装や言葉遣いは普段以上に厳しくしてある。それと、ホンガンジは来れないように計らっているのだ」
「来られない? 厚顔無恥なあの教頭なら、無理矢理でも来て荒らしそうなものですが」
俺は思わず首をかしげた。一方校長は気にせず続ける。
「ふふ、今回はイッシュ地方への出張を命じておいたから大丈夫だ、『異文化の学校経営の視察』という名目でな。これで年末まで戻ってこれまい」
「そりゃ助かる。どうにもあれは厄介ですから」
俺は深々と礼をした。まったく、校長の計らいにはいつも頭が上がらねえぜ。
「それは良かったわい。……してテンサイよ、実はお主に良い知らせがあるのだが、聞きたいか?」
「良い知らせ? 給料が増えたとかですか?」
「それ以上だ。……ポケモンバトルのプロリーグがあるのは知っておるな?」
ふと、校長が気になる言葉を挙げた。「プロリーグ」ってことは、まさかスカウトか? それはねえか。
「ええ、全国各地にありますね」
「そうそう。そのうちの1チームがな、毎年2月のキャンプで我が校の施設を利用することになっているのだ。このキャンプの練習試合に、ポケモンバトル部が参加できるようにしておいた」
「……プロと勝負ですか」
俺は息を呑んだ。緊張してきたからではない、嫌な予感がしたからだ。万が一注目でも浴びてみろ、瞬く間に居心地が悪くなる。まあ、今は顔に出さず聞くだけだが。
「そうよ! わしが練習に付き合っても良いが、色々忙しいからな。この機会にトップレベルのバトルを肌で感じられればと思った次第だ。是非とも有効活用してくれ」
「もちろんですとも」
俺は再びお辞儀をした。さてと、こりゃ面倒なことが増えたな。……しかし、これも1つのチャンスにつなげるくらいにしてやるさ。俺はすぐさま頭の中で構想を練りだすのであった。
・次回予告
さあ、今日から1年のスタートだ。今年が飛躍の年になるよう、俺も全力を尽くさないとな。あ、せっかくだから初詣をやっておくか。次回、第30話「新年の抱負」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.95
プロチームのキャンプ、野球以外だとどこでやるんですかね? サッカーは野球と近いとは聞いたことありますが、バレーやバスケットはどうするんだろ。日本国内のみならず、NBA等の海外でも気になる話です。
あつあ通信vol.95、編者あつあつおでん