第26話「難しいものなど無い」
「テンサイさん、今回も1年生の試験担当なんですか?」
11月30日の月曜日。俺は部活の指導、ではなく試験問題を手掛けていた。日も暮れるのが随分早くなり、夕方5時半だってのに外がよく見えねえ。あまり遅くまで仕事するのは好かないが、仕方あるまい。
「ああ。なんでも、今教えている人が最も上手く作れるとからしい。まあ、雑用を代わりにやってもらってるから文句はねえさ」
俺はあくびをしながら答えた。既に大体できているが、どうにもはかどらない。やはり、意図的に簡単にするのは俺の性分じゃねえな。
「しかし、前回はかなり不評だったな。あれでもまだまだ手加減した部類なんだがな」
「……私が見てなかったら大変なことになってましたね」
「だろうな。まあ、どれもこれも教科書をベースにしているから、文句は言えまい」
俺は悪びれることなく言ってのけた。そう、あれは基本的な事項の羅列がメインだった。だから、生徒の怠慢は成績に直結する。にもかかわらず、なんでもかんでも責任転嫁する奴らの気が知れねえ。まあ、そういう育て方をされたのは同情に値するが。
「あれ、教科書ベースなんですか?」
「そりゃそうだ。異なった例題をくっつけて、一度に色々やらなきゃいけない問題を作っただけだからな。難しいことなんてこれっぽっちも無い」
「な、なるほど……」
俺の説明に、ナズナも何度かうなずく。俺はさらにたたみかけた。
「第一、生徒の実力を計るのが試験なんだろ? 生徒の実力に合わせたレベルにして意味があるとは思えねえ。だから、簡単にはしない。やってない奴は落ちてもらう。もちろん、やっても落ちる奴には救済手段を設けるがな」
「へえ、結構真面目ですね。意外と考えていて安心しましたよ」
「ふん、さすがに俺も鬼じゃないさ」
恥ずべきは、努力しようとしない者達だからな。ちゃんとやってる者達にはしかるべき手助けをするのは当然。俺はのびをすると、仕上げに取りかかるのであった。
「さて、試験やるぞ。無駄な抵抗はやめな」
「トホホ……今回こそおしまいでマス」
12月7日の月曜日。あれから1週間経ち、もう試験1日目だ。前回同様イスムカ達のクラスで監督をするわけだが……生徒に変わりはないようだな。ターリブンはじたばたし、それにイスムカが冷静な突っ込みを入れている。良いコンビだぜ。
「ターリブン、今回も勉強してないのか? 僕ですら昨日やってきたのに」
「そうは言っても、オイラは忙しかったでマス! 勉強しようとしたら、急に部屋が散らかってることに気付いたでマス。だから掃除したら、朝になってたんでマス」
「……つまり勉強しなかったんだろ?」
「うるさいでマス! ……こうなったらイスムカ君、頼むでマスよ」
「見せないぞ、僕は」
「……早くしろ。もう配るぞ」
さて、そろそろ時間だ。俺は懐中時計を教卓に置き、試験問題を配った。教室は瞬く間に静まり、秒針の音のみが変化を感じさせる。
「それでは今から50分、あがけるだけあがくことだ。それでは……始め!」
長針が指定の時間を指したので、俺は1回拍手をして試験開始を告げるのであった。さあ、お手並み拝見といこうか。
・次回予告
さて、今回の試験も散々な出来だったわけだが。特に難しい問題を出したつもりは無いものの、こいつは参ったぜ。次回、第27話「今年の疑問は今年のうちに」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.92
勉強しようとしたら掃除したくなる人、意外といるのでは? 私は専ら学校で勉強していたのでありませんでしたが。
では、今回も試験問題を載せておきますね。今回は幾分易しくなってるはず。
・2学期期末試験 数学
年 組 氏名
問1(30点):以下の問に答えよ。(各5点)
(1)サイコロを4回振って3回同じ目が出る確率
(2)「X≧1ならばX^2≧1」の対偶
(3)3辺の長さが5、6、7の三角形の面積
(4)コインを8回投げて表が出る回数の期待値
(5)中心角が90゚になる円周の円周角
(6)直径Rの球の体積
問2(10点):√3は無理数であることを証明せよ。
問3(15点):500円払ってサイコロを3回振り、その和が10以上なら1000円の賞金をもらい、9以下なら100円払うゲームをする。この時
(1)2回連続で賞金を獲得する確率を求めよ(5点)。
(2)このゲームを1回行う時の期待値を示せ。また、このゲームはプレイヤーにとって得になるか(10点)。
問4(15点):kを定数とする。自然数m.nに関する条件p.q.rを次のように定める。
・p:m>kまたはn>k
・q:mn>k^2
・r:mn>k
(1)次の[イ]に当てはまるのを.下の(イ)〜(ニ)のうちから一つ選べ(3点)。
pの否定p~は[ク]である。
(イ)m>kまたはn>k
(ロ)m>kかつn>k
(ハ)m≦kかつn≦k
(ニ)m≦kまたはn≦k
(2)次の[ホ]〜[ト]に当てはまるものを.下の(チ)〜(ル)のうちから一つずつ選べ。ただし.同じものを繰り返し選んでもよい(各4点)。
(i)k=1とする。pはqであるための[ホ]。
(ii)k=2とする。pはrであるための[へ]。pはqであるための[ト]。
(チ)必要十分条件である
(リ)必要条件であるが.十分条件でない
(ヌ)十分条件であるが.必要条件でない
(ル)必要条件でも十分条件でもない
問5(15点):円に内接する四角形ABCDがある。AB=3、BC=4、CD=4、AC=√37である。この時
(1)DAを求めよ(9点)
(2)△ABCと△ACDの面積比を求めよ(6点)
問6(15点):AB=1、BC=2、∠ABC=60°となる△ABCがある。サイコロを振り、1、2、3、4が出たらABを3伸ばし、5、6が出たらBCを4伸ばす。この時
(1)2回振ってAB=4、BC=6となる確率を求めよ(2点)
(2)(1)の時の△ABCの面積を求めよ(4点)
(3)2回振った時のCAの長さの期待値を求めよ(9点)
あつあ通信vol.92、編者あつあつおでん