第9話「挑戦! キキョウジム前編」
「な、何だと……もう一度言ってくれ」
「だから、俺は昨日ジムに挑戦して勝った。このバッジが目に入らぬか!」
「やめろ〜〜!」
坊主が早朝の修行を終えるころ、キキョウシティのポケモンセンターのロビーでダルマとゴロウは騒いでいた。泊まっている客はほとんどが朝食の最中であるにもかかわらずだ。
「なぜ……なぜゴロウが勝てたんだ?俺に負けたくせによ」
ダルマはコイキングのごとき目である一点を見ていた。その先には、ゴロウの手中にある翼の形のバッジにあった。
「決まってるじゃねえか、俺が強くなったからだ」
バッジの持ち主であるゴロウは、自信に満ちた顔で答えた。相棒のコラッタも声を出して笑いながら前歯を磨く。
「くそっ、こうしちゃいられねえ。俺は先にジムに行く。ゴロウも後から来いよ!」
ダルマはリュックを背負うと、ポケモンセンターを飛び出したのであった。
「広いなあ、このジムは。あんな場所でバトルするのか」
しばらくして、ダルマはキキョウジムの中にいた。見上げると首を痛めそうなほどに高い足場と、乗ってくれと言わんばかりのリフトが目立つ。
「これは、リフトに乗れということかな?」
ダルマは恐る恐るリフトの真ん中に来た。するとどこかのアトラクションのように急上昇し、止まった。所要時間は1秒以下にもかかわらず、どう見ても10メートルは上昇している。
「あー、びっくりした。けどこれでスタジアムに到着か」
震える足で何とか立ち上がったダルマは、辺りを見回してみた。フィールド自体はなんの変哲もないが、足場のある柱が何本か建っている。そして、ハカマを着た少年が1人。
「よう挑戦者、足の震えは収まったかい?」
「! あんたは誰だ?」
「俺はハヤト、キキョウジムのリーダーだ」
ハカマの少年、ハヤトはダルマの方へ近づいてきた。ダルマは思わず身構える。
「君の名前は?」
「俺?俺はダルマ、挑戦者だ」
「そうか。ではダルマとやら、早速始めよう。手持ちは何匹だ?」
「2匹」
「よし!ならこちらも2匹で勝負だ。覚悟は良いか?」
ハヤトはこう言うと、答えも聞かずにダルマから猛スピードで離れた。そして柱の根元付近で足を止め、ボールを放った。
「行け、ポッポ!」
ボールからはポッポが飛び出した。畑の土の色をした翼に、淡黄色の毛並みがなんとも美しい。
「どうやら後戻りは無理だな……なら、いくぜワニノコ!」
ダルマは帽子を少し上に向けると、ワニノコを繰り出した。戦いの始まりである。
「まずは砂かけだ!」
先手はハヤトのポッポだ。ポッポはそこら辺にある砂を巻き上げ、ワニノコにかけた。ワニノコは腕でそれらを防ぐ。だが、いくらか目に入ってしまった。
「隙あり、電光石火だ!」
ワニノコの動きが止まるやいなや、ポッポは急加速しながらワニノコに突撃した。ワニノコは避けられるはずもなく、ダルマの目の前まで飛ばされた。
「ワニノコ!」
「まだまだ、これからだ!」
ワニノコがまだ起き上がらないうちに、再びポッポが攻撃を仕掛けてきた。
「ワニノコ、真正面から来るぞ!水鉄砲だ!」
「何!?」
ワニノコは素早く起き上がると、水鉄砲を1発放った。ダルマの指示もあり、ワニノコに近づいていたポッポの右翼を貫いた。ポッポはよろめきながら着地した。
「よし、今のうちに砂を落とすんだ」
ワニノコは口から水を出すと、顔を手早く洗った。これでワニノコにかかった砂はあらかた落ちた。
「くっ、中々やるな、ダルマとやら」
「いやぁ、それほどでも……」
ダルマはハヤトの言葉に、無意識に頭を掻いた。ワニノコも頭を掻いた。
「だが、そう簡単には負けないさ。ポッポ、風起こしだっ!」
ポッポは再び飛び上がると、ワニノコに向けて大きく羽ばたきだした。
「ぐおっ、落ちるー!」
突然の大風に、ダルマはあたふたしながら近くの手すりにしがみついた。一方ワニノコは、その足でなんとか踏張っていた。
「これでトドメだ、体当たり!」
ポッポは一旦風起こしを止めると、またまたワニノコに近づいてきた。ずっと踏張っていたワニノコは、急に風が止み、前のめりになっている。
「ワニノコ、ひっかくで迎撃だ!」
ワニノコは態勢を立て直し、ポッポを迎え撃つ。ポッポはよりスピードを上げてワニノコと激突する。
「今だ!1発浴びせろ!」
両者の距離がわずか2メートルほどになった時、ワニノコは振り上げた腕をポッポ目がけて振り下ろした。対するポッポは体の右側に体重をかけてぶつかった。両者は2秒ほど拮抗していたが、最後にはポッポが山なりに吹き飛ばされた。
「やったぜ!」
1匹目を倒し、ダルマは拳を振り上げガッツポーズを取った。
「ぐう、ポッポがやられるとは。ならばピジョン、出番だ!」
ハヤトはポッポをボールに戻すと、すぐさま次のボールを投げつけた。着地地点は柱の上にある足場だ。出てきたポケモンは、ポッポの進化形であり、ポッポより一回り大きいピジョンである。
「さあ、柱の上にいるピジョンに攻撃を当てられるかな?」
「なんのこれくらい。ワニノコ、登るぞ!」
このままでは技が当たらないと判断したダルマは、ワニノコに柱を登るよい指示した。柱はせいぜい若木の幹くらいの太さなので、ワニノコでも登るのは容易い。ワニノコはどんどん柱を登っていく。
「甘いな、泥かけだ!」
ここでピジョンが動いた。そこら辺から泥をかき集め、ワニノコの頭に落としだした。砂より重い泥がどんどん降り掛かり、ワニノコはずり落ちていった。
「畜生、これじゃ登れないぞ」
「まだまだ、フェザーダンス!」
ピジョンの攻撃は止まらない。ワニノコが泥に手間取る隙にワニノコの頭上に飛び降り、綿毛のような羽毛をばらまいた。これによりワニノコは急に動きが鈍った。
「くそっ、なんだこれは!」
「見てのとおり、羽毛だ。敵の動きを鈍らせ、攻撃を大幅に下げる力がある」
思わぬ足かせを受け、先ほどの余裕はどこへやら、ダルマは拳を握りしめた。
「そろそろトドメだ、翼で打つ攻撃!」
ここでピジョンは飛行速度を大きく上げた。空気を唸らせるほどの勢いでワニノコに近づき、自慢の翼を広げた。
「そう簡単にやられるか。ワニノコ、水鉄砲!」
近づいてくるピジョンに一矢報おうと、ワニノコは水鉄砲を撃ち放った。しかし、勢いのあるピジョンの前では大したダメージにならず、霞と消えた。そして、ピジョンの翼はワニノコの腹に叩きつけられた。
「ワニノコ!」
ワニノコは一直線に飛ばされ、フィールド上の柱に激突した。
「……どうやら、これでイーブンみたいだね」
ダルマはハヤトの言葉に返事もせず、力なくワニノコをボールに戻した。
「さあ、次は何を使うんだい?」
「……次はこいつだっ!」
ダルマは2つ目のボールを掴むと、柱の根元に向けて投げつけた。ボールは見事狙いの場所に届き、ポケモンを出した。
「出番だ、ビードル!」