第85話「ポケモンリーグ決勝戦」
「ポケモンリーグ、今日は15日目、時刻は午後8時。いよいよこの時がやってまいりました。先程行われた3位決定戦も中々の盛り上がりを見せました。しかし、ここにいる観客、テレビの視聴者が見たいのは! 今から行われる決勝戦だ! 笑っても泣いてもこれが最後。だからこそ、笑顔で迎え入れよう! それでは、選手入場!」
「……いくぜ。俺とポケモン達、最後の勝負だ!」
ダルマは力強くスタジアムに乗り込んだ。雲1つない夜空、瞬く星々、スタジアムを照らすライト……全てが彼のために用意されたような気さえ起させる。
「久しぶりだなダルマ! 最後はお前と勝負か」
「ゴロウ! まさかお前が決勝戦の相手なのか?」
ダルマはトーナメント表と対戦相手を見比べ、目を丸くした。表に書かれていた256人の名前は殆ど消されてしまっている。残るは、ダルマとゴロウ、この2人のみである。決勝戦の相手は、ダルマが初めて戦ったゴロウだったのだ。
ダルマはふと、スクリーンに注目した。映っているのは手持ちの数である。ダルマが6匹なのに対し、ゴロウは1匹しか表示されていない。
「な、なんで1匹しか表示されてないんだ……?」
「それはもちろん、俺が1匹しか持ってねえからだ」
「1匹……はっ、もしかして?」
「その通りだ。俺はポケモンをゲットするのが壊滅的に下手だからな、割り切って1匹で戦っていたんだよ。まあ、キョウのおっさんに相当鍛えてもらったから1匹でも全然大丈夫だけどな!」
「……そうか、なら良い。じゃあそろそろ始めようぜ、これが最後だ」
「おう。あの時の悔しさ、今こそ晴らしてみせる!」
ゴロウの目に炎が宿った。戦いの開始を告げる合図である。ダルマは1匹目のボールを手に取った。
「これより、ポケモンリーグ決勝戦を始めます。対戦者はダルマ、ゴロウ。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」
「ブースター、まずはお前だ!」
「いくぞラッタ!」
2人はほぼ同時にボールを投げた。出てきたのはラッタとブースターである。ラッタには、体中に傷が入っている。
ダルマは図鑑を開いた。ラッタはコラッタの進化形で、並以上の素早さを武器とする。全体的に能力が低いものの、特性や技の威力でそれらを補う。技の範囲は狭いが、全く駄目ということもない。単に鋼タイプを出せば止まるわけではないので、注意が必要だ。
「ダルマ選手はブースター、ゴロウ選手はラッタからです。ゴロウ選手はラッタがやられた瞬間負けとなりますが……な、あれはなんでしょう!」
「う、どうなってるんだ!」
ダルマはスクリーンの表示に腰を抜かした。ブースターのレベルは50と示されている。他方、ラッタのレベルは上限の100となっていたのである。ブースターは、そんなラッタの威圧感に委縮してしまっている。
「れ、レベル100なんて……どの対戦相手も50程度だったのを考えると、とんでもないな。けどそれがなんだって言うんだ。ブースター、手始めに馬鹿力だ!」
「俺のバトルに手始めなんてねえぞ! 不意打ちだ!」
ブースターが動き出した途端、ラッタの姿が消えた。すると次の瞬間、ラッタがブースターの背後に現れ、ブースターを殴った。一見普通の攻撃のようだが、ブースターは為す術なく崩れ落ちた。
「ブースター戦闘不能、ラッタの勝ち!」
ダルマは思わず唸ってしまった。対するゴロウは完全に勝ち誇った様子である。
「ブースター! くそー、こりゃかなり厄介だな。……あ、あれ?」
ダルマはラッタの異変を察知した。体中を炎が包んだかと思えば、ラッタは火傷状態になってしまったではないか。
「ラッタ、火炎玉で自ら火傷になりました。これはまさか……」
「根性か!」
「その通り。1発耐えてどうにかできるなんて思うんじゃないぞ!」
「へ、へへ。1発耐えるくらい簡単さ、頼むぞスピアー!」
ダルマはブースターと入れ替わりにスピアーを繰り出した。例のように、右腕にタスキを結んでいる。
「きあいのタスキか。んなもんで俺達は止まらねえよ、みだれひっかき!」
ラッタは一気にスピアーに接近、自慢の爪でやたらめったらに引っかいた。火傷をしているとは思えないキレである。なんと2回目の攻撃でスピアーを切り捨ててしまった。ラッタはそのままゴロウの元に戻る。
「スピアー戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「な、なんだとおおお! みだれひっかきなんて反則だろ」
「んなことねえよ。相手の意表を突くのは立派な戦略だ」
「う、反論できない……」
ゴロウの言葉に、ダルマは唇を震わせながら地面を踏みつけた。彼はしばし首を捻ると、苦渋の色を浮かべた。
「ええい、こうなったら持久戦だ。キマワリ!」
ダルマはスピアーとキマワリを交代した。今日もこだわりメガネを装備している。こうして見てみると、どこか別世界の敵と似てなくもない。
「無駄無駄無駄無駄ぁっ、かえんぐるまだ!」
ラッタは攻め手にこと欠かない。自らに着火し、キマワリに高速で突っ込んできた。これを食らったキマワリは瞬く間に火だるまとなり、炭を通り越して灰となってしまった。
「キマワリ戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「やはり耐えないか。けど徐々に体力が削れてきたな。よし、次はキュウコンだ!」
ダルマはためらわずにキュウコンを投入した。日差しが一気に強くなる。ここまで敵なしのラッタは徐々に火傷のダメージが蓄積しているのか、やや呼吸が荒くなっている。
「おらおら、今度はからげんき!」
ラッタの快進撃は止まらない。キュウコンの懐へ駆け、無理に暴れまくったのである。歴戦のキュウコンでさえ話にならず、たまらず気絶した。
「キュウコン戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「まだまだ、カモネギ!」
ダルマはすぐさまキュウコンを退かせ、カモネギを送り出した。準決勝と同じく、二刀流で立ち向かう。
「何匹来ても同じこと、からげんきだ!」
ラッタの前に茎ではあまりに脆い。ラッタは再度からげんき攻撃を行い、2本の茎でガードしていたカモネギを吹き飛ばした。耐久力のないカモネギは、確認するまでもなく瀕死である。
「カモネギ戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「なんという戦力差でしょうか。ダルマ選手、あっという間に1対1に持ち込まれました。この絶体絶命のピンチをしのげるのでしょうか」
「……あー、ここが勝負所だな。時間稼ぎをしてくれた皆のためにも、これは負けられない。出番だ、オーダイル!」
ダルマは努めて冷静に最後の1匹、オーダイルに全てを託した。迎え撃つラッタは既に火傷のダメージが馬鹿にできないものになっている。息は切れ切れで、持ってあと数ターンと言ったところだ。
「へっ、最後は最初と同じ相手か。今の俺達は違う、不意打ちだ!」
最後の対決、先に動いたのはラッタだ。ラッタはまたしても姿を隠してオーダイルの背後を取り、正拳突きをかました。オーダイルは苦痛に顔を歪ませながら、辛うじて耐えてみせた。一方的な展開で沈黙していたスタジアムが、一気に盛り上がる。
「よし、計画通り。アクアテールを食らえ!」
オーダイルは背後のラッタに尻尾を叩きつけた。虚を突かれた1発により、ラッタの体は宙を舞う。
「とどめだ、アクアジェット!」
すかさずオーダイルは全身に水をまとい、激流の如き砲弾となって追撃した。これを受けたラッタは体勢を崩したまま着地し、それを見たダルマは安堵の表情を浮かべた。スタジアムは再び静まり返り、ジャッジを待つ。
ところが、予想外の事態が発生した。なんとラッタが起き上がったのである。スタジアムのあちこちに、悲鳴にも似た叫びがこだまする。もちろん、ダルマの顔も凍りついた。
「……お前は最高の相棒だぜ、ラッタ。終わりにするぞ、からげんき!」
「うおおおおおおおおおお!」
ラッタは最後の力を振り絞り、からげんきを叩き込む。ほうほうの体であるオーダイルにはこれを避けることなどできず、地響きを立てながら倒れた。そして、審判の声が全てに幕を下ろすのであった。
「オーダイル戦闘不能、ラッタの勝ち! よって決勝戦、勝者はゴロウ選手!」
・あつあ通信vol.66
ダメージ計算は6V、ラッタ@火炎玉陽気攻撃素早振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り、キュウコン臆病特攻素早振り、カモネギ@長ネギ陽気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り。レベルはラッタが100、その他が50。ブースターへの通常不意打ちを皮切りに、キマワリは火炎車で、スピアーは根性乱れひっかき2発目で、キュウコンは根性空元気で、カモネギも根性空元気で確定1発。オーダイルは根性不意打ちをギリギリ耐えた後激流アクアテールとアクアジェットを255/256の確率で耐えられ、根性空元気で万事休す。ダメージ乱数の選び方がBWで変わってなければ255/256以上の確率で耐えます。まあ、日照り状態の時点で完璧に耐えられてしまうのですが。
あつあ通信vol.66、編者あつあつおでん