第84話「ポケモンリーグ準決勝第1試合後編」
「な、なんだ一体……辺りの様子がおかしいぞ」
ダルマは辺りを見回した。ガラガラが自らの腹部を叩いた途端、雲もないのに雷があちこちに降り注ぎ、大地が唸りだしたのである。ガラガラからは蒸気があふれ、目を光らせ、体が震えている。それを見たカラシは、腹を抱えて笑った。
「ふふふ……はははははは! はらだいこが決まった。もうお前に勝ち目はないぜ、ダルマ!」
「どういうことだ!」
「まあ、そう慌てるなよ。図鑑で調べてみたらどうだ?」
カラシに促され、ダルマは図鑑をチェックした。はらだいこは、自分の体力の最大値の半分を消費してパワー全開になる技である。例えどれだけ攻撃を下げられても、必ずパワー全開となる。一昔前は非常に強力な技であったが、今ではすっかり見向きもされない。理由としては、ポケモンの耐久力低下によって素の状態でもダメージが大きくなったことが1つ。また、リスクなしで強力な補助技が増えたのも大きい。しかし、中には先制技と組み合わせると言ったポケモンもいるので、油断はできない。
「パワー全開、か。でも体力が減ったから帰って倒しやすいな。キュウコン、大文字だ!」
「ふっ、骨ブーメラン」
キュウコンが再び大文字を放つ。それと同時にガラガラは骨を投げるポーズを取った。だが骨は手に収まったままである。ところがその瞬間、どこかから何かがぶつかる音が2回聞こえてきた。音の1つは破裂音、もう1つは鈍い音である。周囲が騒然とする中、今度は何かが倒れる音が響いた。一同が目を向けると、そこには気絶したキュウコンがいた。審判は慌ててジャッジする。
「きゅ、キュウコン戦闘不能、ガラガラの勝ち!」
「ななな、なんということでしょう……。ガラガラ、攻撃してないように見えましたが、実は既に攻撃が終わっていた! つまり、手元にあったのは残像でしょうか。これがカラシ選手の切り札、隠し玉……ダルマ選手、激しく動揺しております」
実況が言うまでもなく、ダルマは開いた口がふさがらない状態だった。それでもなんとか言葉を絞り出す。
「くっ。あの音、最初の1回で大文字を打ち破り、もう1回でキュウコンを攻撃したのか。たった1回なのになんてパワーだ……」
「わかったか、最強は俺だということが」
「わ、わからないね! 頼むぞキマワリ!」
ダルマは強がりながらキマワリを投入した。今日もこだわりメガネをかけている。そして焦げている。
「素直に降参すれば良いものを。骨ブーメランだ」
ガラガラはまたしても腕を振った。やはり骨は手元に残っているように見える。だが、またしても鈍い音が響いた。先ほどと同じく、そこには伸びているキマワリの姿があった。
「キマワリ戦闘不能、ガラガラの勝ち!」
「キマワリ! 半減しても1回で倒されちまっただと……」
ダルマは力なくキマワリをボールに戻した。彼は何度も深呼吸をし、辛うじて冷静さを保っていた。
「ようやくわかったか、俺の力が。さて、最後はネギを背負ったカモだったな。せめてもの情けだ、一瞬でかたをつけてやる。そして、決勝に進ませてもらう」
「……カモネギ、今こそお前に全てを託す!」
ダルマは最後のボールを全力で投げた。出てきたのはカモネギ。カモネギは出てきて早々ガラガラに襲いかかるが、その圧倒的な力で押し返された。
「ダルマ選手、最後にカモネギを送り出しましたが……なんと、二刀流です!」
実況は思わず叫んだ。カモネギの右手にはいつもの茎がある。一方、普段手ぶらの左手には、いつもの茎より一回り長い茎があった。カモネギの闘志を確認したダルマは、カラシを指さしこう言い放った。
「カラシ、敗れたり! 終わっていない勝負で後のことを考えるなど、負けたも同然! これで終わりだ、リーフブレード!」
「笑止! つばめがえしで返り討ちだ!」
カモネギとガラガラは全速力で接近し、互いに剣を構えた。そして、そのまますれ違いざまに斬りつけ合い、駆け抜ける。やがて2匹の足は止まり、背中を向け合った構図となった。どちらが先に倒れるか……全ての視線が2匹に集まる。
「どうだ……」
ダルマは両手を合わせて目を閉じた。時間はこれでもかと言う程ゆっくり過ぎていく。カモネギとガラガラは石のように微動だにしない。ダルマとカラシは固唾を呑んで見守り、そして祈る。
その時、遂にカモネギがふらついてきた。スタジアムは一気にどよめく。カモネギは2本の茎で体を支えた。歯を食いしばり、額から脂汗を噴出するその姿に、一部からすすり泣きが聞こえてくる。
「……ふん、これで俺の……な、何!」
カラシが勝利を確信した、まさに最後の瞬間。1匹のポケモンが地に伏せた。ダルマは恐る恐る目を開き、結末を確かめた。ダルマの近くにいるポケモン、すなわちガラガラが倒れている。
「……が、ガラガラ戦闘不能、カモネギの勝ち! よって準決勝第1試合、勝者はダルマ選手!」
審判の声が放たれると、スタジアム中から拍手喝采と叫び声が湧き上がってきた。ある者は勝者を称え、ある者は敗者にねぎらいの言葉をかける。涙で顔がくしゃくしゃになった者もいる。全ての者が揺さぶられる戦い……ダルマとカラシはそれを体現してみせたのだ。
「な、なんという最後だったのでしょうか。スタジアムは静まり返り、実況の私も思わず仕事を忘れてしまいました。これは文句なしで今大会最高のバトルです!」
「ふううううぅ、終わったかあ。勝てて良かった、本当に良かった!」
ダルマは腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。彼はカモネギをすぐさま回収し、カラシに話しかけた。
「どうだカラシ、あの時勝ったのはまぐれじゃなかったのがわかっただろ?」
「……ああ、俺の負けだ。だが、不思議と悔しさはない。おそらく、本気で戦って負けたからだろうな」
カラシはガラガラをボールに収めながら呟いた。これを受け、ダルマは頭をかきむしる。
「へへ、そう言われると悪い気はしないな。まあ、お前と勝負して負けたからこそ、ここまで来れたと思う。ありがとう」
「……ふん。その言葉、今回はそっくりそのままもらっておこう。だが次こそは俺が勝つ! せいぜい首を洗って待ってることだ」
「望むところだ!」
ダルマとカラシ、2人は再戦を約束した。するともう1度スタジアムからスタンディングオベーションの嵐が起こる。
「さて、そろそろ故郷に帰らせてもらうぜ。たまには家に顔を出さないとな」
カラシはそう言い残すと、ボルテージが最高潮の中出口へと歩き出した。そんな彼に、ダルマはこの言葉を送るのであった。
「か、カラシ! まだ3位決定戦が残っているぞ!」
・次回予告
泣いても笑っても、今度こそ最後の勝負。それはすなわち、ダルマの旅の終わりをも意味する。苦しいことも楽しいこともあったこの旅に、彼は有終の美を飾れるのか。次回、第85話「ポケモンリーグ決勝戦」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.65
ガラガラとカモネギの戦い……遂に実現しました。まるで宮本武蔵と佐々木小次郎ですね。持ち物とか技とかも意識してみました。しかし素早さ無視をしてしまい、ゲームに忠実なバトルが破綻。2連続で当たらなかったと考えれば良いのでしょうが、いささか違和感が残ってしまう。バトルの難しい点です。
ダメージ計算は、レベル50、6V、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り、カモネギ@長ネギ陽気攻撃素早振り。キュウコンに対して腹太鼓ガラガラの骨ブーメランが、1発目で626〜738、2発食らうと1252〜1476もの規格外のダメージ。これなんてマダンテ? キマワリは半減にもかかわらず、1発目で198〜233、2発食らうと396〜466で確定1発(キマワリのHPは150)。最後のカモネギのリーフブレードは体力半減ガラガラを中乱数で仕留めます。
さて、次はいよいよ決勝戦。ポケモンリーグの優勝者は、その後の結末は。そもそも相手は誰なんだ。私も全力を尽くしますので、どうか最後までお付き合いください。
あつあ通信vol.65、編者あつあつおでん