第83話「ポケモンリーグ準決勝第1試合中編」
「ダルマ選手、ブースターを連れ出しました。晴れ下での決定力に定評がありますが、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか」
ダルマが次に繰り出したのはブースターだ。ブースターは体中から熱気を放ち、辺りの空気が揺らぐ。
「そんな鈍い奴にはこれがお似合いだな、あやしいひかり!」
勝負が再び動き始めた。まずクロバットがブースターに刺すような光を浴びせた。すると、ブースターの足元がふらついてくる。これに気付いたダルマは、腹から声を出した。
「ぐっ。負けるなブースター、ほのおのキバだ!」
ダルマの叫びが通じたのか、ブースターはなんとかクロバットに飛びついた。そして自慢の牙を熱し、クロバットの翼の付け根に噛みつく。クロバットは苦悶の表情を浮かべるが、手がないのでブースターを引き剥がすことができない。故に、クロバットはブースターの攻撃で力尽きた。
「クロバット戦闘不能、ブースターの勝ち!」
「ふう、危なかったー」
ダルマは額の汗を拭った。安堵の表情を浮かべている。一方カラシはやや眉を釣り上げた。
「ちっ、悪運の強い男だ。キリンリキ、いくぜ」
カラシは入れ替わりでキリンリキを送り出した。今日2回目の登場である。
「こうそくいどうだ」
「仕留めろ、オーバーヒート!」
先程のように、キリンリキは周囲を駆け回った。そんなキリンリキに狙いを定め、ブースターは全身から熱波を放出。晴れも相まってスタジアムの地面が焦げつく程だ。キリンリキはこれをもろに受けたが、まだ動ける様子である。
「まだ倒れないのか。ならば電光石火だ!」
「甘い、バトンタッチ」
ブースターは急加速してキリンリキに体当たりした。ところが、キリンリキは体を震わせながらも耐えきってしまったではないか。すかさずキリンリキは退場、控えのポケモンと入れ替わる。出てきたのはカイリキー、前回と同じく毒々玉を手にしている。
「カラシ選手、カイリキーにバトンタッチです。いきなり猛毒を浴びましたが大丈夫でしょうか」
「カイリキー、インファイトだ」
カイリキーは有無を言わせずブースターの懐に接近。そこから4本の腕で滅多打ちをした。さすがの攻撃力に、ブースターはたまらず気絶した。
「ブースター戦闘不能、カイリキーの勝ち!」
「う、うぐおおお! かなり厄介なことになってきたな。だけど、こいつがいれば逆転できる。スピアー、頼むぞ!」
ダルマは目をぎらつかせながらスピアーを投入した。今日の試合も、気合いのタスキを持つのはこのスピアーである。
「無駄無駄、ほのおのパンチ!」
「なんの、おいかぜだ!」
先手はやはりカイリキーだ。カイリキーは腕を燃やし、スピアーの腹部に叩きつけた。スピアーはタスキでこらえ、おいかぜを呼び込む。スタジアムに熱を帯びた風が流れてきた。
「そのままがむしゃ……」
「遅い、バレットパンチ」
スピアーが動くよりも先に、カイリキーは弾丸のように飛びとどめのパンチをヒットさせた。スピアーは紙切れの如く地面に落下する。
「スピアー戦闘不能、カイリキーの勝ち!」
「へっ、俺の勝ちが見えてきたな。3対3ならこちらが有利、一気にいかせてもらうぜ」
カラシは左うちわの様子で不敵な笑みを浮かべた。ダルマはと言うと、こちらはふてぶてしく鼻で笑っている。2人の笑い声がスタジアムに染み入る。
「……今までこんな状況が幾度もあった。いつ負けてもおかしくないシチュエーション。けど、今はピンチじゃない。むしろ俺は今チャンスのまっただ中にいる。もう舞台は整ったからな、出番だキュウコン!」
ダルマは胸を張ってキュウコンを再登場させた。キュウコンは出てきて早々に行動に移る。
「大文字だ!」
キュウコンは大の字の炎を撃った。それはちょうどカイリキーの手足にぴったり命中し、丸焼けにしてしまった。カイリキーは、火が消えると同時に崩れ落ちる。
「カイリキー戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「なんだと……どういうことだ!」
カラシは拳を握り締め、歯ぎしりをした。地面を踏みつけてもいる。ダルマは勝ち誇った顔でこう断言した。
「どういうことって、最初から俺のチャンスだったんだよ。おいかぜが決まった時点でね」
「ふん、口だけは達者みたいだな。キリンリキ!」
カラシはさらに目を釣り上げ、キリンリキを引っ張り出した。ブースターの与えたダメージのせいか、足に力が入っていないように見受けられる。
「キリンリキはもう虫の息、大文字だ!」
キュウコンは三度大文字を発射した。キリンリキに避ける力は残っておらず、直撃。キリンリキの姿焼きの完成である。
「キリンリキ戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「よっしゃ、あと1匹!」
ダルマは思わずガッツポーズを取った。おいかぜは止んだが、彼が圧倒的優位なことに変わりはない。この状況で、カラシは最後のボールをじっと見つめる。
「……遂にこれを使う時が来たか。俺を勝利に導く最後のチャンス、必ず掴んでみせる。ガラガラ!」
ちょっと間を置いて身を正し、澄ました顔をしながら、カラシはガラガラに全てを託した。これが彼の最後のポケモンである。
「カラシ選手、いよいよ最後のポケモンです。数々の強敵を蹴散らした力を持ちますすが、この1対3という状況を覆せるのでしょうか」
「……ここが勝負所、全てに決着をつけよう。キュウコン、大文字で終わりだ!」
「……甘いぜ」
キュウコンは渾身の力で大文字を使った。業火はガラガラに迫り、カラシは万事休すと観客の誰もが息を呑んだ。
ところが、である。ガラガラがひとたび骨を投げつけると、大文字を打ち破ってしまったではないか。溶けんばかりに熱せられた骨が戻ってくると、ガラガラは予想外の動きを見せるのであった。
「ガラガラ、はらだいこだ!」
・次回予告
ガラガラが使った技により、バトルの状況は一変。ダルマは一気に窮地へ追い込まれてしまった。果たしてこのピンチを切り抜けることができるのか。次回、第84話「ポケモンリーグ準決勝第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.64
いきなりですがお知らせです。この作品がもうすぐ完結するのは皆さんおわかりだと思います。そこで、たまにはこんなのがあっても良いかなあと考え、以下のような募集をします。
・【募集】質問、お便り
・【期間】最終話を投稿するまで
・【内容】ストーリーのこと、誤字脱字及び技の誤用の報告、作品執筆の過程など、常識の範囲内なら可
・【採用したら】後に投稿する総括にて回答
・【備考】紙面が最大5000字です。質問数によっては全て答えられない可能性があります。また、質問がなくても総括は投稿します。
以上。お時間があれば書いてやってください。
ちなみに、本文の「ちょっと間を置いて身を正し、澄ました顔をしながら」は、某プロ野球監督が発言した「すごいな、カープ。どうやったんだ?」の記事を引用しました。あの監督は前任に比べ散々だけど、ネタ発言はしっかりしてくれる。
ダメージ計算は、レベル50、6V、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、カイリキー@毒々玉意地っ張り攻撃素早振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り。ブースターの炎の牙で手負いのクロバットを確定で倒せます。ブースターのオーバーヒートと電光石火をキリンリキは高乱数で耐え、ブースターはカイリキーの根性インファイトで一撃。スピアーはタスキ込みでカイリキーの炎のパンチを耐えます。キュウコンの大文字なら毒々玉込みで倒せます。もちろん後続のキリンリキも1発。なお、ガラガラが骨ブーメランで大文字を打ち破ったのは、「ゲームにおける技が外れる」を表現したものです。
あつあ通信vol.64、編者あつあつおでん