第81話「ポケモンリーグ6回戦第1試合後編」
「ゆけ、ブースター!」
ダルマはキュウコンとブースターを交代した。もふもふの体が砂嵐の中でも目立つ。
「ダルマ選手、次のポケモンはブースターです。このポケモンも大事な場面でさりげない活躍を見せています。今回はバンギラス相手にどう立ち回るのでしょうか」
「ブースターですか、進化させたのですね」
ユミは図鑑を開いた。ブースターはイーブイの進化形で、俗に唯一王と呼ばれる。非常に高い攻撃を持つものの、使える物理技が貧弱なことがその由来だ。しかも鈍速低耐久故に動く前にやられることもままある。だが活躍できないわけではない。
「一気に決めるぞ、馬鹿力!」
ブースターは機先を制した。素早くバンギラスの頭上に飛び上がり、4本の足で踏みつける。バンギラスは地面にめり込み、たまらず気絶した。
「バンギラス戦闘不能、ブースターの勝ち!」
「そんな、バンギラスが1発で倒されるなんて……」
「へへ、ブースターの攻撃を舐めちゃいけないよ。まあ、馬鹿力はデメリットもあるから連発できないけどね」
「……油断しましたわ。しかしまだまだ勝負はこれからです、ヌオー!」
ユミはバンギラスをボールに戻し、ヌオーを繰り出した。相変わらず点のような目が人々を和ませる。もっとも、ダルマにはそのような余裕は見受けられないが。
「ユミ選手、後続はヌオーです。その耐久から安定した威力のカウンターで、幾多のピンチを切り抜けてきました。ここではどのように動くか」
「ヌオー、地震攻撃です!」
「危ない、戻れブースター、キマワリ!」
ダルマはブースターを回収し、キマワリと入れ替えた。キマワリは出てきて早々地震の衝撃と砂嵐を食らうも、まだまだ元気だ。
「ダルマ選手、キマワリに交代です。ポケモンリーグではその超火力でここまで無敗、先程もガブリアスをあと1歩まで追い詰めました。既にユミ選手の光の壁は消滅、大活躍が期待できます」
「キマワリはちょっと不利ですね。戻ってヌオー、メガニウム!」
「隙あり、にほんばれだ!」
ここで勝負が大きく動いた。まず、ユミはヌオーからメガニウムにチェンジ。一方キマワリは両手の葉っぱを天に伸ばす。すると砂嵐は収まり、かんかん照りになった。そしてキマワリの体中から煙が立ってきた。
「日差しが強くなりましたね。しかし、これなら何も問題ないですよ、ひかりのかべ!」
「チャンスだ、アンコール!」
メガニウムが再びひかりのかべを使った直後。キマワリは葉っぱで拍手をし、アンコールを促した。メガニウムは照れ笑いをしながらそれに応じる。
「アンコールが決まったあ! ダルマ選手、大きな好機を手にしました」
「くっ、仕方ありません。戻ってメガニウム。ヌオー、お願いします!」
「よし。いくぞ、ソーラービーム!」
ユミは苦渋の1手を打たざるを得なかった。メガニウムを引っ込め、ヌオーを再登場させたのである。他方、キマワリはお得意の光の束を集め、丸太のような太さの光線を発射した。ひかりのかべで幾分削がれたが、それでも十分な1発がヌオーを焼き尽くす。結果、ヌオーの丸焼きが完成した。
「ヌオー戦闘不能、キマワリの勝ち!」
「ふう、あと2匹か。だいぶ楽になってきた」
「……いけませんね、そろそろ本気を出さなければ。エーフィ、叩き潰してやりな!」
ユミは次のポケモンを送り出した。出てきたのはエーフィである。スタジアムは急にざわめいてきた。実況も戸惑い気味だ。
「ユミ選手、5匹目はエーフィです。これで全てのポケモンを使いましたが……何かが変です。まるで別人のような……」
「つ、遂に豹変したか」
ダルマは冷や汗を流しながら図鑑をチェックした。エーフィはイーブイの進化形で、高い特攻と素早さを備える。どこかのもふもふより遥かに使いやすいが、攻撃するだけではフーディンに劣る。そのため、補助技を絡めて戦うのが人気である。
ダルマは豹変したユミをまじまじと見つめた。出会った時から変わらぬ美貌だが、恐怖を感じさせるのが今の彼女である。しかし彼は物怖じすることなく叫んだ。
「……どんなに変わっても、彼女が俺のライバルであることに疑問の余地はない。だからびびらない。何があっても俺は退かない。かかってこい、ユミ!」
「はっ、寝言は寝て言いな、サイコキネシス!」
バトルが再開された。キマワリが動こうとする前に、エーフィはサイコキネシスでキマワリをきつく絞る。ダメージの蓄積していたキマワリはここで倒れた。
「キマワリ戦闘不能、エーフィの勝ち!」
「キマワリ、6回戦で遂に土がつきました! 勢いのついたユミ選手を、ダルマ選手は止められるのか?」
「くっそー、さすがにやるな。ブースター、かたをつけるぞ!」
ダルマはキマワリをボールに収め、ブースターを投入した。エーフィの攻めは緩むことなく、交代際から攻撃が飛んでくる。
「雑魚はすっこんでな、サイコキネシス!」
「あくびで眠らせろ!」
ブースターはエーフィに雑巾のように扱われる中、なんとかあくびを使った。ところが、なんとブースターが舟を漕ぎだしたではないか。これにはダルマも驚きを隠し得ない。
「な、なんだ……ブースターがうとうとしているじゃないか!」
「ふん、何勘違いしてんだい。アタイのエーフィの特性はマジックミラー……そんなちゃちな技なんざ効かないのさ! サイコキネシス!」
エーフィはブースターを何度も地面に叩きつけた。このたたみかける攻撃に、ブースターはぼろきれのようになってしまった。
「ブースター戦闘不能、エーフィの勝ち!」
「まずいな、追いつかれてきた。頼む、スピアー!」
ダルマはブースターとスピアーをバトンタッチさせた。スピアーにはきあいのタスキが巻いてある。
「無駄無駄無駄無駄、サイコキネシス!」
「おいかぜだ!」
エーフィは思考を停止したかのようにサイコキネシス1本で攻める。スピアーはタスキでこれをしのぎ、おいかぜを辺りに吹かせた。スピアーの動きがにわかに俊敏になる。
「今だ、シザークロス!」
おいかぜに乗ったスピアーはエーフィに接近、自慢の針で切りつけた。効果は抜群、無双状態のエーフィを見事に止めた。
「エーフィ戦闘不能、スピアーの勝ち!」
「はあはあ……あと1匹、メガニウムだけか」
「ちっ、いけすかないね。メガニウム、出番だよ!」
ユミは唇を噛みながら最後のポケモン、メガニウムを呼び出した。
「ユミ選手、最後に残ったのはメガニウム。ダルマ選手は3匹と、大きくリードしています」
「シザークロスだ!」
「甘いね、ギガドレイン!」
スピアーはさっきと同じくメガニウムを切り裂く。その時、メガニウムはスピアーの針を通じて養分を吸い取った。ほうほうの体だったスピアーは、しなびたキノコのように崩れ落ちる。
「スピアー戦闘不能、メガニウムの勝ち!」
「や、ヤバい。あと2匹しかいないぞ。けどおいかぜがあるから大丈夫、オーダイル!」
ダルマはボールを強く握り締めると、切り札オーダイルを降臨させた。すかさず彼は指示を送る。
「これで最後だ、冷凍パンチ!」
オーダイルは右腕に冷気を込め、メガニウムを殴りつけた。これが決定打となり、メガニウムは地響きをあげて倒れこんだ。
「……メガニウム戦闘不能、オーダイルの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」
「よっしゃ、準決勝進出だ!」
勝利が決まったダルマは、思わず雄叫びをあげた。それを受け、テレビカメラが一斉にダルマに注目する。
「ダルマ選手、見事6回戦も勝利しました。残すところあと2試合、今大会のダークホースは優勝にまた1歩歩み寄りました」
実況と外野が大騒ぎする中、ユミがダルマに近寄ってきた。ダルマはふと身構える。
「ダルマ様、さすがでした!」
「ありがとう。あ、元に戻った?」
「はい。……ダルマ様、ありがとうございます。ダルマ様がライバルになってくれたおかげで、勝つためになりふり構わず戦えました。もうどんな自分だって受け入れられます」
「はは、そりゃ良かった。ん、でも試合前は目が泳いでいたような……?」
「そ、それは関係ありません! では私はこれで失礼します!」
ユミはさっとダルマに背を向け、そそくさとスタジアムを後にした。ダルマは首をかしげながらオーダイルに尋ねるのであった。
「なあオーダイル。俺、何か変なこと言ったかな?」
・次回予告
準決勝、ここまで残ったのはたった4人。その中にダルマはいるのだ。ここまで戦いぬいた彼に対抗するのは、あのトレーナーであった。次回、第82話「ポケモンリーグ準決勝第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.62
今日のポケモン紹介はダルマのオーダイルです。意地っ張りHP攻撃振り、技はアクアジェット、剣舞、何か、何か。作中で何度も戦ってますが、剣舞からの物理エースです。ギャラドスには使えない激流剣舞アクアジェットで並のポケモンをことごとく倒します。進化するまではかませ役も結構ありましたが、今ではキュウコン、キマワリに並ぶ主力に。種族値合計がパーティで1番なだけはある。ブースターもこれくらい活躍させたいです。
ダメージ計算は、レベル50、6V、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、エーフィ臆病特攻素早振り、スピアー陽気攻撃素早振り。ブースターの馬鹿力でバンギラスが確定1発。キマワリにヌオーの地震は確定4発、キマワリのサンパワーソーラービームは壁があってもヌオーを確定1発。エーフィのサイコキネシスでダメージ受けたキマワリが確定1発、ブースターが確定2発。スピアーの虫の知らせシザークロスでエーフィが確定1発、メガニウムには耐えられます。そしてオーダイルの冷凍パンチでメガニウムを倒せます。
あつあ通信vol.62、編者あつあつおでん