第74話「ポケモンリーグ3回戦第1試合」
「さあ、ポケモンリーグも5日目になりました。今日から3回戦が2日にわたり行われます。残るトレーナーは64人、4回戦に進める32人になるのは誰なのでしょうか。では3回戦第1試合、選手入場!」
「よし、今日も勝つぞー」
ダルマは足取り軽やかに入場した。だいぶ場慣れしてきたように見受けられる。
「3回戦はダルマ君か。悪いけど勝たせてもらうよ」
「ハンサムさん、勝ち残ってたんですか」
ダルマはトーナメント表と対戦相手をチェックした。彼の立ち位置の向こう側には、いつか見たよれよれのコートを着た痩身の男、ハンサムがたたずんでいる。ハンサムは朗らかに笑って受け答えした。
「そりゃ、がらん堂の調査を単独で任されていたくらいだからね。全国各地で捕まえたポケモンが私の味方さ」
「……そのわりに、誤認逮捕しようとしてましたが?」
「むう、それはそれだ。ではそろそろ始めよう」
ダルマの突っ込みに言葉が詰まったハンサムは、審判に試合の開始を促した。審判はいつも通り試合開始を宣言する。
「これより、ポケモンリーグ本選3回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、は、ハンサム。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「カモネギ、出番だ!」
「アバゴーラ、今日も頼むぞ」
ハンサム、ダルマ共に最初のポケモンを繰り出した。ハンサムはカメックスによく似たポケモン、ダルマはカモネギである。互いにレベルは50と表示された。
「ただ今試合が始まりました。ダルマ選手はカモネギ、ハンサム選手はアバゴーラ。アバゴーラはかなり珍しいポケモンですが、入手経路が気になります」
「アバゴーラ? 見たことないポケモンだな」
ダルマは図鑑を開いた。アバゴーラはふたの化石から復活したポケモンである。岩、水タイプでどの能力もそれなりにある。それ故何をやらせてもネタとは言えず、戦い方に幅がある。型の見極めが重要であろう。
「なるほど。じゃあまずはリーフブレードだ!」
「アバゴーラ、からをやぶる!」
バトルの幕が開けた。先手はカモネギだ。その植物の茎でアバゴーラの腹部を真っ二つにした。これをアバゴーラは耐え、体中に力を入れる。すると甲羅の表面がはがれ落ち、新しい甲羅が現れたではないか。ダルマは目を丸くした。
「うっそ、リーフブレード耐えられたぞ。それにあれは……脱皮か? いずれにせよ相手は虫の息、フェイントでとどめだ!」
「甘い、冷凍ビーム」
カモネギは右に動くふりして左に流れ、茎でアバゴーラを叩いた。しかしアバゴーラはびくともせず、返しの冷気を込めたビームで返り討ちにされた。
「カモネギ戦闘不能、アバゴーラの勝ち!」
「ふふ、これが私の力だ。君とてそう簡単には勝てまい」
「うぬぬ、予想外だった。ならば行くぞ、オーダイル!」
ダルマはカモネギを引っ込めると、オーダイルを場に出した。今やパーティを支える重要なポケモンとなったオーダイルは、3試合連続の登場である。
「ダルマ選手、2匹目はオーダイルです。今大会初の瀕死による交代となりました」
「これは先制技がくるな。アバゴーラ、アクアジェットだ」
「こっちもアクアジェット!」
アバゴーラとオーダイルはほぼ同時に水をまとい、そのまま突進。ぶつかり合う形となったが、ダメージの蓄積していたアバゴーラが力尽きた。オーダイルは顔色1つ変えずにダルマの前に戻る。
「アバゴーラ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「よし、これで2対2か」
「ふむ、これで場は整ったわけだ。ではそろそろ使うか、これが私の切り札だ!」
ハンサムは不敵な笑みを浮かべると、2匹目を投入した。出てきたのは、3本の指と1本の爪を備えた手が特徴的なポケモンである。指と爪は分かれており、用途別に使うのだろう。
「ハンサム選手、2匹目はドクロッグです。これまたカントーでは見かけないポケモンだ」
「ドクロッグ……タイプからしてわからない」
ダルマは図鑑を眺めた。ドクロッグは毒タイプと格闘タイプを兼ねるポケモンだ。多くのタイプに耐性を持つが、厄介なのは特性の乾燥肌である。なんと水無効なのだ。そのため立ち回りに気を付けねばならない。
「水が効かないか。仕方ない、戻れオーダイル。キュウコン、仕事だ!」
ダルマはオーダイルを戻し、キュウコンと交代した。スタジアムはみるみるうちに日本晴れとなっていく。
「おっと、キュウコンが登場した途端日差しが強くなりました!」
「読み通り。ドクロッグ、つるぎのまい」
ドクロッグはしてやったりと言った顔で万歳をした。おそらく戦いの舞いなのだろう。ダルマがクエスチョンマークを泳がせるのを見て、ハンサムは次の1手に出る。
「さらに不意討ちで仕留めるんだ!」
「やべっ。負けるな、大文字!」
キュウコンが攻撃しようとすると、ドクロッグは体から煙をあげながら懐に右腕をねじ込んできた。キュウコンは大きくのけぞるが、口から大の字の炎を放つ。キュウコンのすぐ近くにいたドクロッグはこれを直撃で受けた。ドクロッグは晴れと灼熱の炎の二重苦状態となり、たまらず地面をのたうち回る。そしてそのまま気絶した。
「ドクロッグ戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「やれやれ、なんとかなったか。最後の1匹が気になるけど、また他の地方のポケモンかな?」
「むむむ……遂にあと1匹か。仕方あるまい、意地を見せるぞロトム」
ハンサムはコートをたなびかせると最後のポケモンに全てを託した。現れたのは、ふわふわと浮いたポケモンである。小柄で明るい色なので、観客席からはほとんど見えてないと思われる。
「ハンサム選手、最後はロトムで勝負します。ダルマ選手は1歩リードです」
「最後までよく分からないポケモンばかりだなあ」
ダルマは図鑑に目を通す。ロトムは電気、ゴーストタイプのポケモンだ。しかし電化製品の中に入るとタイプがころころ変わる。現在は電気と草、水、炎、飛行、氷の組み合わせがある。また、特性の浮遊により電気タイプながら地面タイプに強い。
「ふっ、警察の底力をとくと見せてくれる。シャドーボール!」
「させるか、大文字で終わりだ!」
最後の戦いが始まった。ロトムは黒い塊を作り出し、キュウコン向けて発射しようとした。だが既に目の前にキュウコンの大文字が迫っている。キュウコンの方が1歩先に動いていたのだ。ロトムは避けようとするが間に合わない。結局、攻撃することなく業火に焼かれ、ロトムは倒れこんだ。ここで審判のジャッジが下る。
「……ロトム戦闘不能、キュウコンの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」
「ふうー、危ない危ない。これで次は4回戦か」
ダルマは額の汗を拭うと、キュウコンをボールに収めた。一方ハンサムはスタジアムに響く程の高笑いをする。
「……あっはっはっはっはっ、実に良い勝負だったよダルマ君。やはり君は有能だな、国際警察にスカウトしたいね」
「ありがとうございます。しかし俺はまだ……」
「わかってる、将来の目的が決まってないんだろう? だからゆっくり考えれば良いさ、人生に早い遅いなんてないからね」
ハンサムはロトムを回収すると、ダルマにこう告げた。実に満ち足りた表情である。
「さて、私はそろそろ職場に帰るよ。事件が私を待っている。君のことは同僚に自慢できるよ、『がらん堂を壊滅に追い込んだトレーナーと戦った』って。またどこかで会いたいものだ、もちろん事件抜きでね。……さらばだ!」
ハンサムはそう言い残すと、出口を向いた。彼は背後のダルマに手を振りながら、しかし決して後ろを見ずにポケモンリーグを後にするのであった。
・次回予告
3回戦も危なげなく突破し、4回戦へ駒を進めるダルマ。ここから試練の道が続くとは、まだ誰も知る由もなかった。次回、第75話「ポケモンリーグ4回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.55
ポケモンリーグの話を書いてる時、ふと「これロックマンのボスラッシュじゃね?」と思いました。
今回ハンサムはシンオウやイッシュのポケモンをバリバリ使いましたが、行ったことあるから使っても大丈夫ですよね?
ダメージ計算はレベル50、6V、カモネギ陽気攻撃素早振り、アバゴーラ無邪気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ドクロッグ意地っ張りHP攻撃振り、キュウコン臆病特攻素早振り、ロトム(ノーマル)臆病特攻素早振り。カモネギのリーフブレードとフェイントをアバゴーラは耐え、返しの冷凍ビームで確定1発。しかしオーダイルのアクアジェットでとどめ。ドクロッグの2段階上昇不意討ちをキュウコンはギリギリ耐え、乾燥肌補正大文字で一撃。続けざまにロトムも即死。
あつあ通信vol.55、編者あつあつおでん