第73話「ポケモンリーグ2回戦第1試合」
「ポケモンリーグ本選も3日目に突入しました。今日から2日にわたり2回戦を行います。まず128人になりましたが、現チャンピオンのワタル選手にストレート勝ちしたダルマ選手の注目度が急上昇中です。各局テレビカメラにスカウトがわんさか詰めかけています。さあ、そんな中2回戦第1試合が間もなく始まります。選手入場!」
「うわあ、なんだかとんでもないことになってきたな」
実況に合わせ、ダルマは入場した。1回戦とはうってかわってカメラが彼の一挙手一投足を追いかける。対応の違いに戸惑いながらもダルマは歩く。
「おっと、これはビックリ。2回戦で君と当たるなんてね」
「ボルトさん! あなたも勝ち残ってましたか」
トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマは声をあげた。そしてトーナメント表を確認する。相変わらず他の組み合わせは隠されているが、自分の対戦相手なら分かる。2回戦の相手はボルトだ。
「当然だよ。工場の宣伝のためにも、なるべく勝たないといけないし」
「……けど、服に広告を貼りまくるのはどうかと思いますよ」
ダルマはボルトを指差した。彼は作業服を着ているのだが、あちこちに「世界を揺さぶる発明、ボルト製作所」と書かれたアップリケを縫いつけてある。呆れたことに、電話番号や料金体系まで書いてあるものもある。しかしボルトは気にせず話を進めた。
「気にしない気にしない。さて、そろそろ始めましょうか審判さん」
「了解。ではこれより、ポケモンリーグ本選2回戦第1試合を始めます。対戦者はボルト、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「……行くぞオーダイル!」
「仕事だランターン!」
2回戦の幕が開いた。ダルマの1番手はオーダイル、ボルトはランターンである。
「さあ2回戦が始まりました。ダルマ選手はオーダイル、ボルト選手はランターン。共に1回戦と同じ出だしです」
「ランターンか、厄介なポケモンだな」
ダルマは図鑑をチェックした。ランターンはチョンチーの進化形で、高い体力とタイプ構成が特徴的だ。水タイプと電気タイプを兼ね備え、特性で電気タイプが無効。故に水タイプと電気タイプに滅法強い。似たような性能のポケモンがいるが、そのポケモンを完封することも可能だ。
「ちょっとオーダイルは面倒だねえ。よし、まずは10万ボルト!」
「やべ。戻れオーダイル、キマワリ!」
バトルの歯車が動きだした。まずダルマはオーダイルとキマワリを交代。いつものようにこだわりメガネを装備している。一方ランターンは10万ボルトで攻めた。しかし、キマワリは余裕綽々の表情でこれを受けとめる。ボルトは至って普段通りに指示を送る。
「やっぱりいたね、キマワリ。しかし晴れてなければ怖くないさ。冷凍……」
「それはどうでしょう。キマワリ、リーフストーム」
なんと、キマワリがランターンより先に技を使ったではないか。キマワリは尖った葉っぱを嵐のように飛ばし、技を使おうと隙だらけのランターンに襲いかかった。さすがこだわりメガネは伊達ではなく、直撃を受けたランターンは崩れ落ちる。
「ランターン戦闘不能、キマワリの勝ち!」
「おいおい……ランターンより速いのかよあのキマワリ」
「これでも速さは限界まで鍛えてますからね」
ボルトの驚く様を見て、ダルマは胸を叩いた。ボルトはまごついて次の手を考える。
「なるほど。参ったなあ、僕電気タイプと水タイプしかいないんだよね。てなわけでピカチュウ、頼んだよ」
ボルトはランターンを戻すと、2匹目のポケモンを投入した。ギザギザ尻尾に赤いほっぺたのポケモンである。
「ボルト選手、2匹目はピカチュウです。中々テレビ受けするポケモンを出してきました」
「ピカチュウ? あえてライチュウを使わないってことは……」
ダルマは図鑑を眺めた。ピカチュウは既に進化したポケモンである。別世界では大人気で、とあるポケモンに責任を押しつけたりもする。責任を押しつけられたポケモンは出番がなくなるらしい。これでもかと言う程強化され、決定力は非常に高い。ただし装甲は紙同然である。
「僕はピカチュウを3匹持ってるんだけど、この子はそのうちの1匹、物理寄りの二刀流さ。ではさらばキマワリ、めざめるパワー!」
「なんのこれしき、もう1度リーフストーム!」
バトルはピカチュウが冷気のこもったエネルギーを放つことで再開した。多少疲れがたまったのかキマワリはめざめるパワーを被弾するものの、歯を食い縛りこれを耐える。そして2度目のリーフストームを撃った。ピカチュウは予想以上に脆く、特攻の下がったキマワリの攻撃であっけなく気絶してしまった。
「……ピカチュウ戦闘不能、キマワリの勝ち!」
「あちゃー、これはもしや、僕の負け決まっちゃった? ……いや、人間もポケモンも諦めの悪さが肝心だ。だから僕はこいつに賭けるよ、ヌオー!」
ボルトはふてぶてしく笑った。そして最後のポケモンを送り出す。登場したのはずんぐりむっくりな体型をしているヌオーだ。首から何かの木の実がぶら下がっている。
「ボルト選手、最後の1匹はヌオーです。果たしてこの状況を覆すことはできるのでしょうか」
「……やってみせるさ。幾度となくピンチを切り抜けてきたんだ。キマワリはリーフストームを連打してかなり特攻が下がっている。そこを狙えば勝機はある」
ボルトはダルマの出方を伺った。ダルマはヌオーの木の実に警戒したが、そのままごり押しを進めた。
「そうはいきませんよ。見映えはしないけど、とどめのリーフストーム!」
「ふっ、そのくらい……な、これは!」
キマワリは3発目のリーフストームを使った。ところが、既に特攻がガタガタにもかかわらず最初と同じ勢いで葉っぱが舞い散るではないか。ここでヌオーの木の実がいくらかその力を軽減したが、最早焼け石に水。切り裂かれたヌオーは顔色1つ変えずに倒れた。
「……ヌオー戦闘不能、キマワリの勝ち! よって勝者はダルマ選手!」
「よし、2回戦も突破だ!」
「ダルマ選手、危なげなく2回戦も勝利。これは本当に最後まで勝ち残るかもしれません。2試合連続ストレート勝ちは中々できませんからね」
実況がスタジアムにこだまする中、ダルマはガッツポーズを取った。その瞬間シャッターの音が鳴り響く。ダルマは目を細めながらボルトの元へ歩み寄った。
「いやあ、さすがダルマ君だ。全くかなわなかったよ」
「ありがとうございます。けど今回はタイプ相性があったからなんとも言えないですよ」
「なるほどね。しかし最後のリーフストームは何故あんなに強かったんだろ?」
「……多分それはヌオーの特性が天然だからじゃないですか? もしそうならこちらの特攻ダウンもないものとして扱われちゃいますから、リンドの実を使っても耐えなかったのはうなずけます」
ダルマがそこまで説明すると、ボルトは舌を巻き拍手をした。その顔は実にさわやかなものである。
「かー、あれだけで色々分かるものなんだねえ。こんなにお勉強してる人にはそりゃ勝てないよ。……ダルマ君、君なら優勝できるかもね。僕からはこの言葉を餞別として送るよ、『ピンチの時こそふてぶてしく笑え』」
「……ボルトさん、その言葉、胸に刻んどきましたからね」
ダルマはそう言うと、ボルトと握手を交わした。すると観客席から惜しみないスタンディングオベーションが送られるのであった。
・次回予告
ダルマの勢いはとどまるところを知らない。次の対戦相手は彼を止めることはできるのか。次回、第74話「ポケモンリーグ3回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.54
最近ダルマが無双しているのは、たまたまです。どうしても活躍するポケモン、しないポケモンの差が出てきますが、そこはどうしようもないです。
そういえば、オーダイルは冷凍パンチとアクアジェットを両立しています。これは実現可能ですが、教え技必須です。特にBWではHGSSから冷凍パンチを覚えた親が必要となります。
ダメージ計算はレベル50、6V、ランターン穏やか特攻特防振り、キマワリ@こだわり眼鏡臆病特攻素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ピカチュウ@電気玉せっかち攻撃素早振り。キマワリはランターンより速く動け、リーフストームで確定1発。ピカチュウのめざ氷をランターンの10万ボルトと合わせて確実に耐え、2段階ダウンリーフストームで確定1発。ヌオー@リンドは4段階ダウンリーフストームで確定2発。まあ、ボルトのヌオーはてんねんの特性なので、通常威力で撃てるのですが。しかしさすが太陽神、晴れてなくても無敗記録を維持したぜ!
あつあ通信vol.54、編者あつあつおでん