第72話「ポケモンリーグ1回戦第1試合」
「さあ、ポケモンリーグ本選がいよいよ始まります。各地のジムを攻略するという形で予選が行われ、256人の精鋭が勝ち残りました。全国中継される中、彼らは常に注目されています。スカウトもあちこちにいるはずです。果たして今回の優勝に輝くトレーナーは誰なのでしょうか? では1回戦第1試合に出場するトレーナー2人の入場です!」
「……行くぜ、俺達の檜舞台に!」
実況の声に促され、ダルマは戦いの舞台に乗り込んだ。セキエイ高原のスタジアムは超満員だ。皆全国からの猛者を今か今かと首を長くしている。スタジアムには巨大モニターがあり、半分をトーナメント表が占めている。観客には困ったことに、トーナメント表には今から行う試合、つまり1回戦第1試合の組み合わせしか表示されていない。
「1回戦からダルマ君とか。これは気が抜けないなあ」
「……な、な、何故ワタルさんがいるんですか!」
トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマはトーナメント表と目の前にいる人物を何度も見比べ、目を点にした。彼の対戦相手はワタルである。ワタルはいつものように時代錯誤甚だしい服装で立ちふさがる。
「実はね、チャンピオンロードを突破して受け付けをしたのが255人しかいなかったんだ。そこで最後の1人の代役として、現チャンピオンの僕が参加することになったのさ」
「……次の大会は128人に戻した方が良いかもしれませんね」
「全くだよ。それじゃ、そろそろ始めようか」
ワタルはボールを手に持つと、審判に目配せをした。審判はそれに気付くと、試合開始の号令をかける。
「これより、ポケモンリーグ本選1回戦第1試合を始めます。対戦者はワタル、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「ギャラドス、出番だ!」
「ゆけ、オーダイル!」
ワタルとダルマは同時にポケモンを繰り出した。ダルマの初手はオーダイル、ワタルはギャラドスである。バトルに使うフィールドは角張った岩石がそこら辺にある、荒れたものだ。
「さあ、バトルが始まりました。ワタル選手の1番手はギャラドス、ダルマ選手はオーダイルだ。レベルはどちらも50ですね。尚、選手のポケモンには専用のチップが取りつけてあり、強さの目安をレベルとしてモニターに表示しています」
実況の説明でテレビカメラがモニターを捉えた。トーナメント表の右隣に選手名、残りポケモン、現在戦うポケモンのレベルが映されている。しかし勝負に影響するのか、さすがに能力は一切分からない。
「まずは竜の舞いだ!」
「ならばこちらはつるぎのまい!」
そうこうするうちにバトルが動きだした。オーダイルは戦いの舞いを踊り、ギャラドスは跳ねる。ギャラドスの竜の舞いはコイキングのはねるに匹敵する程間抜けな様子だ。観客席から爆笑が巻き起こる。
「先制攻撃だ、地震!」
「負けるな、いわなだれ!」
能力を上げた後は、両者攻撃に移る。まずギャラドスが尻尾で地面を叩き、地を這う波を一直線に飛ばした。それに対しオーダイルは懐からオボンの実を取り出し、腹ごしらえ。そして周囲の岩という岩をギャラドスに投げつけた。ギャラドスは6.5メートルもの巨体である。次々に襲いかかる砲弾にたまらず気絶した。これがまた観客席のツボを刺激する。
「……ギャラドス戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「おーっと、ここで大波乱だ! 緒戦を制したのはダルマ選手、ワタル選手を力で押し切りました!」
「くっ、さすがに元チャンピオンに勝つだけのことはある。けど、これならどうかな? カイリュー!」
ワタルはギャラドスを引っ込めると、2匹目を場に送り出した。現れたのは、色々な意味で彼の象徴と言えるカイリューである。
「ワタル選手、2匹目に投入したのは切り札のカイリュー。ここを勝負所と判断したのでしょうか」
「これ以上好きにはさせないよ、竜星群!」
カイリューは出てきて早々勝負にきた。スタジアム中に響く咆哮をあげると、空から火のついた岩石が雨のように降り注いだ。狙われたオーダイルは何発も受けるが、すんでのところで踏みとどまった。とはいえ、肩で呼吸をする程ダメージが蓄積しているようである。
「……よし、よく耐えた。返しの冷凍パンチ!」
カイリューの攻撃をしのいだオーダイルは、カイリューに捨て身で近づき冷気を込めた右手拳を腹に差し込んだ。カイリューの顔色はみるみる青くなり、歯をがたがたさせながら倒れた。これにはワタルも叫ばずにはいられない。
「カイリュー!」
「……カイリュー戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「ななな、なんということでしょう。現チャンピオンのワタル選手、オーダイルの前に2匹を落としてしまいました! ダルマ選手、あと1匹倒せば1回戦勝利となります」
さっきまで笑い声の絶えない観客席だったが、ここにきて静まり返った。ダルマは不敵な笑みを浮かべながらワタルの3匹目を待ち構える。
「へへ、マルチスケイルじゃなかったらカイリューだって一撃ですよ」
「ま、まさか立て続けにやられるとは。……最後の1匹、ダルマ君の控えを考えるとこいつかな。プテラ、任せたぞ!」
ワタルは祈るように最後のボールを投じた。甲高い鳴き声と一緒にプテラが空中を舞う。
「ワタル選手、最後のポケモンはプテラです。このポケモンに全てを託します」
ダルマはそっと図鑑をチェックした。プテラは化石から蘇ったポケモンで、ポケモン全体でも屈指の素早さを持つ。決定力自体は大したことないが、先手でステルスロックを撒くなどの仕事をこなす。稀ではあるが、寝言でふきとばしと吠えるを引き、まきびし等のダメージを稼ぐ戦い方もある。
「プテラ、ストーン……」
「隙あり、アクアジェットで終わりだ!」
プテラが技を使う前に、ダルマは素早く指示を出した。オーダイルは全身に水をまとい、弾丸としてプテラに突進。激流の如し攻撃でプテラの体力を削りきり、何もさせずにダウンさせた。スタジアムがしばし沈黙に包まれる。
「……プテラ戦闘不能、オーダイルの勝ち! よって1回戦第1試合の勝者はダルマ選手!」
「よっしゃ、まずは1回戦突破だ!」
「これは現実なのでしょうか……。現チャンピオンのワタル選手が無名のトレーナーにストレート負け。ダルマ選手、もしかしたら彼は今大会のダークホースかもしれません」
審判のジャッジが下ると、観客席はどよめいた。実況もスタジアムやテレビに驚きを隠せないようだ。実況の戸惑いがスピーカーを通じて聞こえてくる。
そんな中、ガッツポーズを取っていたダルマにワタルが近寄ってきた。
「さすがだね、ダルマ君。やはり初めてセキエイに来た頃より格段と強くなってたよ」
「いやあ、それほどでも。……けどこうなれたのは、今思えばワタルさんががらん堂討伐に誘ってくれたからです。ついでにコガネからの救助も助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。……僕に勝ったことで注目度が増すとは思うけど、2回戦も頑張ってね。君なら優勝できるさ」
「はい!」
ダルマとワタルはがっちり握手を交わした。この姿を撮ろうと、テレビカメラはもちろんカメラが一斉にスタジアム中央を狙う。カメラのフラッシュはしばらく途切れることはないのであった。
・次回予告
観客から見れば大番狂わせとなった1回戦第1試合。これを制したダルマは、勢いそのままに次の試合に臨むのであった。次回、第73話「ポケモンリーグ2回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.53
ドラクエモンスターズというゲームを昔やってた時、モンスターの性格を変えるために「冒険談」のようなアイテムを使っていました。このようなアイテムがポケモンでもあれば良いなあとは思うのですよ。
ダメージ計算はレベル50、6V、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ギャラドス陽気攻撃素早振り、カイリュー控えめHP特攻振り、リザードン陽気攻撃素早振り。オーダイルの1段階上昇岩雪崩でギャラドスを低乱数1発。カイリューの竜星群はオボン込みで乱数で耐えます。しかしギャラドスの攻撃でオボンが発動しなければ終わります。カイリューは冷凍パンチで言わずもがな。リザードンは1段階上昇激流アクアジェットで確定1発。カイリューはトウサさんのやつと努力値が被るので逆鱗型でも良かったのですが、描写が思いつきませんでした。
にしても公式絵見る限り、何故ギャラドスがイワークより小さいか分からないです。
あつあ通信vol.53、編者あつあつおでん