第71話「到着」
「や、やっと着いた……。チャンピオンロードを抜けてからも中々長いな」
太陽が帰宅する頃、ダルマはセキエイ高原にあるポケモンリーグ本部前にいた。彼の後ろには数キロメートルに及ぶ道があり、さらに後ろには大きな洞窟がある。チャンピオンロードのことだ。ダルマは汗を拭いながら深呼吸をした。
「とにかく、受け付けをしないと」
ダルマは本部の建物に入り、所定の受け付けに足を運んだ。
「すみません、ポケモンリーグの出場申し込みをしたいのですが、まだできますか?」
「ええ、できますよ。ではバッジを提出してください」
ダルマは受け付けの男にワタルの許可証を見せた。受け付けは一瞬面食らった様子だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「こ、これはワタルさんの許可証ですか。……確かに確認しました。これで参加選手は255人目。それでは宿舎に案内するのでついてきてください」
「ここがあなたの部屋となります」
宿舎の3階にある355号室。ダルマはこの部屋の前に案内された。他の部屋は既に埋まっているらしく、中から物音が聞こえてくる。しかし、廊下をうろつく人は全くいない。ダルマは首をかしげながらも部屋に入室する。
「今日から大会が終了するまで、大会の公平性を保つために他の選手との接触は禁じられます。あらかじめご了承ください。では、ごゆっくりどうぞ」
受け付けはお辞儀をすると、静かに持ち場へ帰っていった。ダルマは荷物を置き、ベッドに腰かける。
「やれやれ、久々に屋根のある場所で眠れるぞ。コガネからセキエイまでの半月以上の道のり、恐ろしいものだったなあ」
ダルマは外を眺めた。日はとっぷり落ち、藍色と紺色の微妙な色合いが空を染めている。彼は冷蔵庫からミックスオレを取り出し、喉を鳴らした。
「コガネからワカバに戻って挨拶回りしてたら、父さんはもう出発しただって。相変わらずせっかちだな」
1人しかいない部屋でダルマは苦笑いした。この部屋にあるのはベッド、机、椅子、テレビ、風呂、パソコンだ。驚くことに、ポケモンを回復させる機械も完備している。これが、ここをポケモンリーグの宿舎だということを思い出させてくれる。
「ワカバからセキエイまでの道も中々手強かった。トレーナーの数も野生ポケモンも多いし、何より長い。最後の難関チャンピオンロードよりきつかったはずだよあれ。トレーナーがいないだけまだ楽だよ。しかし、俺で255人目ということは、まだ1人来る可能性があるのか。締切は今日までなんだけどなあ。そして明後日から1回戦、誰と戦うんだろ」
ダルマは何気なしにテレビの電源を入れた。映画をやっている。1人の青年と老博士が時代を超えて大活躍するという内容だ。ダルマは今回の旅に思いをめぐらした。
「思えば、普通とはだいぶ違う旅だったよなあ。ゴロウやユミと出会ったところまではどこにでもいるトレーナーだった。けどトウサさんと知り合ってからは大変。乗ってる船を爆破されたり濡れ衣を着せられたり、しまいにはがらん堂の討伐をしてトウサさんの真実に迫った……。本当にこれで良かったのかな、もっと良い選択肢はなかったのか?」
ダルマはしばし唸った。それから目を細める。彼の視界にポケモンリーグのトーナメント表が飛び込んできた。トーナメント表には名前の代わりに部屋番号が使われている。これを見てダルマは吹っ切れたのか、伸びをする。
「……うーん、悩んでも分からないものは分からない! それよりは今に集中だ。俺の試合はっと……げ、初日の第1試合かよ! こうしちゃいられない。さっさと寝て本番に備えないと」
ダルマはトーナメント表をチェックして目を丸くした。ミックスオレを飲み干して歯を磨くと、おとなしく眠りにつくのであった。
・次回予告
待ちに待ったポケモンリーグ。1回戦第1試合はダルマの晴舞台となった。彼の前に立ちふさがるのは……。次回、第72話「ポケモンリーグ1回戦」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.52
チャンピオンロードなんてなかった。本当は書こうとは思ったのですが、宿舎の方が書きたくなったのでこんな話に。今考えると、ダルマはポケモンリーグに出場するために旅立ったんですよね。書き始める前から流れは決まってましたが、まさかがらん堂にここまで話を割くとは思いませんでした。
さて、いよいよ次回からポケモンリーグ1回戦。未だ対戦相手の候補がいないですが、なんとかなりますよね。またダメージ計算で文量が減るとは思いますが、ご容赦ください。
ちなみに、作中の映画、皆さんわかりましたか? 正解は「バックトゥーザフューチャー」でした。
あつあ通信vol.52、編者あつあつおでん