第67話「最後の決戦後編」
「なんだ、まだアリゲイツのままか。大成しないのは持ち主と一緒か」
「むむ、それはどうですかね。俺もこいつも着実に成長してますよ」
ダルマの4匹目のポケモンはアリゲイツだ。頭のとさかも今晩はよくとがっている。晴れているせいか、そこまで元気というわけではなさそうだ。
「……んなもんどうでも良い。大事なのは勝敗だ。ソーナンス、カウンターだ」
「隙あり、つるぎのまい!」
勝負が再び動きだした。ソーナンスは先程のように頭を反らし、アリゲイツの攻撃に備える。しかしアリゲイツはソーナンスを尻目に戦いの踊りを舞った。その結果、アリゲイツからやる気がみなぎってきた。サトウキビは舌打ちしながら次の手を考える。
「ちっ、読み外したか。俺も衰えたものだ」
「アリゲイツ、冷凍パンチだ!」
ここでアリゲイツは右腕に冷気をため込み、ソーナンスを殴りつけた。カモネギの攻撃でダメージを受けていたこともあり、ソーナンスは苦渋の表情でこらえている。だが健闘むなしくも倒れこんでしまった。
「……2匹やられたか。ソーナンスがやられた以上、こいつも仕事がなくなったな。行くぜダグトリオ」
サトウキビはソーナンスをボールに戻し、4匹目のポケモンを繰り出した。頭を3つ持ち、床に穴を開けている。
「な、なんだあれは。床に穴掘ってるぞ」
ダルマは図鑑をチェックした。ダグトリオはディグダの進化形で、驚異的な素早さを持つ。特性のありじごくはポケモン交換を封じる厄介なもので、地面タイプという都合上電気タイプを狩るのが得意だ。ある技を用いればダグトリオ1匹で全てのポケモンを倒すことも可能である。ダルマはアリゲイツに指示を出した。
「地面タイプか、ならあれが効くな。アリゲイツ、新技アクアジェットだ!」
「甘いな、ふいうちを食らえ」
先手を取ったのはダグトリオだ。ダグトリオはアリゲイツの死角まで床下を移動し、そこから頭で突いた。一方アリゲイツは体中に水をまとい、高速でダグトリオに体当たりした。ダグトリオは潜ってやり過ごそうとしたが、間に合わない。その一撃でのびてしまった。サトウキビは感心しながらダグトリオをボールに回収する。
「晴れ状態の水タイプの技で一撃か。さすがに予想外だぜ」
「よし、やっと4対3に持ち込んだ。これで……あ、アリゲイツ?」
突然、アリゲイツからまばゆい光が溢れてきた。光に覆われたシルエットはみるみるうちに大きくなり、光が収まった時には別のポケモンがいた。アリゲイツより一回りは大きく、手足や尻尾は太くなっている。ダルマは感慨深くそれを眺めた。
「ふん、またしても進化しやがったか。どこまでも悪運の強い奴め」
「……アリゲイツ、やっとオーダイルになったな。さあサトウキビさん、これで俺には百戦錬磨の相棒が揃いましたよ。どんなに追い込まれようと、必ず俺は勝ちます!」
「……その言葉に二言がないのを望むばかりだ。スターミー、もう一息頼むぜ」
サトウキビは1度引いたスターミーをもう1度送り出した。キュウコンの攻撃の影響か、本調子とは程遠い様子である。ダルマは自信満々にオーダイルに命令した。
「アクアジェットで仕留めるんだ!」
「それくらい耐える、重力を強くしろ」
機先を制したのはオーダイルだ。動きの鈍いスターミーに猛スピードで突っ込む。スターミーも負けじと辺りの重力を強くした。ダルマやオーダイルは体が重くなったが、その勢いはもう止められない。
「くそ、まだ倒れないか。オーダイル、今度こそ決めろ!」
オーダイルは続けざまにアクアジェットを使い、ようやくスターミーをダウンさせた。サトウキビはスターミーをボールに収め、5匹目のボールに語りかける。
「あと2匹。このようなポケモンにこうも押されるとは。だがこいつの前ではそれも無意味……出番だカイリュー!」
サトウキビが全身全霊で投げ込んだボールから出てきたのは、ダルマもよく知るあのポケモンだった。ダルマは思わず後ずさりする。
「か、カイリューだって!」
ダルマは伏せながら図鑑を見た。カイリューはハクリューの進化形で、攻守にわたり高い能力を備える。素早さが控えめなのが玉に瑕だが、それを補い余りある程の技レパートリーがあり、どんな戦い方もできる。
「食らいな、ぼうふう攻撃」
「負けるなオーダイル、必殺冷凍パンチ!」
カイリューが先に動いた。背中にある翼で、嵐を思わせる暴風を発生させたのだ。オーダイルは重力と暴風に悩まされながらも着実に前進し、なんとかカイリューに迫る。そして冷凍パンチをたたき込んだ。カイリューはそのまま倒れ……なかった。驚くべきことに、冷や汗こそ流しているがまだカイリューは戦える様子だ。
「ど、どうなってるんだ。つるぎのまいを使って弱点の冷凍パンチを放ったというのに、倒れないだと……」
「……ふははははは。これぞカイリューの特性、マルチスケイルの為せる力だ」
「マルチスケイル? 聞いたことないぞそんな特性」
ダルマは不測の事態に困惑を隠せない。サトウキビは勝ち誇った表情でダルマに説明した。
「おやおや、不勉強な奴め。マルチスケイルは、体力が満タンの時受けた技のダメージを減らす特性だ。大概のドラゴンタイプは低威力の氷技でも致命傷となるが、これがあればそのようなことは起こらない。……これで分かっただろう、お前さんは俺には勝てねえのさ! しんそくを使え!」
カイリューは目にも止まらぬ速さで回転しながら、オーダイルの懐をドリルのようにえぐった。連戦によるダメージがたたり、オーダイルは気絶した。ダルマは思い切り叫ぶ。
「う、うおおおおおおおおおおおお! オーダイルううう!」
「さて、後の3匹は何が出てくるんだ? 骨のあるポケモンなら助かるのだがな」
サトウキビは余裕綽々という言葉を体現したような状態である。ダルマは4匹目のボールを見つめ、手に力を込めた。
「……スピアー、お前に全てを託す!」
ダルマは再度スピアーを投入した。出てきた途端ステルスロックが刺さり、痛々しい。
「はっ、遂に万策尽きたか。しんそくで倒すんだ」
「まだまだ、おいかぜを呼べ!」
カイリューはオーダイルの時と同じくスピアーにしんそくで襲いかかった。スピアーは両腕の針でしのぎながら、今一度おいかぜを発生させた。それと入れ代わりに重力が弱まる。
「耐えやがったか、だが同じこと。もう1度しんそく」
おいかぜを使って満身創痍のスピアーに、カイリューはしんそくでとどめを刺した。力なく落ちたスピアーをダルマは引っ込める。
「……スピアー、助かった。お前が体を張って呼び込んだおいかぜ、無駄にはしない。勝つぞキマワリ!」
ダルマは5匹目のポケモン、キマワリに全てを託した。こだわりメガネをかけたキマワリは今宵も煙たい。ここで、サトウキビが初めて意表を突かれた顔になる。
「馬鹿な、キマワリだと! 晴れを使うのはキュウコンだけじゃなかったのか!」
「その通り。これが俺のやり方、おいかぜ晴れパですよ! キマワリ、ソーラービームだ!」
「なんの、しんそく!」
キマワリより先にカイリューがしんそくを決めた。キマワリはそれを余裕で耐え、太陽光線でカイリューを丸焼きにした。草タイプはカイリューに相性がすこぶる悪いものの、オーダイルが与えたダメージを合わせれば突破できる。強敵カイリューが地響きを鳴らしながら地に伏せた。
「……カイリューがやられたか。残るは1匹、向こうにはおいかぜ。それでも俺はふてぶてしく笑ってやるぜ。ニョロボン、これが最後だ!」
サトウキビはカイリューと入れ替えで最後のボールを投げた。現れたのは渦巻き模様のあるポケモンである。
「こ、これがサトウキビさんの6匹目か。一体何をする気だ」
ダルマは慎重に図鑑で調べた。ニョロボンはニョロゾの進化形で、珍しい水と格闘の組み合わせである。攻撃範囲が広い上、物理と特殊の判別がつきにくい。尚、とある理由で分岐進化のニョロトノの使用率が高いため、相対的にニョロボンの使用率は低い。
ダルマは図鑑をポケットに入れると、最後の指示を送った。
「勝利はもらった、ソーラービーム!」
キマワリはニョロボンに狙いを定め、光の束を集めた。そして、それをまとめて発射。ソーラービームはニョロボンはおろかサトウキビをも飲み込む。周囲が真っ昼間の如く輝く中、サトウキビの笑い声のみが響くのであった。
「……ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 全く、やってくれるぜ。まさか、この俺を超えるトレーナーが出てきたとはな。20年も経つと時代は変わるというわけか……」
・次回予告
サトウキビとの決着がついた直後、ジョバンニ達が駆けつけた。そこでダルマはサトウキビの正体を知らされる。あまりに衝撃的な事実に、ダルマは動揺を隠せないのであった。次回、第68話「真相はサングラスの奥に」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.48
この勝負、ソーナンスがカウンターをミスった時がターニングポイントでしたね。なんだかんだでアリゲイツは体面を保ったわけです。
ダメージ計算は、アリゲイツ意地っ張りHP攻撃振り、ダグトリオ陽気攻撃素早振り、カイリュー控えめHP特攻振り、キマワリ臆病特攻素早振り、ニョロボン意地っ張りHP攻撃振り。剣の舞を使ったアリゲイツの冷凍パンチでダメージの蓄積したソーナンスをギリギリ乱数で倒せます。更にダグトリオの不意討ちを余裕で耐え、晴れ状態のアクアジェットでダグトリオを乱数1発。オボンを使ったスターミーに晴れアクアジェット2回で乱数で倒せます。カイリューの暴風は、アリゲイツの時に受けたステルスロックと不意討ちのダメージと合わせても乱数。返しの冷凍パンチはなんと乱数で耐えられ、神速で押し切られます。カイリューの神速とステルスロックのダメージをスピアーは耐えぬき、切り札キマワリのソーラービームで、オーダイルの冷凍パンチが最低乱数でもカイリューを寄り切ります。あとはニョロボンをソーラービームで焼き切るのみ。さすが太陽神、初登場から未だ無敗だぜ!
あつあ通信vol.48、編者あつあつおでん